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特別インタビュー:
『すごい! 日本のダム』の著者・編集者に聞く

 今まで書かれたダムの本は、当協会で認定したダムマイスターをはじめ、ダム愛好家の方やダムの専門家の著作というのが主でした。ところが、先頃、ダムの秘密調査団という謎の著者による本がPHP研究所から出ました。その名も『すごい! 日本のダム』。今回はこの本を取り上げ、著者である「ダムの秘密調査団」の代表者と編集者の方に出版に至るまでのお話をうかがうことにしました。

 ダムの秘密調査団 光元 志佳
 PHP研究所 エンターテインメント出版部 宇田 富貴


左から、宇田さん、光元さん、インタビュアーの中野

PHP研究所がダムの本を出版する

中野: 『すごい! 日本のダム』の編集を担当されたPHP研究所エンターテインメント出版部とはどういった部署なのかからうかがっていきたいと思います。

宇田: 私が、所属しているエンターテインメント出版部は、一般の書籍のほか、コンビニエンスストア向けの書籍の制作をしています。コンビニエンスストアの雑誌棚に、大きい判型の書籍や、A5版やB6判の本が置いてあるのをご覧になったことがありませんか。
 我々は、イラストなどを多用した、ビジュアル的でわかりやすい内容の本を、気軽に買える価格帯で制作しています。

中野: そうですか。コンビニエンスストアに置いてある商品は実に多岐にわたっていて、例えば、女性の化粧品などもつい手にとってしまうように、手軽に買えるように工夫してありますね。


宇田: はい、今回取り上げていただいた『すごい! 日本のダム』も、気軽に手に取ってもらえる作りを目指しました。


これまでに出版した本の例
この本のターゲットは

中野: この本はコンビニエンスストアだけで販売しているのですか?

宇田: コンビニエンスストアを中心に販売していますが、全国の主要書店やインターネット書店でも販売しています。

中野: 写真がきれいで、このサイズ、価格で、コンビニエンスストアで手軽に買えるというのがいいですね。

宇田: これは私のイメージですが、雑誌はともかく「書籍」を買うためにコンビ二エンスストアに行くという方は、あまり多くないのではないでしょうか?
そこで、何かを買うついでに雑誌棚の前を通った方が、思わず手に取りたくなる作りを目指しました。

ダムカードがきっかけ

中野: 具体的に出版企画はどのようにして進んでいったのでしょうか。

宇田: 今、コンビニエンスストアで、写真を大きく使ってビジュアルで見せるオールカラーの本が、ヒットしている傾向があります。そこで、迫力あるダムの写真を大きく見せるという方向性を考えました。さらに、書籍というだけでなく、たとえば、付録のようなプラスアルファのモノがつくという仕掛けができないかと思っていました。以前弊社で、仮面ライダーの解説本に、その本限定のオリジナルカードをつけたことがあったので、ダムにもダムカードがあるぞ! とひらめいたのです。

中野: 実際の企画会議では、どんな話が出たのですか。

宇田: 最初会議でダムの本をつくりたいという話をしたところ、「読者対象がせますぎないか」という意見が大勢を占めました。しかしダムには「ダムカード」というものがあって、ダムに行かなければ手に入らないカードなんです、そのダムカードが本についていたらマニアのみならず、ドライブでダムに行くような一般の人々にも訴求力がでます、という話をしたところ「それなら面白いかもしれない」ということで話が一歩前に進みました。

結局はダムカードではなくクーポンに

中野: 実際はダムカードはつかなくて、「こしきの湯」の温泉割引クーポンがついていますね。

宇田: 本当は、最初のアイデア通りに「ダムカード」を付けたかったのですが、国土交通省の担当者の方に企画を説明して、本に付けられないでしようかという相談をしたところ、残念ながら断られてしまいました。企画については興味を持って頂けましたが、そもそも「ダムカード」の主旨は、「ダムに足を運んだ方」が「無料で手に入れることができる」というものなので、書籍に付けてしまうと主旨からはずれてしまうということでした。

中野: ダムに行った人だけが貰えるというところに価値がありますからね。

宇田: 何か限定で本に付けることができたら面白いと思うのですが、どうでしょうか。

中野: 次回の参考になればいいですね。PHPとカードに書いてあるとか。

光元: それはいいですね。PHPロゴを入れて。


温泉割引クーポンがついている
宇田: 次の企画のアイデアまで頂いてしまって(笑)。国土交通省の担当者の方から「ダムカード」誕生のお話をうかがって、私もこの本を読んで興味を持って頂けたら、ぜひダムに足を運んでもらいたいと思いました。本を作った後、自分でも足を運んだダムがありますが、写真で見る以上の迫力があります。そこで、「ダムに行ってみよう」と思える仕掛けができないかと考えて思いついたのが、実際に現地に行かれた方が、割引で温泉に入ることができるというクーポンだったのです。

ダムの秘密調査団のメンバーは

中野: それでは、著者として名前が出ている「ダムの秘密調査団」という組織には、どういうメンバーの方がいらっしゃるのですか。どなたかダムマニアさんが協力しておられるのでしょうか。

宇田: それは、「ダムの秘密調査団」という名前の通り秘密です(笑)。読者の皆さんのご想像にお任せします。ただ、本書には、特にダムマニアさんやダムの専門家の方はかかわっていません。

中野: なるほど、では光元さんにお話をうかがいたいと思います。ご自身は、ダムがお好きですか。

光元: いえ、特にダム好きというわけではありません。むしろ、お仕事のお話を頂いてから調べ始めました。今回は、マニア層ではなくて、コンビニユーザーに向けての本として、ほとんどダムを意識したことのないような、いわばライトユーザーにダムを知って貰う狙いなので、とりあえず全然ダムのことを知らない自分でも興味が持てる、写真を見るだけでも楽しめるように作ろうと考えました。
 企画を進めるに当たり、ダムの本をいくつか見ましたが、専門用語が多くあったりしてちょっととっつき難い感じがしました。そこで、マニアの方とライトユーザーになり得る人のあいだをつなぐ存在として自分がいればいいだろうと思いました。だから自分が感じる素直な疑問や、専門用語すぎるところはきちんとわかりやすい表現にしたつもりです。もともと巨大構造物とかは好きでしたが、ダムに特別注目していたわけではないので、この本を作ることで一緒にダムのことを学んだという感じです。

今までのダム本とは違うように

中野: ネーミングも目をひきますね。「すごい!」って書いてあるし、インパクトがありましたから、早速、amazonで買ってみました。

宇田: 最初にこの本を見つけて頂いたのは、ダム好きの方、ダムマニアの方なのでしょうか?

中野: そうですね。ダムマニアさんのツィッターで、この本を書いているのは誰かと話題になっていたようです。今までの本は、誰が書いたのかだいたいわかるのですが、この本は全く解りませんでした(笑)。

宇田: 私たちの狙い通りです。

中野: 文章は、ダムマイスターの方とかが覆面ライターとして書いておられるのか。データはダム便覧に掲載してあることも載っているのですが、写真はダム便覧のものではないので独自に取材に行っておられるのかと思い、謎の多い本でした。

中野: 今までの本とは、取り上げたダムの選び方とかが全く違っていますしね。ダム好きな人が選ぶのは、まずは型式が大事で、人気があるのはアーチや重力式コンクリート、次いでロックフィル、それと規模の大きなダムや発電量の大きいものなどが多いようです。

宮ケ瀬ダムはエンターテインメント

中野: この本の見どころはどこですか?

光元: そうですね〜どのダムもそれぞれ良さがあってステキなのですが、個人的にはこの夏に宮ケ瀬ダムに子供を連れて行こうと思っています(笑)。宮ケ瀬ダムが最初のダムとの出会いでしたから、実際に行ってみて、資料を見ていた時とは全く違った迫力に圧倒されました。そこに立った時の重力式の「コンクリート感」がものすごくて、放流が始まった時の音、しぶきがすべてエンターテインメントとして楽しく、非常にワクワク感がありました。これは、普通に観光として訪れて、ダムの放流を見てもおかしくない場所だと思いましたし、周りは整備されているので、コンパクトに遊べる場所だというイメージもあります。美しさも大きさもあって、人工物としてのコンクリートの存在感にはとにかくしびれましたね。一緒に行ったカメラマンも興奮していました。宮ケ瀬ダムでダムが好きになるという人は多いのではないでしょうか。


宮ヶ瀬ダムのページ
中野: 宮ケ瀬ダムは首都圏から近いし、観光放流もやっていて地域に開かれたダムなので見に行きやすいダムですね。

宇田: 私も今回、この本を作ってみて、もっと他のダムにも行ってみたいという気持ちが強くなりました。とくに放流を見たいですね。今年、完成から50周年を迎えた黒部ダムは、ぜひ行ってみたいですね。

取材に行けないダムは、ダム便覧で

中野: 遠くのダムの記載も詳しいのですが、現地に問い合わせをされたのですか。何か参考にしたものはありますか。

宇田: ダム便覧は参考にさせていただきました。

光元: 一番信頼がおけるので利用させて頂き、各ダムの管理事務所に、原稿を送って見て頂きました。それが一番確実ですから。部分的に表記の違いもありましたが、それは統一させてもらいました。

中野: 実際に取材に行かれたダムはどのくらいありますか。

光元: 私が行ったのは5〜6ケ所、主に東京近郊のダムですね。点検放流のときに奈良俣ダムに取材に行きましたが、20〜30代の女性グループも見学にいらしてました。ダム巡りをする女性も最近増えたようですね。

中野: 本の最後には、ダム用語解説がついていますね。どういう狙いですか?

光元: まず自分たちがわからない用語を拾って書きました。この本を読むのに最低限知らないと読めないような言葉を入れています。ダムの初心者の方でも読みやすいように用語の解説をつけました。

中野: 取材に行ったダム以外は、ダム便覧を参考にされたり、資料や写真を頂いて原稿を作成して、先方に確認して頂いたという事ですが、それぞれ対応はどうでしたか。

光元: 原稿を送って見て頂いたダムでは、主に表現のニュアンスの違うところなどをご指摘頂きました。取材に行ったダムでは、「どういう本になるのですか」と興味深く質問されました。皆さん自分が管理しているダムが本に紹介されるのが嬉しいようでした。

出版のプロがダムを選ぶ目線は、どういうポイント?

中野: 目次の構成が、「日本一のダム」「放流が美しいダム」「観光で行きやすいダム」「歴史のあるダム」「造形美で異彩を放つダム」となっていますが、この構成案はどのように考えられたのですか。



宇田: ダムに行ったことがないという方に興味をもっていただくには、どうすればいいかということを、強く意識して考えました。

 「日本一のダム」を一番始めに持ってきた理由は、「日本一」とつけることによって、そのダムの特徴をよりイメージしやすくなるのではと考えたからです。ダムに興味をもっていただくための入り口として、イメージしやすさを重視しました。また、ダムの魅力と言えば、放流は欠かせません。そこで、2番目に「放流が美しいダム」を選びました。

中野: この本を見ると、写真もきれいで魅かれますし、アクセス方法もわかりやすく書いてあるので見てすぐに行きたくなりますね。
宇田: 撮影では、とにかく迫力のある写真を撮ってきて下さいとお願いしました。大変だったと思いますが、おかげでイメージどおりの内容にできたと思います。

原稿にならなかったダム

中野: 候補にあがっていても原稿にならなかったダムはありますか。沖縄のダムは少し書きたらないのでは? という感じがしましたが……。

宇田: ぜひ、そこを聞いて頂きたかった(笑)。選んだダムの数は相当ありましたが、何しろページ数に限りがあります。このページ数で収めるために、泣く泣く掲載を断念したダムもあります。


中野: 全国にはダムがおよそ2700基あるなかで、その中で選んで、パッとみて行ってみたいと思う魅力あるダムでないと載せられないということもありますね。割愛した中で、これは載せたかったというダムはありますか。

光元: そういえばアースダムを紹介していません。今回は、まず交通が比較的便利で行きやすいということと、地域に開かれたダムというかメジャーなところを中心に調べました。あとは相当に特徴がないと分けにくいですね。

中野: まだまだ、面白いダムはたくさんありますから、ぜひ今後も続編で紹介して頂きたいです。例えば、九州、四国、北海道とか地域別に特集されると行きやすいと思いますね。

中野: コンビ二エンスストアに並ぶ本としては、どういったジャンルの本が売れていますか。

宇田: ヨーロッパのお城や世界遺産、世界の絶景など、きれいな写真でパッと見たときのインパクトが強い本が、最近よく売れているという話を聞いたことがあります。

光元: マニアックなジャンルとしては、工場、廃墟、団地とか……。廃墟は相当ファンが多いですね。(笑)

中野: ダム好きさんの中にも、廃墟、鉄道、ジャンクションなどがお好きなようです。先日、道の駅カードを作ってはどうかという話をしていた時に、その道の駅の先にダムがあるから「この先でダムカードが貰えますよ」と宣伝して頂けると良いのですが、コンビ二エンスストアに本を置くというのも、まず店舗数がたくさんあるというところで非常に良い考えですよね。

第二弾の可能性は?

中野: どのくらい売れたら第二弾を考えますか。

宇田: まだ、発売したばかりですから……。ご好評いただけたら考えたいと思います(笑)。ダムマニアの方は独自に活動されていて、情報の発信力がすごいと思います。イベントなど、魅力的な活動を本当にいろいろとされていますよね。そうした方々のあいだで本書が話題になっているということは、とても嬉しいです。

ライトユーザーがダムマニアになるように

中野: ダム本を手にしてくれる読者に向けて、どんなことに共感して欲しいですか?

光元: とにかくダムに行ってみて、凄いものだということを目で見て、身体で感じて欲しいです。まずは興味を持ってもらうことですが、マニアではない目線ということが売りだったので、まずは手にとってもらい、ダムという自分が知らなかった世界に興味を持ていただいて、近場にあったら一度行ってもらえたら今回の本は、成功じゃないかなと思っています。そこから先は、今回書けなかったダムの役割とかについても知ってほしいのですが、まずはそういうダムへの興味の入り口になる本であって欲しいと思っています。

中野: ダムに足を運んで貰えるとダムの魅力がわかってもらえて、ダム好きさんがもっと増えると思うのですが、実はダムは山奥にあるので、なかなかわかりづらいところもあります。ダムマニアさんのほか、ダム技術者や学識経験者など、ダムの専門家に対して、何か一言ありますか?

宇田: 逆にこちらが、本書についての感想をお聞きしたいですね。ダムマニアの方、ダムマイスターの方に知っていただき、さらにダム巡りのツアーに参加される一般の方にまでに広がっていったら嬉しいです。

中野: 地域別とかのダム本を作ると、ツアーでも配りやすいのかもしれませんね。この本で沢山の方にダムを知ってもらえるといいですね。
 本日は楽しいお話を有難うございました。

(2013年8月作成)
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