日本全土には、およそ3000基のダムがあるといわれています。その中で、グローリーホール式の洪水吐を持っているのは、芋洗谷ダムと大関堰とされてきました。 ■本当にこの2つだけなのだろうか? ■実は知られていないだけであって、もう少しグローリーホールがあるのではないか。 ■探してみれば、きっと他にもあるはずだ…。
1.大関堰
ダム便覧が更新されて、ダム便覧2012になりました。この段階で非常に残念なことに、大関堰が便覧から削除されてしまいました。
大関堰のグローリーホール(撮影:だい) 大関堰(おおぜきぜき)は、読み方がユニークであること、グローリーホールを持っていることなど大変特色のあるアースダムでした。しかし、日本ダム協会さんの調査で堤高が8.6mであることが判明し、ダムとしての基準を満たしていないことがわかりました。泣き出しそうなほど悲しいことではありますが、事実は事実です。そこで、大関堰へのいわば弔い合戦として、新たなグローリーホールを探さなければならないと強い義務感を感じました。 なお、大関堰はダムとしては認定されなくなりましたが、ダム便覧保存館「ダム便覧から消えたダム」のコーナーに移動してその姿を見ることができます。
2.深田調整池
深田調整池は、昭和57年に東北農政局が完成させた堤高55.5mのアースダムで、現在は安積疎水土地改良区が管理しています。このダムは、阿武隈川水系多田野川に建設されたものですが、猪苗代湖(阿賀野川水系)から分水嶺を越えて導水し、農業用水として貯水しています。
深田調整池下流面(撮影:ふかちゃん) 下流面から余水吐などの放流設備が見えないため均整のとれた美しい姿になっています。ダムマニアは不思議なもので、宇奈月ダムのように複雑なゲート群を装備しているダムの機能美を褒め称える一方、池原ダムのように本体と放流設備が分離されているダムにもシンプルな堤体美を感じるのです。 深田調整池は、下流面からは放流設備を確認することができないものの、地山のどこかに放流設備があるはずです。ところが、ダム便覧のフォトアーカイブスには、それらしい写真は1枚も登録されていませんでした。
深田調整池(撮影:だい) 現地で、目視した限り貯水池には取水塔のようなものが2つあるだけで、越流堰堤などのようなもの見当たりません。 片道340mもある堤頂部を往復した後、左岸広場にある案内板を確認します。案内板には、余水吐として「竪孔型(グローリーホールタイプ)」が使用されていると記されていました。貯水池にある2つの構造物のうち、1つがグローリーホールであると考えられます。
東北農政局の案内板
余水吐の形式は、竪孔型(グローリーホールタイプ) 後日、管理者に確認すると2つの構造物のうち堤体に近い円筒状の構造物がグローリーホールであることがわかりました。水位が上昇して呑み口にまで達した場合、この部分から余水を吐く仕組みになっているということです。
右側がグローリーホールタイプの余水吐 このグローリーホールの処理能力は、わずか12トン(毎秒)です。巨大な貯水池を目にすると少し不安を感じてしまいます。しかし、貯水量のほとんどは猪苗代湖からの導水であり、ダム自身の流域面積は1.3平方キロメートルに過ぎません。それゆえ、大掛かりな余水吐は必要ないのかもしれません。昭和57年の竣工以来、今日まで何も問題はありません。また、東日本大震災においても大きな被災報告がない事実を省みれば、機能面でも大変優れたアースダムであると評価することができます。
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