この日は、石淵ダムのライトアップが予定されていました。明るいうちに見学場所を確定させます。点灯開始までは、まだ時間がありましたので気になっていた秋田県のダムに向かうことにしました。 石淵ダム付近から、秋田県横手市の相野々ダムまで時間優先でカーナビをセットします。するとナビは、秋田自動車道「湯田」で降りることを指示してきました。目的地に向かうために降りるインターチェンジが「横手」(秋田県)ではなく「湯田」(岩手県)であるということは、このダムが県境の山間部に位置していることを意味します。
1.相野々ダム
相野々ダムは、昭和36年に東北農政局が完成させた堤高40.8mのアースダムです。完成当時、アースダムとしては日本一の堤高を誇るものでした。現在は、秋田県南旭川水系土地改良区が管理しています。 相野々ダムについては、ダムマイスターのふかちゃん氏が、「洪水吐が見つからなかった」とブログに書かれています。全国の半数以上のダムを訪れた方の証言ですから疑いの余地はありません。事前に調べた地形図でも、洪水吐らしいものは確認できませんでした。 横手は、かまくらで知られる豪雪地帯です。その雪解け水を湛える相野々ダムに洪水吐がないということが本当にあり得るのでしょうか。
相野々ダムの取水塔 相野々ダムに到着します。1本のカラフルな取水塔が目に入りました。堤頂付近を見渡す限りやはり洪水吐は確認できません。
現在は倉庫として利用されている建物 右岸側にもカラフルな建物がありました。かつては管理事務所として使用されていたと思われるその建物は無人でした。現在、ダムは遠隔管理されているようです。建物の中には除雪機が置いてあり倉庫として利用されているようです。 地山の裏側に密かにトンネル式の洪水吐が隠されているかもしれません。可能な限り探しましたが、ふかちゃん氏の言うとおり、洪水吐はありませんでした。
最後の可能性として、取水塔を確認してみます。よく見ると、取水塔建屋の下の部分にスクリーンのようなものが設置されていることがわかりました。この日は水位が低いため、取水塔がよく観察できました。水位が上昇して、コンクリートの位置を越えたとき、このスクリーンの部分から溢流して余水を外部に吐き出す仕組みとなっているのかもしれません。
相野々ダムの取水塔の近影 後日、管理者に確認すると、相野々ダムは、取水塔建屋の下部が洪水吐になっているということでした。相野々ダムはグローリーホール式の洪水吐を持っていたのです。深田調整池にあった2つの構造物を1つに合体させたような構造です。取水塔がグローリーホールを兼ねるという極めて合理的な設計となっていました。
2.石淵ダム
石淵ダムの取水塔は、相野々ダムと似た構造となっていました。平面図で見ると六角形の取水塔建屋下部には、各面に赤いスクリーンのようなものが設置されていました。
石淵ダムの取水塔 この日は水位が低いため、取水塔がよく観察できます。水位が上昇してこの鋼製スクリーンの位置まで達すると自動的に溢流するようです。写真をよく見ると、スクリーン下部には土砂が付着しています。水位が高かったときにこのスクリーンから水が流れ出していたことを示すものです。
石淵ダムの取水塔 ほぼ満水時の写真を確認すると、この部分からあたかも溢流を始めそうです。石淵ダム管理支所に確認すると、はやり、この部分は水位の上昇に応じて溢流する構造になっているとのことでした。石淵ダムの取水塔もグローリーホールを兼ね備えていたのです。 石淵ダムの取水塔が持っているグローリーホールは、洪水吐を目的としたものではなく、あくまで利水目的のものであるということです。石淵ダムには、立派な洪水吐がありますので、別段このグローリーホールに洪水処理をさせる必要はありません。この部分から溢流する水量は毎秒15トン程度であるそうです。この水は、発電所を経由して徳水園に送られて行きます。
多くの方がご存じの通り、まもなく石淵ダムは退役します。ダム本体は、胆沢ダムの貯砂ダムとして第二の使命を担うことになります。しかし、取水塔のような突起物は、必ず撤去される運命にあります。早ければ10月1日の午後には、解体作業が完了しているかもしれません。残された期間はごくわずかです。石淵ダムを見学する機会のある方は、近い場所からこの取水塔もカメラに収めてください。
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