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■ 大いなる川、よみがえれ 
 以上、明治43年建設の小山発電所(昭和11年廃止)から平成14年完成長島ダムまで、大井川水系のダム、発電所を概観してきた。

 大井川水系の水資源開発状況は、前述の井川ダムなど15のダム築造により、有効貯水量28,729万m3、洪水調節容量 4,762万m3、不特定用水容量 290万m3、灌漑容量 250万m3、発電容量21,867万m3、最大出力 715,700Kw、常時出力 227,800Kw、最大使用量 753.4m3/s、常時使用水量250.72m3/s、年間発生電力量421,488MWH、都市用水容量 2,100万m3、都市用水開発水量 518,400m3/日、上水道容量2100万m3、上水道用水開発水量 518,400m3/日となっており、発電容量は有効貯水量の76%を占め、さらにダム開発により、大井川流域の鉄道、道路、通信の社会インフラ整備がなされ、地域の発展に貢献していることがよくわかる。(『ダム年鑑2003』)なお、平成13年度における中部電力・発電電力量1271億Kwh の構成比は、LNG46%、原子力20%、石炭19%、水力10%、石油5%となっている。



 大井川の水は、上中流域で水力発電に利用され、導水管でもって60m3/s〜90m3/sが川口発電所に送水される。さらにこの地点から39m3sの水が下流域で上工水、農水に配水されており、殆ど大井川本川に戻らない。このため大井川は水の物質循環の機能をうすれさせ、至る所に土砂が堆積し、生態系をこわし、減水区間により景観までこわし、流域住民の生活に影響を及ぼしている。いまでは、名勝地「鵜山の七曲がり」はその面影を失っている。これらの影響について、森薫樹著『ドキュメント・ダム開発−新大井川紀行』(三一書房・昭和58年)の書で述べている。                 

 本来、川は上流から水を流すだけでなく同時に、木の葉や土砂などを含めて様々な物質をも流す。そしてミネラルを含んだ豊富な水は、川や海で様々な生物のすみかやエサとなり、その食物連鎖によって生命が育まれてきた。一方、川の力によって流出した土砂は白砂の海岸をつくり、その水は汽水域で豊かな漁業資源をもたらしてきた。
 かって、大井川の流域の人々は、このような水の物質循環のもとで林業、農業、魚業の生活がなされてきた。ところが、明治以降、ダムや堰堤の築造に伴う水力発電の開発によって、徐々に川を独占的に使用されるようになり、水の物質循環の機能がうすれ大井川の荒廃をまねき、大井川流域の住民と川との関係を断ち切ってしまった。
 電力エネルギーは日常生活には欠かせないものであるが、この電力の恩恵にあずかっているのは、大井川流域から遠く離れた多くの人々である。これらの人々は大井川流域が荒廃していることをほとんど知らないと思われる。

 塩郷堰堤直下清流公園に佇むと、大井川の土砂堆積の河原を見ることができる。この傍らに平成元年3月塩郷堰堤から3m3/s(10月ー3月)〜5m3/s(4月ー9月)の維持用水の放流を記念して、「桜花 五トンの流れに 照りはえて 大いなる川 よみがえりたり」の斎藤滋与史静岡県知事の歌碑(平成2年8月川根地域振興協議会建立)がある。しかしながら、ここからの大井川の流れを眺めると、「大いなる川 よみがえりたり」とは程遠い。

 平成9年河川法の改正で、治水、利水に加えて河川環境の保全と整備が規定され、河川環境の重視が制度化された。この制度を前向きに捉え、大井川の水量増加を図り、水の物質循環を復元することが急務となってきた。勿論、電力エネルギーも重要である。それ故に、大井川の文化と電力の文化の共有化、調和を図らねばならない。川は人間だけのものではない。あらゆる生物を含めた共有資源であることからコモンズの思想を持つ必要がある。
 江戸期、川越制度による常水76cmの水深とまでは言わないが、せめて河川維持用水として、水の物質循環がおこなわれる増量が望まれる。21世紀は奥大井の山々、大井川、駿河の海の復元の時代でありたい。

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 おわりに、その他の大井川に係わる書を挙げる。
 中部電力・静岡支店大井川電力センター編・発行『大井川・流域の文化と電力』(平成13年)、浅井治平著『大井川とその周辺ー交通路の変遷と徒渉制』(いずみ出版・昭和42年)、島田市史資料編等編さん委員会編『大井川の川越し』『島田宿と大井川』(島田市教育委員会・平成4年)、松村博著『大井川に橋がなかった理由』(創元社・平成13年)、静岡県編・発行『大井川の治水と水害』(昭和28年)、建設省静岡河川工事事務所編・発行『大井川治水経済報告書』(昭和49年)、若林淳之著『大井川土地改良区誌』(大井川土地改良区・昭和51年)、大井川右岸土地改良区編・発行『大井川右岸用水史』(平成2年)、上野智司著『大井川周辺の旅』(静岡県ユースホステル協会・昭和45年)、佐野正佳著『来てGO!大鉄〜大井川鉄道各駅停車ぶらり旅』(静岡新聞社・平成14年)、高橋裕・河田恵昭編『水循環と流域環境』(岩波書店・平成10年)、和田英太郎・安成哲三編『水・物資環境系の変化』(岩波書店・平成11年)

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