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『黒部の太陽』の感動の波

 ジャーナリスト木本正次の作品『黒部の太陽』(42年刊、信濃毎日新聞社)は、同ダムの着工準備から大町トンネルの破砕帯突破までの人間ドラマを描くノンフィクションで登場人物はすべて実名である。作品の中で、関西電力社長太田垣士郎は断言する。

 「電気は要る。生活のためにも、産業のためにも、空気や水のように要る。それは単なる産業ではないのだ」。この土木文学は、作品発表の翌年である昭和43年に熊井啓監督によって同名「黒部の太陽」(三船プロ・石原プロ、日活)として映画化された。大手建設会社技師を演ずる三船敏郎と、その下請会社の青年技師を演じる石原裕次郎。二人の人気俳優が演じる土木技術者が、陸の孤島ともいえる山岳地で過酷な大自然と闘う姿は感動の波を国内に広げ、多くの観客を動員した。この大作を映画館で見て、ダム技術者を目指した青年は少なくなかった。(今日、この名作が鑑賞出来ないのは残念である)。

 総貯水量約2億立方メートルを誇る黒部ダムの出現は、下流にあたる富山県内の急流河川の流量・流速を著しく変えた。河川の流れを有効利用するために、上流から下流に向って新黒部川第三発電所(運用開始38年)、同第二発電所(41年)が相次いで建設され、さらに音沢発電所(60年)も完成した。河川一貫開発は当初の予定通り完了し、黒部川は黒部ダム貯水位1448メートルから音沢発電所131.1メートルまで1300メートルの落差を最大限活用したピーク発電所群がならぶ代表的「電源河川」となった。

 黒部ダムでは、春から夏にかけての雪融け水を貯水池に貯めて、これを冬場の12月から3月に使用することにより、黒部第四発電所より下流の発電所を有効に活用して、安定した電力供給に寄与している。同ダムの貯水容量は洪水制御など下流域に対する治水効果を発揮しているが、新たな観光資源を生み出し地域経済開発や観光地開発にも貢献していることに注目したい。国内はもとより東南アジアからの観光客も増えている。

 一方、建設省(当時)は44年(1969)の大洪水を契機に、治水・上水・発電を目的とした特定多目的ダムを計画した。この宇奈月ダム(国土交通省、重力式、平成13年)の建設に伴い、柳河原発電所も新柳河原発電所として平成5年に移設され、宇奈月ダムに参加した同発電所も平成12年に完成した。黒部川水系での関西電力の電源開発総量は10発電所で89万700キロワットにのぼり、同社の最高を誇っている。(宇奈月ダムは土砂の大量流入との難問をかかえている)。



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