このところ、ダム便覧やダム日本に収録するためのインタビューで、ダム好きさんたちのお話を聞く機会が続いており、たいへん刺激を受けていますので、その裏話を交えながら感じたことをまとめてみたいと思いました。
まず初めに、ダムについての個人サイトの草分け的存在、「Damsite」の管理人萩原さんにお話を伺いました。萩原さんは人気の高い、ダム好き界のカリスマです。ダムを見たい人、ダムに行きたいという人を集めてダムツアーを企画し、自ら撮った写真や動画を集めて、DVDや写真集を出版されています。先日NHK・BS夜話という番組でも、ダム好きさんの代表格として宮島さんとともに出演。今年4月には、お台場のライブスポット・東京カルチャーカルチャーで行われた「ダムマニアの集い!大堰会『ダムナイト』」にも、プレゼンテーターとして出演し、会場を多いに沸かせました。
萩原さんは、真下から見上げるダムの姿がいちばん良いという持論で、どのダムでもすごい迫力の角度で撮影されています。宮ケ瀬ダムがお気に入りで、今も年に数回訪れては、立派な堤体を見上げて、楽しんでおられます。また、ご自身ではダムめぐりをすることによって、いろんな人々と知り合うきっかけができて、本当によかったと話されます。ダムツアーを企画して、ダムを見に行った人の中に、Webで記事を書いている編集の人がいて、ダムツアーの記事を書いてくれた。その記事を見てくれた人のなかに、映像監督さんがいて、ダムめぐりのDVDを作ろうと声をかけてくれてDVDができ、それをきっかけに開かれたトークショーで、写真集を出してみませんかと、出版社の人にアプローチされて写真集を出したりということで、自然にダム好きの輪が広がっていったという事です。つまり、萩原さんは発信するダムコンテンツを通じて、次々にダム好きさんを増やしていっているという事になりますね。
次に、Webサイト「ダムマニア」を主催する宮島さんにお話を伺いました。宮島さんは、マスコミへの露出も多く、その名の通りのダムマニアとしての先駆者的な方。かつて、ドライブが好きでついでに立ち寄ったダムで、たまたまダムの写真を撮って、ダムを見て回って撮影を重ねるうちにダムが好きになり、ホームページを立ち上げ、情報を増やしていって有名になった方です。ご自身のホームページをはじめ、新聞やラジオ、TV、トークショーイベント等さまざまなメディアに登場して、ダムめぐりの楽しさと、構造物としてのダムの素晴らしさをアピール。
宮島さんを有名にしたのは、趣味としてダムを見て回るという事が、新聞でとりあげられたからではないでしょうか。(朝日新聞・日曜版の趣味の紹介頁)ダムを見て回るという楽しみ方をしている人が、実際にいるという事が、新聞に取り上げられ世の中に広まったのではないでしょうか。事実、その記事を読んだ方から手紙をもらったということもあるそうです。
また、経営されている割烹料理のお店では、ご飯をダムの堤体に見立てたダムカレーを提供され話題となっています。ダムカレーは、私もいただく機会がありましたが、しっかりと締め固められたご飯の堤体が多くて、美味しかったのですが、ボリュームがあって食べきるのに苦労したのを覚えています。
次に、お話を伺ったのは「ダム好きさん」のホームページを主催する灰エースさん。当協会のホームページ・ダム便覧には写真を提供して頂いたり、記事の投稿をして頂くなど、大変お世話になっている方です。当協会のホームページにリンクされたことで、全国にこれだけのダムがあるという事を知り、時間がある時に沢山見て回ろうと思ったとも話されていました。実際、ダム便覧のデータをダウンロードして、ご自身のパソコンに入れて管理。そのデータをもとに、ゲームでポイントを稼ぐような感覚でめぐったダムの数はゆうに800基を超え、全国のダムの1/3程にもなります。近年、驚異的なスピードでダムめぐりの数を増やした「ふかちゃん」に抜かれるまでは日本一のダムめぐりの数を誇っていました。(業界の技術者の方もこれだけの数を実地で見られた人は少ないのではないでしょうか。)
当然、これだけの数を回るには、その行動は普通の人とは異なります。ダムは動きのない被写体なので、唯一動く放流の写真を沢山とられ、台風が来て大雨が予想されると、ダムに行き放流の様子を写真やビデオに収めるという、本当にダムが好きでないとできないような厳しい環境の中で行動されてきました。撮り貯めた映像は、DVDとなり販売されています。
さきごろ、ダムにのめり込んだ人たちの事を、どう呼ぶのかという話題が、当協会のホームページ「このごろ」にも掲載されましたが、「ダムマニア」か「ダム好き」か、というのは、まさに宮島さんと灰エースさんがその元祖たるものだという事です。私はこれまで親しみを込めて「ダム好きさん」と呼ばせて頂いています。これが一番しっくり来るように感じています。
続いてお話しを伺ったのは、NHKのBS夜話に宮島さん、萩原さんと一緒に出演して、ダムの専門家として技術的な解説を任された国土交通省の川崎さんです。川崎さんは、ダム作りにかかわる技術者として、こだわりを持って仕事に取り組んでいるとお話しされていました。ダム好きさんたちは、あくまで趣味の世界でダムにはまっているがその知識は、玄人よりも詳しい部分があるかも知れないとも。例えば、部分的なゲートの写真を見るだけで、どこのダムかがわかるとか、そういうクイズ的な知識ではプロも負けるだろうと言うことです。番組中では、要所要所で、専門家としての解説をはさみ、ダム好きさんたちからも、へぇ〜という声があがっていたところはさすがだと思いました。
番組のなかで、川崎さんが提供された映像でとても貴重だったのが「苫田ダムのラビリンス放流」(掲載写真は川崎さんからダム便覧に提供頂きました)です。
苫田ダムのラビリンス型非常用洪水吐きからの放流 ラビリンスは迷路という意味だそうですが、非常用の洪水吐きとして越流させるにあたり、堤頂部が一直線になっているよりも、ジグザグ状になっていた方が、より沢山の水を落とすことができるという構造的な計算により、このような形状になったそうです。写真でもわかるのですが、映像で見るとそれは実に美しいもので、非常用洪水吐きとして実際に使われるのは数十年、いえ100年に一度あるかないかという確率でしょうから、この映像を見た方はとても幸運だと言えます。ある意味、放流は、ダム本来の姿を表しているのかも知れません。
放流映像にこだわる灰エースさんも、台風が来る前に四国の早明浦ダムに行き、放流する姿をカメラに収めてきたという事です。しかし、渇水となって干上がった早明浦ダムのニュース映像だけが人々の記憶に残ってしまい、役に立たないダムの代表選手のように扱われていますが、もしダムがなかったら、毎年断水が続いているのではないでしょうか。早明浦ダムがあるからこそ、地元には今の生活環境があるということに気づいて欲しいものです。
どうやら今年は、ダムめぐり、ダムのいろいろを趣味の対象とする方々にとっては、その存在を一気に社会に広めた、エポックメーキングな年になるでしょう。ダム便覧、ダム日本に収録してきた、ダム好きさんインタビューは、まだ知られていない、あのホームページの作者の方がこれからも登場しますので、ご期待下さい。そういえば、あの気象予報士の方もロックバンドのギターの方も「ダム好きさん」たちとか…
【参考】ダムインタビュー
ダムインタビュー(1)萩原雅紀さんに聞く「宮ヶ瀬ダムのインパクトがすべての始まり」 ダムインタビュー(2)宮島咲さんに聞く「ダム好き仲間とOFF会に行くのが楽しい」 ダムインタビュー(3)灰エースさんに聞く「ダムだから悪いという書き方はおかしい」 ダムインタビュー(4)川崎秀明さんに聞く「ダムファンがいるからプロもやる気になる」
|