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治水雑感

これは、本田典光様の投稿です。

1.なぜ氾濫原に住むのか

  • なぜ、人間は災害に遭いやすいところに住むのか
  • 分家は金がないから本家より災害に遭いやすい場所に住むのか
  現代の日本人の多くは、河川の氾濫原である沖積平野に住んでいる。河川が氾濫する可能性のある場所に住まなければ洪水被害にあうこともないはずなのになぜ住むのだろうか。
 縄文時代、水の利用は主に飲料水であったため、川から離れた洪水リスクの少ない土地を移動する生活であったと思う。しかし、稲作がおこなわれるようになる弥生時代になると稲作のため水辺に定住する必要があった。時代が移っていくと人々の水利用は拡大しつづけ、治水に力を注ぎながら氾濫原に定住することになる。
 また、日本人の基幹農業である稲作は、現代の大規模な機械化に成功するまで、人力にたよった農作業を展開していた。そのため稲作には人間が組織的に作業しなければならず、その労働力は血縁でつながれていた。本家は自家周辺に労働力としての血縁者を住まわせ共同体として稲作をおこなう時代が長く続いた。当然、本家は一番洪水のリスクの少ない場所に住居を構えた。分家は本家よりちょっとリスクがある土地に、また、その分家はより洪水リスクが高い危険な土地に住宅をかまえることになるが、家を持てるだけ幸せで、本家の使用人、屋敷内で農奴のような立場で一生を終える人もいた。そういった状況は稲作という共同作業ではやむを得ないことで、当時の人々は当然のこととして受け入れていた。
 そんな社会で洪水が発生した場合、本家まで被害が及ぶような洪水であれば、地域全体が洪水被害を受ける大災害である。一部の分家が被害にあうような洪水被害の場合は、単に洪水が堤防(築堤・自然堤防を問わない)を越水したことによる災害であり、そんな状況を人間の不注意や怠慢で発生する災害、いわゆる人災といっている識者もいるが、人災として定義できるようなものではないと思う。
 また、現代の稲作ように田に肥料を豊富に投入できなかった時代では、洪水の氾濫によってもたらされる土砂に含まれている養分も重要な田の肥料になっていた。越後平野の中央部に広がる亀田郷は、戦後まで湿田(深田)で稲作をおこなってきたが、田の肥料として鳥屋野潟、焼島潟、栗ノ木川、信濃川などから川底の泥を採取して堤防法面などで発酵させ、翌春に客土して田の肥料としていた。

2.洪水への対応

  • 現代でも洪水対応として高盛土を造成すべきか
 平成16年7月に発生した新潟・福島豪雨で、新潟県内は大きな被害を受けた。ある地域の旧家では昔(江戸時代)、治水施設が貧弱だったことから水害が頻発しており、その対応として住居部分の地盤を高く(盛土)して自宅を建築したほか、自宅が浸水したときに避難する倉(水倉)までも作った。そのことでその旧家は、今回の新潟・福島豪雨で浸水を免れた。昔の人の洪水に対する知恵のたまものといってもいいと思う。
 しかし、その旧家と同じ地域に近年建設された工場は、新潟・福島豪雨で1階部分が浸水して数十億円の損害があったそうだ。そのことから、「工場も盛土をしていれば損害を最小限に出来たのではないか。なぜ、その地域の災害の履歴を学ばなかったのか。」という識者の声を耳にした。考えてみると旧家の盛土は江戸時代に設置されたもので、当時は貧弱な治水施設しかなく、毎年数多くの洪水被害が発生する状況だったはずである。その多くの洪水に対する自己防衛の対策として盛土や水倉を設置したものである。
 翻って現在は、河川堤防の整備が進み洪水による被害がほとんど発生することがない
状況である。そういった中で地域の災害の歴史から盛土をすべきであったという意見を言うのは江戸時代と現代の治水施設の比較からいかがなものかと思う。ただし、その旧家だけでなく近年建設した地域の住宅や工場などの建築物の多くが盛土していれば、その工場も盛土をすべきという意見があっても、もっともであると思う。

「信濃川下流域情報アーカイブ 川と水害 過去の水害(横田切れ等)での被災状況と水害に対する先人の働き」より


同左
3.八ッ場ダムの問題点

  • 今までの洪水に効果がないという理由でダムは不要といえるのか
  • 当初計画で排砂対策施設は絶対必要条件なのか
 国土交通省関東地方整備局が利根川の支川吾妻川に八ッ場ダムを建設中である。しかし利根川の大洪水である昭和22年のカスリーン台風では吾妻川流域の雨量は少なく、カスリーン台風が再来した場合に八ッ場ダムは効果がないという識者もいる。関東地方整備局が公表している洪水データでは、その他の洪水でも吾妻川流域の降雨は少なく、利根川の洪水に効果がないので吾妻川にダムを建設するのは問題だという意見もある。
 ダム計画での治水容量の決め方は、過去に発生した洪水の中から対象洪水を決めて引き伸ばしをおこない、一番有効なカット方法で対象洪水を調節した時の容量を決定している。つまりそのような大洪水が吾妻川で発生する可能性がないわけではない(識者の言う「絶対無いとは言い切れない。過去に発生していないから、将来も発生しないという確証はない。」ということ)。大洪水が発生していないから八ッ場ダムの計画を効果がないとかたづけていいのだろうか。
 今までの洪水に効果がないので不要というなら、降雨引き伸ばしで容量を決めている全ダムが不要ということになると思う。八ッ場ダムだけを問題視することに違和感を覚える。

 また、八ッ場ダムの貯水池の堆砂の問題では、排砂の施設がない八ッ場ダムはいつか貯水池の堆砂容量が満杯になるが、その対策を考えないことを問題視している識者がいる。たしかに今まで竣工した多くのダムでは排砂施設は考えていない。しかし一般的なダム計画では土砂の流出量調査を実施して100年間で流出すると計算された量の堆砂容量を確保している。たしかに土砂の異常流出で堆砂量が大幅に変化するようなダムもあるが、そのような場合の対策として、貯水池上流に貯砂ダムを建設したり、貯水池を浚渫したりして機能維持を図っている。八ッ場ダムにおいても堆砂対策が必要であれば、その時点で貯水池の浚渫などの事業を実施すればいいのであって、当初事業に計上されてないことを理由に問題視は出来ないと思う。

「八ッ場ダム工事事務所」HPより
[関連ダム]  八ッ場ダム
(2018年4月作成)
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