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土屋信行(つちや のぶゆき)さんは、江戸川区の現職の土木部長で、水害から区民を守るために何をしたらいいか、その対策に日頃取り組んでいる方です。また、幅広い実践的知見を持つことがよく知られており、講演や意見を述べる機会も多いようです。 平成21年12月には、八ツ場ダム問題をとりあげた群馬県議会では参考人として利根川の下流域の住民を代表する形で、洪水調整のためには上流部にダムは必要との意見を述べられました。また、平成20年12月、タワーホール船堀(江戸川区)で開催された「世界海抜ゼロメートル都市サミット」では、ホストシティを代表して「スーパー堤防事業による街づくり」をプレゼンテーションされました。この「スーパー堤防事業」は、政府の仕分けでは廃止とされたことは記憶に新しいところですが、一方では、治水事業を国是とするオランダからは高く評価され、平成22年11月には大臣クラスを団長とする視察団が来日しています。
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今回のインタビューは、区内のおよそ7割が海抜ゼロメートルという江戸川区において、低平地に多くの人口集積を抱えるという難題のもと、区民の安全安心をどう考えるかについてお話をうかがいたいと思います。
(インタビュー・編集・文:中野、写真:廣池)
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行政として、具体的に治水を考えるということ
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中野: なるほど流域面積が大きくてたくさんの人が住んでいる、そういうことで難しいのですね。明治以降も何度か水害がありました。
土屋: 私は、江戸川区の治水の責任者として川のことを預かっているのでお話したいのですが、決定的に難しいというか、大きな要素となるのは、明治の頃の東京大水害の後に掘られた荒川放水路が、都心を守るための構造として掘られているという事実です。
これが荒川放水路の東側のぜい弱性を形作っています。都心を守るための堤防の方が厚く、当然、反対側は低い。しかし、この事実を否定する人もいて、あまりに悔しいので僕が全部実測しました。ものの見事に低いです。いちばん低いところでは2メートル40センチくらい、厚さも10メートルくらい薄い。その実測値を誰もが認めなければならないと思っています。
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でも、当時は仕方のなかった事です。昔の江戸川区側は、田園風景豊かな農村地域でしたから。それで都心部を守るという考えは良かったのです。本来、自然の構造物の河川として成り立っている時代は良かったのですが、人工構造物として水路を掘った以上安全性は確保するというのが、人工的に造った構造物の責務だと思います。道路を造ったら、道路が安全であることを当然期待するのですが、自然発生的にできた獣道を歩いていて、転んだといっても、自分で失敗したなと思って、誰も道が悪いとは言いません。自然物が自然物として存在する間は誰もが我慢できるのですが、人工構造物として造ったのなら、安全性を守って欲しい。そうだとしたら、江戸川の東の方には住むなと言うべきで、住まわせたのなら守れと。逆に言えば守らなくちゃ行けないということです。
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堤防は人を守るが、一方でリスクも生む
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中野: 明治43年の大水害で荒川に放水路ができることになるわけですが、それから中川が出来て堤防に守られた形になってきて、区として水防についてどのようにお考えでしょうか?
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荒川放水路計画 |
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土屋: その前に、お話させてください。低平地がどのようにできるかについてはこだわりたいのです。 明治43年の水害で荒川に高い堤防ができ、いわゆる囲われた地域ができた。陸地で言えば離れ小島のような場所ができたというのが一つ。それから昭和22年のカスリーン台風は、利根川水系に初めてダムを治水の中に位置付けるという考えのきっかけになった洪水ですので、この後は上流域ではダムによって洪水調節をしようとなった訳です。その間に、もう一つ大正6年の高潮台風というのがありますが、これは都市域において本格的に高潮堤防で守らなければならないという考え方が入ってくることになりました。その後、昭和24年のキティ台風があってこれも高潮台風でした。これで高潮堤防の高さを定めておこうとなったのです。その後、昭和34年の伊勢湾台風が来ました。これがもし東京湾を通っていたら大変だったということで、低平地の堤防の高さは洪水だけではなく、高潮のための堤防の高さも考慮して決めることになったのです。
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言ってみれば、既往災害という言い方をしますが、誰もが心情としては同じ規模の台風が来たときに、もう大丈夫だというところまでの高さで補強しましょうというのをみんなが認めるということで、いわゆる洪水の歴史が堤防を丈夫に高くしてきたと言えます。耐震補強もそれと同じようなことです。関東大震災があって、耐震性ということが確立してきて、いちばん最近では阪神淡路大震災があって、より強化されたということです。ですからみんなが体験することで進んできている。事実の積み重ねというのか、二度と同じような規模の災害で命を落とすことがないようにという考えがあって、結局はそれで我々が今住んでいる、低平地が形作られてきたと思います。
中野: カスリーン台風では、どんな被害があったのですか?
土屋: これは荒川放水路が出来てから起こった本格的な台風被害です。想定としては、もし洪水があっても桜土手という葛飾区にある小合溜という溜池のところにある堤防のところで、誰もが止められると思っていたのです。この桜土手というのは実は江戸幕府が直轄工事で造って守っていた堤防で、その下部が、葛西郷という郷になっていて、その郷の周りが輪中堤のようになっています。そのいちばん北側が桜土手というのになっていて、みんなその堤防は切れないと思っていたのですが、それが切れてしまい、一気に下流に洪水が来たのです。しかし、その前に荒川堤防が完成していたので堤内地側に水が溜まってしまいました。荒川の東側と江戸川にはさまれたところに水が溜まってしまったのです。自然河川としての中川だけだったら、もう少し氾濫域は広がりますが、浸水深はもっと浅くて済んだのではないかと言えます。
実は、どこでもそうですが、堤防を造ればそこが一つのガードラインになりますが、囲まれた土地は安全なのかどうか。逆に堤防が切れれば、その囲まれた範囲だけが水没する。ブロック化といいますか、一方で荒川がそのブロック化の防御ラインになった。最下流で考えれば、カスリーン台風では、江東区、墨田区までは水は来ていませんから、そこが判断の難しいところです。でも、都心を守る荒川放水路という目的で考えれば、見事に役割は果たしたと言えます。
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江戸川区民として八ツ場ダムは必要
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中野: また八ツ場ダムの問題に話が変わりますが、以前、群馬県議会でお話されたとのことですが、その内容を伺えますか?
土屋: 明治の洪水、カスリーン台風、いろいろな災害にあって洪水の危険を感じている私たち下流域のために地元の方には得心していただいて、ダムを受け入れるとなったことについて、とにかく有り難うございますということを群馬県の皆さんにお伝えしたくて話しました。そして下流の人が洪水と戦ってきた歴史を話させていただき、八ツ場ダムの計画は50年もかかったけれど、ここまでの決心をいただいたので、ぜひダムを作っていただきたい。私たちもいっしょに頑張っていきたいと話しました。
中野: 緑のダムについても触れられたのですか?
土屋: 洪水の歴史を中心に話しまして、その中には、緑の森が豊かになればダムに匹敵できる水が保水できるというのはとんでもない話ですよと、そういう話もさせていただいた。どちらかというと技術的な話ではなく、僕自身が山に登るものですから、山に入っていて雨が降ればもう10分くらいすれば登山道なんかはもうドロドロになって水が流れていきます。もし、山に多くの保水機能があるというならば、30分くらい雨が降ったとしても、山道が川のような状態になる訳がないのです、そういうことを話しました。砂山にじょうろで水をかけて表面が川みたいになって水が流れるようになるのですが、実は砂を掘ってみると、中はパサパサした状態になっている。あれと同じようなことが山の中でも起こっているのです。山は急に降る雨にはあまり期待できないし、長く降り続いた後の雨にも保水力は無い。そういう話を自分の体験も含めて話をさせていただきました。
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八ツ場ダムの代替案を考えると2兆円
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中野: 利根川というのは、山の上の方で止めないととても危険であると宮村先生もお話になっていましたが。
土屋: そうですね。中条堤をやめてしまったのですから。宮村先生に教わって現地に行ったのでわかりますが、昔の中条堤はだいたい広さが50平方キロくらい、江戸川区とほぼ同じくらいの面積がありました。江戸川区が2メートル沈むとすると、中条堤一つで十分に下流域の洪水調節機能が足りてしまう。もちろんそこでは水に浸かる被害を受けるし、迷惑がかかる人がでます。そういうことから、総合治水といして上流はダムで、中流は遊水池で、下流は河道でというようにいろいろと機能を分担をしないといけないのではないか。しかし役割分担をどこかで放棄されてしまうと、必ず別なところにしわ寄せが来ます。
八ツ場ダムがないと、江戸川区あたりでは60メートル川幅を広げなくてはいけない。実は、江戸川区で独自に計算したのですが、用地買収、移転補償費で試算すると江戸川改修で7000億円。利根川改修で1兆3000億円かかる。下流の安全を図るとなると2兆円かかるということになります。これは、あちこちでお話ししています。政府にも試算を提出しています。だから、今ダムをやめて節約しようとなっている今後の予算は八ッ場ダム一個分で約1000億円ですから、八ツ場ダムをやめて将来2兆円かけ続けてて洪水対策をするという考え方は、これはもう全くナンセンスですよね。
中野: 長い時間がかかったけど、50年の間洪水がなかったからもういいだろうという話になりかけていますが、果たしてそれで良いのかということですね。住んでいる人にとってみれば、何も安心できないと。事業仕分けでもスーパー堤防がムダだとされてしまいました。そのあたりは土屋さんがいちばん心を痛めておられるのではないかと?
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土屋: 仕分け委員の方がニコニコしながら"スーパームダ使いですね"、とおっしゃっていたのですが、あんなふうに笑われた時にぞくっとしました。その事自体が、人間の"命の仕分け"になっているのが判らないのですから。国民1億2千万人の命のうちのどれだけか分を仕分けたことになるのが判っているのか?果たして疑問です。低平地ゼロメートル地帯では頼みの綱なんです。少なくとも洪水が来たときに、逃げるだけの高台があるかどうか。洪水がきて破堤すれば、もちろん水浸しになるので堤防の必要性はあります。また、海抜ゼロメートル地帯は、海からも水が来ます。これまで何度も、大正6年や昭和13年、24年と水害を経験していますが、海から来る高潮に対しても堤防が守ってくれている。それとゲリラ豪雨のような局地的な豪雨。さらに決定的なのは、ゼロメートル地帯で恐ろしいのは地震洪水です。こういう言葉はないので、私の造語ですができれば広めていきたいと思っています。
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海抜ゼロメートルだからこそ危険な、地震洪水
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中野: 地震洪水とは、どういう種類の洪水ですか?
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土屋: これは、阪神淡路大震災の時に淀川の堤防が壊れたので大変心配なのですが、あの時は一月で洪水の時期じゃなかったので幸いでした。ゼロメートル地帯では一月だろうと何月だろうと、もしも堤防が切れてしまえば直ちに海水が入って来るので大水害となってしまう。それを地震洪水と呼びました。 どういう危険かというと、地震で堤防にひびが入ったり、少し壊れただけでも、ただちに無尽蔵な海水が入ってくるのです。大雨が降って起こる洪水と違って、無尽蔵な海の水が供給され続けますから、ダムとか遊水池で防ごうというようなボリュームではないのです。もし満潮であれば、その水位に達するまで海水が入ります。つまり、一年365日洪水の危険性がある訳です。だから堤防を壊してはいけない。もし壊れたら即座に人の命に関わる堤防です。だから我々は、スーパー堤防が欲しいと言っているのです。
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阪神淡路大震災で壊れた淀川の堤防 |
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中野: 江戸川区が考えるスーパー堤防は、八ツ場ダムの代替案だけではないと?
土屋: そうです。もちろん堤防が連続堤であればより望ましいのですが、仮に連続でなくても海抜ゼロメートル地帯では、水から逃れるために高い場所がいるのです。どうしてもゼロメートル地帯では逃げる高台がないのですから、堤防が結局一番高いところとなってしまうのです。これはもう切実に逃げる高台が欲しい。幅というか広さが50メートルでも100メートルでも、川沿いにバラバラでも、ピンポイントでも高台になる堤防があれば、住民はそこに逃げられる。連続堤である必要などなにもない。スーパー堤防が出来たところから直ちに効果が生み出されるのです。400年も待たずに投資がすぐに効果を生む、それがゼロメートル地帯のスーパー堤防です。まさに命を守る堤防なのです。ゼロメートル地帯では"逃げる"というソフト対策を支えるハードとしての高台が必要なのです。
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ゼロメートル地帯では、堤防がいちばん高台に
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中野: なるほど、区内では見回してもどこにも高台がない。いちばん高いのが堤防だと。
土屋: それが根本の考え方になっています。海抜ゼロメートルですから。普通、防災計画では4平米/人というのが避難基準になっていますが、江戸川区のハザードマップの場合は1平米/人。それだけ小さいスペースでも良いから、とにかく逃げて命をつなぎましょうということになっているのです。だから、1ヘクタールでもできれば一人1平米で1万人。昔の山手線のぎゅうぎゅう詰めを考えれば三万人程度は入ります。だから万が一の時、逃げられる高台になるスーパー堤防は、可能なところ、できるところからやってもらいたいと考えています。それ以外に、区民が現実に助かる場所がないのですから。
中野: 400年かかるからダメと言われても、その間、江戸川区民は危険にさらされて良いのかということですよね。ゼロメートル地帯なのですから切実ですね。
土屋: あれをやった人は、まさに命の仕分けになっている事に気付いていません。それが今の政治の現実なのです。
中野: 無駄の削減は大事ですが、国民の命を守る公共事業は、きちんと手をかけていかないと文明の進んだ国とは言えないのではないのでしょうか。
土屋: まさにそうです。400年かかると指摘されましたが、予算を注ぎ込まないから400年なので、地球温暖化も今後進む、海面の上昇も進む、いろんなことを考えたら、それだけのお金をかけていられませんから、止めてしまうというのは、ちょっと考えられないです。逆に400年もかかってはたいへんなので、200年にならないか、もっと早くできないか、お金のかからない方法はないかなら解りますね。そういうのが「国民の命を守りたい」と言った政権の目指すところだと思うのですが、時間がかかるから止めてしまうというのはちょっと乱暴過ぎではないでしょうか。
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根拠なしに感覚的に切り捨てられると辛い
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中野: これまで長期間洪水が起きなかったから止めろとかいうのは根拠が薄いですよね。
土屋: 議員さんの中には、スーパー堤防は宇宙人が攻めてくるのに備えるということと同じとおっしゃった方もおられますが、地震というのは誰もがいつか起こると思っています。関東地方は幸いかどうかわかりませんが、60年間水害が起きていない。カスリーン台風以来大きな洪水を経験していないのです。だから洪水は起こらないと思ってしまう。八ツ場ダム反対の方が、カスリーン台風がもう一度来たとしても八ツ場ダムは役に立たないと言われますが、果たして同じルートしか台風は通らないのでしょうか?台風がどこを通過するかわからないのに、もう大丈夫というのはあまりに根拠が薄いと思います。
中野: 何か感覚的に聞こえてしまいますね。
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土屋: 僕は防災キャラバンというのをやっていまして、昨年は年間80回くらい地元の方に小学校などの体育館に集まってもらってお話をしています。皆さんにお話するとき、熱帯性低気圧というと台風というのをすぐに想像しますが、そういう熱帯性低気圧で洪水が起きる場所というのは地球上で3カ所しかないとお話しています。インド洋で起こるのがサイクロン、大西洋で起こるのがハリケーン、そして太平洋で起こるのがタイフーン。北緯5度から45度の間、東経100度から180度の間。この狭い範囲でしか台風というのは起こりません。絶対にここでしか発生しない。絶対にここしか通らない。これだけの範囲の中で発生し通過するという自然現象なのです。ここに日本があるのです。なのに、それは宇宙人が来ることに備えるようなものだと笑っておられる方がたは、なぜカスリーン台風のルートしか想定しないのか?、日本のどこでも台風は通る可能性があるのに、八ツ場ダムが役に立たないと言えるのか?例えば、共通一次試験の問題はこの範囲ですと言われているのに、この問題は試験に出ないと勝手に思いこんで勉強しないことと同じです。日本はは台風が通る場所だと言われているのに、備えないで良いというのはどうしてなのでしょうか?想定外のことは起こらないと高をくくっている、その感覚がよく解りません。
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1951年以来の台風の発生と経路図(国立情報学研究所,デジタル台風台風画像と台風情報より土屋さんが作成) |
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中野: 日本は災害大国で、洪水も地震も多い。国土も狭く川は急流で、全国海に囲まれています。そうした中、区民の生活を守るために江戸川区では、どういう事に注力されているのでしょうか?
土屋: 僕は、危険を知ってもらうことが備えの第一歩だと思っています。医療現場の言葉でインフォームドコンセントといいますが、例えば医者がここが悪いですという説明をすることです。どういう病気か知らないで、ただこの薬を飲んでいれば良いと言ってては治らないように、ちゃんと説明したうえで患者にも理解してもらって治していきます。 ここは危ない地域ですといって、自助力、共助力というのが備わっていく。家の中にも地震用に例えば突っ張り棒とか、非常用の食料を用意しておくことかがありますが、水害の場合は備えの話が出たことがないのが現状です。
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江戸川区で世界ゼロメートル都市サミットを開催
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中野: もしもの備えというのは、どういうことかをきちんと考えることが大事なのですか?
土屋: 僕は水害によって街が被害を受けてきたこと、これだけの命が失われてきたことを徹底してお話しさせていただいています。一昔前なら、土地の値段が下がるからやめろと言われました。
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2008年12月 海抜ゼロメートル世界都市サミット |
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今からもう4、5年前になりますが、ハリケーンカトリーナの災害対策をアメリカがやっているときに、世界の海抜ゼロメートル都市に集まってくださいと呼びかけて、世界ゼロメートル都市サミットというのを江戸川区で開催しました。これにはニューオルリンズでいろいろ尽力された当時の米国土木学会の会長で工兵隊の隊長でもあったW・マキューソン氏をはじめ、イタリアのベネチア、タイのバンコク、オランダの南北ホランド州といった都市から代表をお招きして、それぞれの国での取り組み、アイデアを教え合おうということで、内容は、どの国でも住民に危険の度合いを説明して話し合っていますということでした。日本の場合、遅れていると指摘されたのは、地球温暖化の要素をまったく考慮せずに治水の対策を考えているのは、あまりにノー天気だと。どの川もまだ地球温暖化の影響を考慮した堤防の増強とか、沿岸部で海面上昇の影響を考えに入れた対策をとっていないということで、みんなからサプライズだと言われてしまいました。
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中野: 実際、地球温暖化の影響で、海面上昇のために満潮になると水没して困っている都市もあるのですから。
土屋: この第二回目のサミットが昨年、オランダのアムステルダムで行われて、僕も行ってきましたが、その時は、ノルウェーとかデンマークとか欧州の国が来ていましたが、どの国も温暖化を要素に入れた治水対策を始めていました。河川洪水の計算も増強しているし、各シミュレーションには温暖化の影響を入れ込んでいるということです。オランダにはウォーターボード(水管理委員会)というのが出来ているのですが、オランダはもう以前からウォーターボード税という治水目的税というのがあって、税金で行われる治水対策に加えて、治水対策を行っている。もちろんこれらは話し合いの上連携をとって行われています。さらに最近ではデルタファンドという基金を起こすそうで、これは地球温暖化を見越したものだそうです。治水対策は国の重要な安全保障として位置づけられているのです。
もうひとつ、オランダでは前回のサミットで日本から学んだ、ミスター土屋から教えてもらったとお世辞を言ってくれましたが、スーパー堤防にジャパンダイク(日本型堤防)という名をつけてくださって、その実現に取り組もうというのです。この間、大使館から連絡をいただいたのですが、治水の関係の大臣をはじめいくつかの治水や土木関係の人たちが来日されるのでアテンドしてもらえるかと尋ねられました。向こうは、一万年確率の大洪水に対応するというので、治水対策を国を挙げてやっておられます。国土の5割が海抜ゼロメートルで、七世紀頃から堤防を造ってきた国ですからね。
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オランダはすでに地球温暖化を織り込んで備えている
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中野: オランダの備えは一万年ですか、200年に一度というのも認めてもらえない我が国は寂しいですね。
土屋: ロンドンのテムズ川では、今度テムズバリアという要素でスーパー堤防のことを研究してくれています。ライン川では計画洪水量1万6000トンを2100年までに1万8000トンにするとして、どの国も地球温暖化による影響を考慮に入れて、お金がなければちゃんと税金として設定してくださいと、国民にその事実を突きつけて命を守るためには予算が必要ですが、どうしますか?という判断をあおぐということをやっています。
中野: 温暖化によって海面が上昇するとしたらいつ頃どれだけか、それに備えるにはどうするのかという議論をしているのですね。
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土屋: この間来たオランダの代表には、スーパー堤防については5年単位で見直しをしていると説明したのですが、そうしたことを話したら、デルタ計画などは10年で見直しますが、見直しをして堤防が低くなったことはないとのことです。
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