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14. 田中知事の脱ダム宣言

 平成13年2月20日、田中康夫長野県知事は「脱ダム」を宣言し、わが国におけるダム建設に大きな影響を及ぼした。
 この「脱ダム宣言」の主旨は次の3点にみることができる。

コンクリートダムは地球環境へ負荷を与え、完成したダムは多くの堆砂が生じ、その処理に多額を要する。
・ダム建設は国の補助80%であるが、安易な理由で建設を選択すべきでない
・ダム建設より、河川改修費用が多額となろうとも、 100年、 200年先の子孫に残す資産としての河川・湖沼の価値を重視したい。長野県においては出来る限りコンクリートのダムを造るべきではない。

 「以上のことを前提として、下諏訪ダムは未着工のため、治水、利水共にダムにたよらない対応は可能であると考え、中止する。治水は堤防の嵩上げや川底の浚渫を組み合わせ、利水は河川や地下水に新たな水源を求められるかどうか、その可能性を調査したい」とある。

 この「脱ダム宣言」に関連した書がいくつか出版されている。
 住民たちは「脱ダム宣言」の以前から、天竜川水系東俣川の長野県諏訪郡下諏訪町東俣における下諏訪ダムの建設に反対していた。武井秀夫著『脱ダム讃歌ー下諏訪ダム反対運動の軌跡』(川辺書林・平成13年)は、自然保護団体や医師グループの活動を6年間にわたってドキュメントとして著している。平成11年5月このグループはダム反対の訴訟をおこし、ダムの必要論である東俣川、砥川の基本高水流量や、岡谷の利水問題を追求していたがダムが中止となったことから、平成14年10月訴訟を取り下げた経過がある。一方「脱ダム宣言」による下諏訪ダム建設計画の中止があまりにも唐突で、地元住民の意見を十分に反映されていなかったという懸念のもとに、平成13年3月26日「長野県治水・利水ダム等検討委員会条例」が制定された。その条例を提案した県議会議員竹内久幸著『「脱ダム宣言」と治水への住民参加』(ほおずき書籍・平成13年)によると、その提案理由について【健全な水循環系に関する理念について、広く意見を募り、流域ごとに治水・利水ダムなどの河川整備を検討し、総合的な治水・利水対策について調査審議する必要がある。】と述べている。

『脱ダム讃歌ー下諏訪ダム反対運動の軌跡』

『「脱ダム宣言」と治水への住民参加』

 この委員会には学識経験者、行政機関の職員、市町村長・議長、県議会議員からの15人以内を知事が任命する。治水・利水対策について、天竜川水系では郷土沢川、駒沢川、上川、砥川の4流域が審議調査されることとなった。上川部会の特別委員を務めた五味省七著『脱ダムから総合治水へ』(ナカニシ印刷・平成15年)が、その部会で検討審議された経過について詳細に綴っている。昭和15年3月3日「上川における総合的治水、利水対策について」により、蓼沢ダム建設計画の中止の答申が出されている。なお、平成15年6月24日にこの委員会の答申は諮問を受けた県内九流域に関し全て終了した。このように長野県における河川整備については、「脱ダム宣言」後、「長野県治水・利水ダム等検討委員会」の条例に基づき委員会の答申が大きく左右することとなった。


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