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利水ダムの分類

河川一等兵
 ダムには治水を目的とする多目的ダムや治水ダムと、治水目的を持たない利水ダムがあるのは、皆さんご存知と思います。
 この利水ダムに、分類があることはご存知でしょうか。

 1964年(昭和39年)に河川法が改正され、この時に利水ダムは河川法第44条から第51条において「ダムに関する特則」という条項が設けられました。これは洪水調節機能を持たない利水ダムが大雨などで放流操作を行った際に下流への洪水被害を抑止するため定めた事項であり、言い換えれば利水ダムにおいても洪水防止のための措置を事業者に求めたものです。河川法において「利水ダムを設置する者は、河川の従前の機能を維持するために必要な施設を設け、またはこれに代わる措置をとること」という文言が明記されており、利水ダムだから洪水や放流に対して責務を負わなくても構わないというわけではなくなったのです。

 河川法改正後、この「ダムに関する特則」を実施させるための細則として1965年(昭和40年)2月11日に河川法施行令が発令され、この中で利水ダムはその規模に応じ第1号から第3号までの3種類に分類されました。さらに1966年(昭和41年)5月17日には建設省河川局長通達・建河発第一七八号により、高さ15メートル以上の利水ダムについてその規模に応じ「ダムに関する特則」における運用規定をより細かく定めた通達が出されました。これらの法令により利水ダムは「操作規程」を作成し、それに沿った形でサイレンによる放流予告など洪水時には様々な運用や関係機関への事前通報などを行わなければなりません。この通達の最大の特徴は、河川法施行令とは異なり具体的なダム名を挙げて、第一類から第四類にまで分類していることです。以前掲示板で話題に出た「第一類ダムって何?」という質問は、まさにこの通達のことです。

 ダムの諸元としては重要な項目ではありますが、「隠れキャラ」的な諸元であり未だその全容を掴むことは難しく、(ディープな)ダムマニアからすればダムにおける大きな謎でもあります。そこで今回、確認できる資料を駆使して調べた分類によるダムをご紹介したいと思います。

@「第一類」

 第一類ダムとは「設置に伴い通常時に比べて洪水流下速度の増大などが発生し下流の洪水流量が著しく増加するダムで、結果発生する水害を防止するために増加流量を調節することができると認められる容量をダム湖に確保することで、洪水に対処する必要があるダム。」と定義付けられたダムのことです。要は総貯水容量から有効貯水容量を引いた残りの容量を利用して、大雨の際には洪水を貯水することを求められたダムになります。第一類に該当するダムとしては以下のダムがありますが、人造湖やダム自体が巨大なダムが多いのが特徴です。


奥只見ダム(撮影:安河内孝)
 大夕張ダム、新冠ダム、雨竜第一ダム、雨竜第二ダム、鷹泊ダム、八久和ダム、田子倉ダム、奥只見ダム、須田貝ダム、畑薙第一ダム、井川ダム、佐久間ダム、水窪ダム、御母衣ダム、風屋ダム、二津野ダム、池原ダム、立岩ダム、樽床ダム、王泊ダム、長沢ダム、大橋ダム、大森川ダム、上椎葉ダム、塚原ダム、一ツ瀬ダム、奈川渡ダム、水殿ダム、高瀬ダム、七倉ダム。

A「第二類」

 第二類ダムとは「堆砂によりダム湖上流の河床が上昇したダム、またはダム管理者が貯水池の敷地として所有権を取得した土地面積の広さが十分でないダムで、洪水時にその上流の水位上昇による水害を防止するため、ダム湖の水位を予備放流水位として夏季に事前に放流して水位を下げ、洪水に対処する必要があるダム。」と定義付けられたダムのことです。要は大雨が降りやすい夏季を前にして事前放流を行ってダム湖の水位を下げ、下流だけでなく上流の洪水をも防止することが求められたダムになります。第二類に該当するダムとしては以下のダムがありますが、堆砂が問題になっているダムや一級水系の本流を堰き止めた大正・昭和初期完成の古いダムが多いのが特徴です。


大井ダム(撮影:声姫)
 上郷ダム、新郷ダム、片門ダム、泰阜ダム、平岡ダム、船明ダム、落合ダム、大井ダム、笠置ダム、荒瀬ダム。

B「第三類」

 第三類ダムとは「貯水池の容量に比して洪水吐の放流能力が大きいダムか、あるいは洪水吐ゲートの操作方法が複雑であるダムで、ダム湖の水位を予備放流水位として夏季にあらかじめ放流し水位を下げ洪水に対処することが、水害の防災上において適切と認められるダム。」と定義付けられたダムのことです。要はダム湖の規模はそれほどではなくてもゲートが多いダムや、ゲート操作が難しいダムで必要以上の放流を防ぐため、予備放流を行って下流の洪水被害を抑えることが求められたダムになります。第三類に該当するダムとしては以下のダムがありますが、やはりゲートの多いダムが名を連ねています。


畑薙第2ダム(撮影:さんちゃん)
 山郷ダム、上野尻ダム、豊実ダム、鹿瀬ダム、揚川ダム、只見ダム、滝ダム、本名ダム、上田ダム、宮下ダム、柳津ダム、平出ダム、中之条ダム、高津戸ダム、黒坂石ダム、黒部ダム(栃木県)、中岩ダム、生坂ダム、平ダム、水内ダム、笹平ダム、小田切ダム、畑薙第二ダム、奥泉ダム、大井川ダム、千頭ダム、大間ダム、寸又川ダム、笹間川ダム、 赤石ダム、浜原ダム、夜明ダム、瀬戸石ダム、菅平ダム、稲核ダム、穴藤ダム、宮中ダム、薮神ダム、二居ダム、湯の瀬ダム。

C「第四類」

 第四類ダムとは「ダム湖の水位を常時満水位として洪水に対処しても、放流による流域への影響がなく水害の防災上支障がないダム。」と定義付けられたダムのことです。第四類に該当するダムとしては以下のダムがありますが、下流に人家や田畑がない山奥のダムや、純揚水発電式のダム、あるいは農業用ため池などが多いのが特徴です。また『静岡県水防計画書』を見ると、治水目的を有する多目的ダムや治水ダムは全て第四類に属しているので、最初から治水目的を持つダムは恐らく日本全国の全ダムが第四類の可能性があります。


間瀬ダム(撮影:安河内孝)
 聖台ダム、大鳥ダム、赤三調整池、玉原ダム、神水ダム、大津ダム、白砂ダム、中木ダム、小森ダム(群馬県)、丸沼ダム、鹿沢ダム、鍛冶屋沢ダム、寺沢ダム、早川ダム、間瀬ダム、 赤川ダム、土呂部ダム、逆川ダム、西古屋ダム、真壁ダム、鳴沢ダム、丹生ダム(群馬県)、大塩ダム、竹沢ダム、牛秣ダム、大谷ダム(群馬県)、白石ダム、田代ダム、境川ダム(静岡県)、長島ダム、大代川防災ダム、原野谷川ダム、東富士ダム、奥野ダム、青野大師ダム、太田川ダム、丹野ダム、新豊根ダム、都田川ダム、セバ谷ダム、渋沢ダム、野反ダム、高野山ダム、カッサダム、カッサ川ダム、 黒又ダム、黒又川第一ダム、黒又川第二ダム、浅河原調整池。

 以上がいわゆる第一類から第四類ダムの内容と、指定されたダム一覧になりますが、秋葉ダムなど一部のダムは当初第一類だったのが現在は第三類に変更されているため、ここに挙げたダムの中には分類が変わっているのもあるでしょう。それと、「あれ、黒部ダムや小河内ダム、奈川渡ダムの名前がない」とお気づきの方も多いでしょう。そう、色々と調べた範囲ではこれが限界でした。恐らく第一類であろう黒部、小河内、奈川渡、有峰、新成羽川、魚梁瀬などの1億トンを超える利水ダムがどの分類に属しているかは、分からないままでした。治水にかかわる重要な諸元でありながら、厚いベールに包まれているのが「利水ダムの分類」ことに河川局長通達におけるダム分類の最大の問題です。

 平成18年7月の長野県における豪雨、あの「脱ダム宣言」で物議を醸した田中康夫長野県知事(当時)を失脚に追い込んだ豪雨災害において、奈川渡・水殿・稲核・高瀬・七倉の発電用ダム群は大町ダムと連携して犀川の洪水被害を食い止めたという実績がありますが、これは「ダムに関する特則」に沿った操作規程を忠実に行った結果の殊勲です。「利水ダムだって洪水の時には頑張っているんだよ」ということを広く一般に知ってもらうためにも、この分類は「隠れキャラ」ではなくもっと情報公開してもよいのではないでしょうか。

 関係する皆様には是非御一考頂きたく思います。ダム反対派による云われなき誹謗・中傷からダム事業を守るためにも・・・。


参考文献:『建設省河川局長通達建河発第一七八号』、『阿賀野川水系河川整備基本方針』、『利根川百年史』、『静岡県水防計画書』

(2011年6月作成、2013年4月修正)
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