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河川法全面改正とダム建設

 明治29年に施行された旧河川法では、河川管理者は都道府県知事または市町村長であり、重要な工事や大規模な改修計画に限って政府の直轄事業に指定することが出来た。このため広域的な河川管理を推進するには多くの障害をかかえざるを得なかった。中でも、治水・利水の目的をもつ多目的ダムについては、関係する政府機関や上下流の地方自治体が広範囲にわたるとともに、建設経費のアロケーション(分担)に関する調整をはじめ、ダム操作方法に関する方針の統一、維持管理費の費用負担に関する調整などで意見不一致や対立することも少なくなく、手続の簡素化などが求められていた。

 改善を求める時代の要請を背景として、昭和39年(1964)河川法が与野党の対立する中で全面改正された。建設大臣河野一郎の力ずくの国会対応が功を奏したとされる。新河川法では、河川を一級、二級に区分し、一級河川は国が水系一貫の方針の下に直接管理することを原則とした。二級河川は都道府県知事が管理するものとされた。同時に、河水を利用する権利である水利権の許認可、堰堤(ルビえんてい)操作規則の制定、洪水時の指示、渇水調整などとともにダムに関する特則が設けられ、河川の上流から下流までの一括管理がまず制度で充実された。

 ダムによる洪水調節は早期の治水効果が期待できる。それは改修区間がすべて完成しないと効果が見えにくい河川拡幅に比較しても明らかであろう。そこで政府部内では、西日本水害(28年)、狩野川台風(33年)、伊勢湾台風(34年)と相次いで日本列島を襲った大水害への再発防止の切り札としてダムによる洪水調節が期待された。新河川法で新たに規定された工事実施基本計画で見ると、平成16年(2004)現在で109の一級河川の水系のうち、86水系がダムなどによる洪水調節を含めた治水計画となっている。ダムによる洪水調節と河道による洪水流下分担は河川管理者によって決められるが、86水系の平均では毎秒約8000立方メートルの下流基準地点基本高水ピーク流量に対して、ダムが22%の洪水調節を分担している。

 国土交通省が平成15年3月にダム事業を対象に実施したプログラム評価(政策レビュー)では、ダムによる洪水被害の軽減効果について高い評価を下している。ダムによる洪水調節は、下流河川の水位低減をもたらし、下流の堤防を守るための負担を大幅に軽減している。上流からの流木などの漂流物の流下を食い止めることから、下流での流木などによるせき止めや橋脚破壊などを回避させている。

 同省によると、16年8月30日に鹿児島に上陸した台風16号は、日本列島を縦断し四国吉野川流域でも浸水家屋57戸、浸水面積約200ヘクタールに及ぶ大被害をもたらした。この大型台風による大出水によって、早明浦(ルビさめうら)ダム(水資源機構)には計画高水流量毎秒4700立方メートルにほぼ匹敵する毎秒約4000立方メートルが流入した。同ダムは洪水調節容量(9000万立方メートル)を直ちに活用して、約5400万立方メートルをダム湖に貯水させ、これにより放流量を大幅に低減させた。同時に、新宮ダム(水資源機構)、柳瀬ダム(愛媛県)、富郷ダム(水資源機構)の銅山川ダム群それに池田ダム(水資源機構)の洪水調節により、下流の井川町三好大橋付近では洪水の水位を約1メートルも低下させ浸水被害を最小限に食い止めた。ダム群がなかったならばどうであったろうか。大洪水が流域を襲って住民の生命・財産が奪われる惨劇になったことは自明である。


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