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3 藤橋村との合併

 徳山村の帰属は、結局、検討した案のなかで最も障害の少ない選択である、隣村の藤橋村との合併という方針で対処することとなった。旧徳山村は水源地でありその管理に当たっては地元自治体の協力が欠かせないから、地理的な一体性が確保され、地域的な事情を的確に判断できる体制である藤橋村への帰属は最も自然な姿である。
 藤橋村が積極的に合併を望むとは考え難く、また、合併を強制することはできない。このとき合併を進めるうえで大事なのは、藤橋村が負うであろう負担に配慮することであり、二つのことが注目に値する。


ありし日の戸入地区
 第一は、行政需要補償の藤橋村への承継である。徳山村に対しては、ダム事業に伴う一時的な行政支出の増大に対する起業者の負担(行政需要補償(注6))が認められていた。現に徳山村は、住民の生活再建その他について多大の行政負担を負っており、これに対する補償は当然である。問題は、消滅する地方自治体に対しても補償を要するかどうかであるが、現に負担が生じており、徳山村の債権債務は合併により消え去るわけでもないから、補償を執行するうえで支障は無いと考えてよい。そして、合併に伴う財産処分は、関係市町村が協議して定めることとされているから(地方自治法第7条第4項)、協議によって、徳山村が受け取るべき補償金を合併後の藤橋村が受理することになっても問題は生じない。徳山村との公共補償協定は1986年3月に締結されたが、行政需要補償を含めてその内容は藤橋村に継承された。

 第二は、藤橋村における水源地域特別措置法による水源地域整備事業の実施である。徳山ダムは、同法による指定ダムに指定されている(1977年3月)が、それに基づいて水源地域整備事業を実施する水源地域として、旧徳山村及び旧藤橋村が指定された(1984年2月)。合併しなくとも徳山ダム事業によって旧藤橋村も多くの影響を被ることは確かであったが、水源地域整備事業を旧藤橋村区域内で相当程度実施することは、水源地を保全する必要に応えるうえでも大事なことであった。
 これらの措置は、合併の条件というわけではない。だがその円滑な実施を支えたと考えても間違いではないであろう。

 このような経緯を経て、1987年4月、旧徳山村は藤橋村に廃置分合された。その手続きは平穏に進められたと承知している。その後、1989年3月には移転対象466世帯総てについて移転補償契約が完了した。また工事も、関連工事が進捗した後、2000年5月にはダム建設工事の起工式が行われた。現在本体工事などが進行しており、事業の完成予定は2007年度とされている。

 なお、旧徳山村内に残された民有林は、「ダム周辺の山林保全措置に対する費用負担制度」によって、約180平方キロメートルが公有化されることになった。これは、地方公共団体等がダムの周辺山林の取得及び管理を行う場合に、付け替え道路整備費の範囲内で事業者がその費用を負担するという制度であり、水源の涵養や自然生態系の保全などに資することにもなる。無住地であっても土地を適正に管理するなどの行政責任は残るのであり、地方公共団体はその任を負わなければならないのである。
 今後、徳山村のような事例はまず起きないと考える。しかしながら、無住地が生じる場合などにその帰属を検討するときや、水源地域や過疎地域などにおいて国土保全や自然生態系を保全・創出する必要に応えていくときなどに当たって、何かの参考になれば幸いである(注7)。
 また、ダム事業に伴う地域社会の変貌については、より一層注意深い対応が必要であることも改めて強調しておく。行政手続よりは、地域社会の意思を十分に汲み取り合意を形成することを優先させるべきことは、当然のことである。


(注6) 行政需要補償とは、公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱(1967年2月閣議決定)第18条の「行政需要の一時的な著しい増加による地方公共団体の財政上の負担の増大が生ずる場合において、地方公共団体が当該行政需要の増加に見合う財政支出をしなければ公共事業の施行上著しい支障を生ずることとなるときで、(中略)当該行政需要を充足するための財政支出をするときは、公共事業の起業者は、これらの措置を取るために必要な最小限度の費用を、起業者が直接間接に利益を受ける限度において、負担することができる」という規定に基づく補償である。極めて限定的に規定されており、かつ、運用されている。

(注7) 積極的な意味で帰属先が問題となるのが都市域の埋立地である。海岸域の埋め立てについては海岸の沖合いへの延長であるからあまり問題は生じないが、沖合いに島として形成されるゴミ処分場、海上空港などについては、その編入により行政サービスの負担を伴う一方で、固定資産税収入その他の財政的な利点も大きく、境界争いを惹起しやすい。地先主義が原則とされるが、東京湾のゴミ処分地に関する江東区、中央区、港区の境界確定問題や、関西新空港島の帰属先問題などがよく知られている。ちなみに、関西新空港島は、連絡橋の地先ではなく海岸線の地先で帰属が決まり、行政区域は3つの市町に分割された。


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