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4. 現場で確認した建設時の技術

 建設当時の資料・文献等や排泥管部分の既設堰堤を貫通した際の状況から、当時の工事に関する内容が明らかになった。今回の工事で得られた100年前のコンクリートの配合や物性値等を調査し、コンクリート資料や鋳鉄管についても保存していきたい。

【材料の調達】

セメント
 セメントは、大阪セメント・中央セメント・日本セメントの3社から購入。生田川尻に倉庫を設け、山麓まで簡易鉄軌道を利用しての馬車引き、山麓からは1樽380ポンド(172kg)のセメントを牛馬に積荷して運んでいた。しかし疲労が激しかったため1樽を3分割してズック製の袋に入れて運んだ。これも分割が煩雑で、かつ消失の量が多く、最終的には作業員3人1組として人力により運搬した。セメント樽数はダム本体分で約25,000樽(4,310t)になる。

石材
 石材(割石・粗石)は、型枠用の割石又は粗石は全て現地採取しており、ダム下流109m、右岸山腹及び上流約1.6kmの3箇所が主な採取場所であった。

細祖骨材
 細祖骨材は、粗石を人工的に破砕し、材料を確保した。特に細砂は当初196目フルイ(14メッシュ)により行なっていたが、量の確保が困難であることからフルイ目を8メッシュ(2.4mm)へ、さらに6メッシュ(3.3mm)に順次変更するなど苦労の跡がうかがえる。

コンクリートの配合】

 コンクリートの配合については、止水コンクリートの甲号、本体コンクリートの丙号及び提頂部の丁号の3種類とされていたが、今回の調査で、排泥管付近の戊号コンクリートと監査廊の乙号コンクリートを使用したことが判明した。

 効用別に配合を変えるなど繊細な設計がうかがえる。今回切り取った排泥管付近の戊号コンクリートは目視調査の結果密実で良質なコンクリートであり、粗骨材については人工砕石を使用していることを確認した。また、テストハンマーによる強度試験を実施した結果、特筆すべき高強度であった。


切り出したコンクリート

コンクリート打設

 甲号コンクリートは止水を目的とするコンクリートであり、打設前に配合1:2のモルタルを塗布し、直ちに水量を少なくしたコンクリートを1層18cmとし、1日2回打設した(積石1個分の高さ)。
 丙・丁号コンクリートは提体の大部分を占めるものであり、その施工順序は@15cmの厚さのコンクリートを打設、Aその上に粗石(φ35cm〜φ38cm)を9cmから12cmの間隔を保つように配列、Bその間にコンクリートを充填し、次層との密着を良くするため、粗石の頭部を6cm〜9cm突出させた。Cその上に1日最厚60cmとする最終層のコンクリートを打設、以下3昼夜を経過するごとに、これを繰り返した。

 コンクリートの練り混ぜについては、上流に練り台を4セット設置し手練で行った。また、別に2個の錬鉄製自動混合機(φ45cm、長さ2.1mの円筒内にボルトをらせん状に配置した構造のミキサー)によって行った。

 締固めは千本搗き(φ9cm、長さ1.2m一端に鉄輪を坩入)によりコンクリート表面に少々の水気が現れるまで搗き固めを行った。

 養生は、冬夏にかかわらず筵で表面を覆い、かつ散水を行い湿潤養生をするなど、現在と変わらぬ施工管理を行っている。

【石積目地

 堰堤上流側下部の石積みの目地は特に入念な施工がされている。表面から既存の目地材を剥ぎ取り、新たな特殊な目地材を充填して漏水を防止している。コアの採取により現場で確認された。なお材質については現在確認中である。

【鋳鉄管】

 そのほとんどが外国製であり、鉄管類は三井物産を介して英国DYスチュワード社に、バルブ類は日支レジング商会を介して米国ケネディ社に製造させている。いずれも工事中にはっきり確認された。アメリカ製の制水弁など外国産の鋳鉄管に混じって「神戸石田製」の鋳出しがある国産品を発見した。また、神戸市水道局の6剣水マーク(1898年制定)の鋳出しも確認された。


米国ケネディ社製の制水弁
【揚圧力対策】

 内径1.5インチの鋳鉄管を縦横10尺間隔9段合計157本設置して外面に排水することによって、高い浸透水圧と揚圧力を防ぐことはできると記載されている。この鋳鉄管は掘削途中に発見されイギリス製であることを確認した。


英国D.Yスチュワート社製の鋳鉄管

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