[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]


■用地職員の心構え

《信頼を得る》
 用地職員は事業者の顔であり、事業者の看板を背負っている。関係者から信頼を得ることが大切。「事業者は信頼できる。事業者の言うこと、やることに間違いはない」と思われるよう、努力しなければなりません。
《お願いする立場》
 お願いする立場であることを忘れてはなりません。事業は、突然事業者の都合でやってくる。水没移転者や地域の都合や要望ではないのです。
《相手の立場に立って》
 相手の立場に立って物事を考える。事業者の理論だけを押しつけてはなりません。関係者の不安、要望を把握できるのは、常に地元に接している用地職員になります。関係者の主張が正しいと思ったら実現するよう努力する。この基準要綱で読めなければ、補償事例を探す。事業者内部全体で検討する。県、市町村、場合によっては地元有力者と相談する。どうしても要望が実現できないなら、その理由を早く明確に説明することが大事です。
 更に、相手の立場に立つためには、相手方に関する情報が必要です。情報を収集するだけでは何もなりません。その情報を分析し、相手がどのようなことを考え、どのような行動にでるかを考え対応することが必要です。そうでなければ解決にはつながりません。
 話しは異なりますが、水没移転者及び水没市町村は被害者意識を強くもっています。ダムが建設されるのは一般的に山間地。ダムができることにより過疎化に一層拍車をかけることになります。しかし、受益地域はその水を享受することにより、産業が発展、人口も増加し、快適な暮らしが可能となる。そのことを念頭に入れておく必要があります。
《地元との約束は必ず守る》
 地元と約束したことは、必ず守る。交渉時間、支払日等のような小さなことの積み重ねが大事。そうしなければ、相手方から信用を得ることはできません。
 そのためには、常に自分を律することが必要です。日頃から出勤時間、会議の時間を守ること。要するに、自分の行動がいかなる結果を招くか考えて行動しなければならないということです。話は少し異なりますが事業者施設の現場視察で事業者職員がタバコを投げ捨てていることを見たことがあります。そうすれば、事業者の管理人が拾わなければならない。一般の施設でも同様です。一般の常識を常に考えて行動しなければなりません。
《現状を疑うことも必要》
 現状を直ちに肯定してはいけません。疑いあるいは否定する。そうでなければ、創意工夫、新しい発想はでてきません。もっとも、相手の意見を否定すれば角が立つので注意が必要です。
《攻めの交渉を》
 守りの交渉では、相手を納得させることはできません。いつも攻めの交渉を行うこと。そのために何が必要か考え準備することです。
 交渉は質(交渉の内容)、量(交渉の回数)とも重要です。どちらが欠けても十分な交渉にはなりません。
《一人一人を大切に》
 100人関係者がいれば我々にとっては、一人の関係者は1/100となるが、関係者からすれば事業者は1/1です。一人の関係者だからといって手を抜いてはいけません。一人に対して手を抜くことによって全体の交渉が難航することになるし、それまでの苦労が水泡に帰すことになってしまうことがあります。
《補償は公正、公平に》
 補償は公正、公平でなければなりません。公正とは交付金、補助金等の税金、ユーザー負担の金を使って仕事をするので当然。公平とは関係者間に不公平を生じてはならない。ゴネ得を許したら、事業者への信頼を一挙になくしてしまう。先に協力してくれた人から反発、不信を招くことになり、それまでの努力が無駄になってしまうからです。
《法・理・情》
  「公共事業は、法にかない、理にかない、情にかなったものでなければならない。」と下筌・松原ダムの室原知幸氏(下筌・松原ダムで展開されたダム建設史上最大の紛争と言われれる「蜂の巣城紛争」の中心人物。氏は13年余りに渡って反対運動を繰り広げ、その後の公共事業の進め方に多大の教訓を残した。)は言った。
  「理解はできても納得できない。」これは、あるダムでの関係者の発言。事業者の説明は頭ではわかる。つまり理解はできる。しかし、承諾するわけにはいかない、即ち印鑑は押せないということです。
 用地交渉で相手に理解させることは重要です。しかし、それだけでは不十分。相手の懐に入り込み、相手を納得させることが重要です。用地交渉は説明、説教とは違う。相手に納得してもらうためには何をすべきか考えて行動しなければならないのです。
《一つ上の立場に立って》
 仕事を行う時は、一つ上の立場に立って、物事を考え、処理すべきです。例えば、係長であれば、課長、課長であれば副所長の立場に立つということです。
 さらに付け加えれば、上司には仕え、部下には信頼されることです。上司に仕えるということは、自分が上司の立場になった場合どう行動するかを考えことです。そう考えれば、上司の意図がある程度は理解でき、上司の意図に沿った行動ができる。また、上司の先手を打った行動をとることができるし、上司から信頼を得ることもできる。そして場合によっては上司を自分の意図に沿って行動してもらうこともできるからです。部下に信頼されるということは公私ともに人から批判されないように、日頃の言動を慎むことが必要です。そして同僚とは日頃から情報交換しておくことが重要です。
《趣味を持つ》
 新聞、本を読む。趣味を持つ。そのことによって人間の幅が広がり、関係者との共通の話題もできます。また、趣味等に没頭することによってストレスの発散になりメンタルヘルスにもつながります。

おわりに

 今の職場は現地を離れていますが、地元の皆さんとの話し合いを懐かしく思い出します。今でもお世話になった方と年賀状のやりとりをしています。年賀状をいただくと、お元気であることがわかり安心し、当時のことを思い出します。補償の仕事は責任が重く、また困難を伴うことが多いので苦労が絶えません。それだけに契約ができた時を喜びは大きいです。しかし、一方、水没移転者の方は、これから住み慣れた故郷を離れ、新しい土地で生活することになります。生活再建が予定通りできるのか心配になります。私の場合、そんな心配ばかりしていて、いつまでたっても本当の喜びが訪れることはないような気がします。それでも、ダムの仕事を通じて多くの人達と巡りあったことは大きな財産です。今でも地元の人達からいただいた暖かい気持ちや叱咤激励を糧に、業務に取り組んでいます。


工事中のダム

[前ページ] [目次に戻る]
[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]