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《嘉瀬川ダムが建設中》

 昭和32年完成した北山ダムの下流に、現在、嘉瀬川ダムが佐賀郡富士町大字小副川・畑瀬地点に建設中である。このダムは、洪水調節、灌漑用水の補給、水道用水、工業用水の供給、発電を行う多目的ダムで、諸元は堤高97m、堤頂長 460m、総貯水容量 7,100万m3、重力式コンクリートダムである。
 平成15年8月4日、5日第10回嘉瀬川ダム上下流小学生交流会が「北山少年自然の家」で開催された。上流の小学校から富士町立富士南小、富士小、北山小、北山東部小のあわせて38名、下流の小学校からは牛津町立牛津小、砥川小あわせて53名が参加し、8班に分かれ交流が行われた。ダムの研究発表、自然観察、魚取り、木工工作、キャンプファイア、北山ダム見学の交流による感想文を纏めた嘉瀬川ダム対策協力会編・発行『嘉瀬川 ダム上下流小学生交流会の思い出』(平成15年)から、二人の小学生の作文をそのまま引
用する。


 上流の北山小学校5年栗並翔太君は、「ダムは良い物なのか」の題で、

『ダムってあったほうがいいのかな。初めはダムができるようになると木が切られて動物たちの住む所がなくなり、家がダムでつかってしまう人は、ひっこしをしてしまう。だからとても悲しいのでダムなんかなければいいと思っていました。でも、交流会が進めば進むほど、ぼくの思いが変わってきました。交流一日目にビデオを見せてもらって思いました。「あっやっぱりダムがあった方がいいかも。いやダムはぜったいないといけないんだ。ダムは、大雨の時には川から水があふれないようにしてくれているんだ。」と思いました。・・・・・でもやっぱりダムで家がつかる人と別れるのは悲しいです。・・・・でもお別れしてもずっと仲の良い友達のままでいたい。そしてまた新しい友達を作り、ダムの回りに木を植えて、緑いっぱいにしたいです』

と、綴っている。
 また、下流の牛津小学校5年石丸健人君は「嘉瀬川ダム上下流小学生交流会」の題で、

『最初の出合いの時間にダムについての説明がありました。ダムを作るにはたくさんのむずかしい問題点があります。嘉瀬川ダムの建設予定地には小さな川が流れています。その小川の水はとてもきれいでシマドジョウやサワガニが住んでいます。そんな美しい自然はこわしたくない、と思います。たった一本の木を切ると30匹の虫たちがいなくなるのはかなしいことです。
 ダムを作ることでたくさんの良い点もあります。農家の人たちにとって大切な農業用水や、ぼくたちが毎日必要な生活用水、工場用水が不足しないようにじゅうぶんな水を貯めておけます。水力発電は火力発電に比べて費用がかかりません。原子力発電に比べると発電する電力は少ないけど自然にはいいそうです。・・・・・上流に住む動物や植物を守りながら自然にやさしい立派なダムができればいいなあと思います』

と、感想を述べている。
 作文を読むと、ダム建設には大人だけでなく、子供たちも故郷の喪失、友達の別れに心を悩ませている。さらにダム建設による自然にも心を砕いていることが、よく分かる。


   ◇

 以上、佐賀県における戦後のダム建設について概観してきた。ダムの効果が表れてきたといえる。「雨が降れば洪水、照れば干ばつ」の状況は改善されつつある。だが佐賀市を中心とした低地帯の佐賀平野は集中豪雨等の災害を受けやすい。
 さきに、古川康佐賀県知事は伝統的な技術である棚田の保全と活用が、より良い地域づくりにつながることを強く主張されていた。このことから考えると、成富兵庫の伝統的な治水利水施設を再度見直し、壊すのでなく、佐賀県全土にわたってこの水利施設の保全と活用を図るべきである。このことがより良い県土づくりにつながると思われる。この伝統的な水利技術に、さらに近代的なダム、水路、雨水の利用の技術をミックスした河川政策の実施により、水害、干害から人的、経済的な損失を防ぐ必要がある。これからは人と水との関わりを密にして、総合的な水管理のもとに水循環の健全化を図り、さらなる佐賀県の持続的な発展が望まれる。

   <ほととぎす 鳴いて北山 ダム広し>  平田縫子


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