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脱ダム宣言を検証する
〜ダムはすぐ埋まる・ダムはカネがかかるは本当か?〜

 これは、ダム好きさんホームページ灰エースさんによる投稿です。全国のダム巡りを精力的に行っている灰エースさんが、長野県の田中知事が出した「脱ダム宣言」について、その内容を検証しています。
 
 最近見られるダム否定論に、ダムはすぐに埋まる、土砂を取り除いたりするのにカネがかかりすぎる、カネがかかるだけの無用の長物、ダムによってもたらされる環境破壊を子孫に残していいのかと、まあダムは悪の権化とまで言いたいのかと思うような話がまことしやかにささやかれているように思う。さてこの話どこまで真実か?

 まず長野県の脱ダム宣言全文をここに掲載します。これは長野県公式サイトから引用したものです。


「脱ダム」宣言

 数百億円を投じて建設されるコンクリートのダムは、看過(かんか)し得ぬ負荷を地球環境へと与えてしまう。更には何れ(いずれ)造り替えねばならず、その間に夥(おびただ)しい分量の堆砂(たいさ)を、此又(これまた)数十億円を用いて処理する事態も生じる。
 利水・治水等複数の効用を齎す(もたらす)とされる多目的ダム建設事業は、その主体が地元自治体であろうとも、半額を国が負担する。残り50%は県費。 95%に関しては起債即ち借金が認められ、その償還時にも交付税措置で66%は国が面倒を見てくれる。詰(つ)まり、ダム建設費用全体の約80%が国庫負担。然(さ)れど、国からの手厚い金銭的補助が保証されているから、との安易な理由でダム建設を選択すべきではない。
 縦(よ)しんば、河川改修費用がダム建設より多額になろうとも、100年、200年先の我々の子孫に残す資産としての河川・湖沼の価値を重視したい。長期的な視点に立てば、日本の背骨に位置し、数多(あまた)の水源を擁する長野県に於いては出来得る限り、コンクリートのダムを造るべきではない。

 就任以来、幾つかのダム計画の詳細を詳(つまび)らかに知る中で、斯(か)くなる考えを抱くに至った。これは田中県政の基本理念である。「長野モデル」として確立し、全国に発信したい。

 以上を前提に、下諏訪ダムに関しては、未だ着工段階になく、治水、利水共に、ダムに拠(よ)らなくても対応は可能であると考える。故に現行の下諏訪ダム計画を中止し、治水は堤防の嵩(かさ)上げや川底の浚渫(しゅんせつ)を組み合わせて対応する。利水の点は、県が岡谷市と協力し、河川や地下水に新たな水源が求められるかどうか、更には需給計画や水利権の見直しを含めてあらゆる可能性を調査したい。
 県として用地買収を行うとしていた地権者に対しては、最大限の配慮をする必要があり、県独自に予定通り買収し、保全する方向で進めたい。今後は県議会を始めとして、地元自治体、住民に可及的(かきゅうてき)速やかに直接、今回の方針を伝える。治水の在り方に関する、全国的規模での広汎なる論議を望む。

 平成13年2月20日 長野県知事 田中康夫


 さて・・・まず全体的に大仰な言葉づかいが多いかな? 「看過しえぬ負荷」と言われてはどんな恐ろしいことがおきるんすか!?とこれは不安だナァ。

 しかし冷静に考えてみる。看過しえぬ負荷とは具体的にどんなものなんでしょうか?草木も生えない魚もいない死の川になるなら看過し得ないと言われても仕方ないか。実態はどうなのか・・・

 ここで環境とはどういうものか。日本の土地は急峻で、平野は少ない。その中で1億2千万人もの人が住んでいる。原野のままではとてもこれだけの人口を維持できず、開発はどうやっても必要だというのは誰しも理解できるんじゃないかと思う。住民が安全に暮らせる環境こそ一番大事ではないか?? ただし、無計画な開発は慎むべきだとは思う。無計画な開発は結局住みにくい状況を招くだろうから。

 もともと大自然は強大であって、人間が守ってやらなければ駄目だという考え方は傲慢であるとさえ言いたい。
 これまで様々な人間の活動は、多かれ少なかれ自然に影響を与えてきました。ダムのみが特別ではありません。人間にとって自然は大事ですが、ダムを作るのは看過しえぬ負荷を地球環境に与えるとまで言えましょうか??地球環境にそんなに影響を与えるダムって一度見てみたいと思います。ソヴィエトが作ろうとしたベーリング海峡を締め切る超巨大ダムのことですか??


次の話題に進んでみる。

更には何れ(いずれ)造り替えねばならず、その間に夥(おびただ)しい分量の堆砂(たいさ)を、此又(これまた)数十億円を用いて処理する事態も生じる。

 いずれ造り替えねば=将来その時が来たときに造り替えたくなる=必要であると言うことであります。未来のその時、必要で無くなっておれば造り替える必要があるのか?? 現時点で各地のダム事例を見渡すと・・・明治・大正のころに作られたダムを補修して使っている例はあるが、なんで補修するかといえば、そのダムの水資源が大切だから補修して使いたいとなるわけですが。

 いずれ造り替えねばならん=悪であるなら、絶対に壊れないものは世の中に何一つ存在しない以上、ダムに限らず何も作れませんよねえ。むしろダムは他の品物に比べても格段に長寿命じゃないですか? 一般家屋でダムの法定減価償却年数80年(これがダムは100年で埋まるの元か?償却年数を超えても駄目になるわけでは無いぞ!)を超えて持つ物件がどれだけありますか?

 マイホームを持とうとした人に、そんな家はいずれ建て直さなきゃいけないから作るなという意見を正論だと思いますか?

 堆砂の問題だって・・・掃除をしなければゴミが溜まります。家を建てて掃除をせずに一生暮らす人がどこにおりますか?

堆砂(たいさ)を、此又(これまた)数十億円をかけて処理。

 なんか金食い虫のように聞こえますねえ・・・しかし、数十億円をかけて処理するだけの価値のある仕事をダムがしているのではないんですか? ダムの仕事はいろいろあります。水道、発電、治水、農業灌漑・・・どれも大事な仕事ですよ。無くて済むわけが無い。

 この中で一番おカネに換算しやすいのは発電なので、ここでは発電ダムでダムの稼ぎを計算してみますよ。発電ダムにも電力会社直営と、都道府県や発電卸会社が電力会社に売る場合の2つがあります。電力会社に売る場合は昼間10円夜間5円(1KWH)ぐらいが相場らしいです(最近は価格が下がってきていると言う話も聞きますが・・・)

 ところで水力発電所、1万5000KW出力、と聞いて一般の人はどう思うんでしょうね。多分小さいなあと思うのではないかと・・・いかがでしょうか?? 最新の火力や原子力は120万KWぐらいです。小さいように思いますよね(笑)

 さて、だいたいこの規模1万5000KWの水力発電は都道府県管理の中規模多目的ダムに付属する発電所として一般的な大きさではないかと思います。この小さな発電所が年間いくらのおカネを稼ぎ出すと思いますか??

 では計算条件を仮定しますよ。年間80%の日数、1日10時間、10円で売れる昼間に限って発電するとします。

 15000KWx10時間x365日x0.8x10円=売り上げ4億3800万円

 どう思いますか? 火力のように石油を燃やすわけでもなく、太陽が海の水を蒸発させて雨や雪として降った水をダムにためて電気を作って売るだけで年間4億円の儲けを小さい発電所で作れる。都道府県の作ったハコ物でこれだけの稼ぎを叩きだす施設がありますか?? 1億円どころか赤字じゃないの??

 さて、電力会社直営のダムになるともっとすごいわけですよ。まず出力が大きい。それに直接自分の会社から需要者に売るんだから売電よりもレートが良いわけで。

 ここに実際の年間発電量の資料があるので計算してみます。出力7万5000KW、年間発生電力量214510000KWH。ここの出力も大きいと言っても火力や原子力に比べれば小さいですが、それでもCO2を出さず燃料費もかからないメリットは計り知れないわけです。さてこの電気を電力会社は幾らで売っているか、各電力会社を比べてみると、一般家庭に対しては1KWH当たり20円といったところでしょうか。

 214510000KWHx20円=42億9020万円・・・

 こんなに稼いでるんだから堆砂除去費用が数十億円かかってもOKじゃん。ダムによっては浚渫した土砂を骨材などとして売っているところも実際にあるし。

 おカネに換算しやすい発電ダムは以上の結論として、そのほかの利水にしたって、水道料金などで回収するし、治水では下流住民の家、財産、命とおカネじゃ買えないものを守ってますよ。今年の水害で家が水に沈んだ人なんか、経済的大ダメージだけでなく家族のアルバムとかかけがえの無いものを失いましたよ。下流住民が安全に暮らせるということは何事にも代えがたいんじゃないですか?

 これでもまだダムは維持にカネがかかるのは問題だと思いますか?

 水力発電で発電したということは、他の火力発電所で燃やす石油をその分減らしたということです。年間214510000KWH(2億KWH余り)の水力発電を火力で作るとなると、4万3千トンの石油に相当し、13万7千トンの二酸化炭素排出量に相当します。つまり水力を使えばこういう削減効果がある。

利水・治水等複数の効用を齎す(もたらす)とされる多目的ダム建設事業は、その主体が地元自治体であろうとも、半額を国が負担する。残り50%は県費。 95%に関しては起債即ち借金が認められ、その償還時にも交付税措置で66%は国が面倒を見てくれる。詰(つ)まり、ダム建設費用全体の約80%が国庫負担。然(さ)れど、国からの手厚い金銭的補助が保証されているから、との安易な理由でダム建設を選択すべきではない。
 縦(よ)しんば、河川改修費用がダム建設より多額になろうとも、100年、200年先の我々の子孫に残す資産としての河川・湖沼の価値を重視したい。

 この河川改修ですますことが果たして資産になるのかどうか。さて20世紀は石油をめぐって戦争がたくさんおきた。21世紀は淡水をめぐる戦争がおきるという話さえある。真水は貴重な資源であるが日本の国土を考えると人口に対する真水のたくわえは乏しい。ダムというものは作って明日完成するというものではない。何年、何十年と時間をかけて作るインフラのひとつだし、貴重な真水を蓄える設備として100年200年先の子孫に残す資産がダムではないか。

 大正に作られた兵庫の千刈ダムは今も神戸市の水道を支えているが、これは90年近い前の先人が残した資産ではないか。東京砂漠といわれた首都圏の渇水今は無く、いつでも水道が出るのは当たり前となったのは小河内ダム、矢木沢ダムの大貯水池によるものが大きいが、このダムが現在のペースで堆砂が進んで何も手を打たないとしても、小河内ダム1100年、矢木沢ダム2600年と言う。これは子孫に残すかけがえの無い資産以外の何であろうか? おそらくこの先コンクリート堤体の補修が必要になるときがくるかもしれないが、いま各地の年代モノのダムで行っているような補修を同じようにすればいいのである。歴史は繰り返す。

長期的な視点に立てば、日本の背骨に位置し、数多(あまた)の水源を擁する長野県に於いては出来得る限り、コンクリートのダムを造るべきではない。

 確かに長野県は電源県とも言われるぐらい水に恵まれてたくさんのダムがあるから、利水ダムの需要は少ないだろうね。発電ダムの水も農業や水道で生かされてますから。だからといって、他県のダム事業に口出しするのは?と思いますが。全国が長野のように恵まれているわけではありませんので。そんなことよりも、地元県民で水害に困ってる人の対策をするのが県知事の仕事じゃないんですかね。よその県に首を突っ込む前に。ところで「コンクリートのダムを造るべきではない。」ということは・・・コンクリートを使わないアースフィルロックフィルのダムはOKなんでしょうか。謎だ・・・

就任以来、幾つかのダム計画の詳細を詳(つまび)らかに知る中で、斯(か)くなる考えを抱くに至った。これは田中県政の基本理念である。「長野モデル」として確立し、全国に発信したい。

 上の方で誤解と思われる事をさんざん突っ込ませていただいたわけで、本当に詳細を勉強されたのか疑問なわけですけども。そういう誤った内容を発信するのはいかがなものかと思いますね。おかげで水害に悩まされて治水ダムが地元住民の悲願であるという地域のダム計画が勢いづいた反対派のおかげで頓挫しているところもありそうですしー。

 以下、下諏訪ダムについては詳細を知らない身で発言するわけにはいかないのでコメントは控えます。

 さて、脱ダム宣言から3年が経ち、脱ダムの代替案が「普段水をためない高さ30mのえん堤」とか出てきているわけですけども、高さ15mを超えるものをえん堤と呼ぶのは、誰が見ても理解しがたいわけでして、水を普段ためないのをダムではなくえん堤と呼ぶかといえば、そんなことはなく、すでに日本各地に水をためない治水ダムが存在しています。たとえば、大代川ダム大倉川ダム小匠ダムなどは、普通にダムとして取り扱われています。これらは普段はまったく水をためず、流れてきた水はスルー、小匠ダムは魚道付きなので水棲生物が行き来することも可能です。洪水が起きたときだけゲート操作で洪水を調整する立派なダムです。脱ダム代替案の「えん堤」はこれらのダムとどういう違いがあるんでしょうか、いくつかの報道記事を読む限り、限りなくこれらのダムと同じもののような感じがするんですが・・・

 今更後には引けないと言うことかもしれませんが、代替案があれじゃあ頓挫したとしか思えないんですけどね・・・。
[関連ダム]  浅川ダム
(2004年12月作成、2005年1月修正)
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