◇ 3. 緑のダム
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竹林説によると、緑のダムは洪水調節効果も渇水時の水補給効果もないと論じるが、その効果はどうであろうか。緑のダムに関する書を紹介する。
蔵治光一郎・保屋野初子編著「緑のダム−森林・河川・水循環・防災」(築地書館・平成16年)は、2004年1年31日に東京大学愛知演習林が主催した愛知県瀬戸市で行われた「愛知演習林シンポジウム、緑のダム研究の現状と将来展望」がベースとなった書である。
緑のダム機能の意味については・川の水量を調節する機能・水を一時的に貯留し、ゆっくりと流す機能と捉えている。だが森林には(イ)ゆっくり流す機能と(ロ)水を消費する機能を持っており、この2つの機能は各々相反するものである。 緑のダム論者は、ゆっくり流す水源涵養を重視するが、その水量には限界が生じるし、荒廃した森林ではそれが顕著に現れるという。
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「緑のダム−森林・河川・水循環・防災」 |
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さて、この書で、蔵治光一郎の「森林機能論としての緑のダム論争」をみてみたい。
@先ず、治水計画は森林の保水機能を前提に計画されているか。 「治水ダムには森林の保水機能は考慮されていない」という。
A森林は中小洪水には一定の効果をはっきするものの大洪水の際には洪水を緩和する機能は無視できるかどうか。 これに対し、「森林の方が森林以外の場所よりも貯水量が大きいので、満水になるまで時間がかかり、その分洪水の発生が遅れ、ピーク流出量を下げる効果をもたらす。 さらに、斜面が飽和した後も、斜面における飽和した地中の水の流れにおいて、森林土壌は他の土壌よりゆっくりと水を流すので、洪水の到達を遅らせ、ピーク流出量の軽減に寄与する。また、これらとは独立した森林の機能として「水を消費する機能」があり、大雨前に水をより多く消費してしまうため、大雨はその分だけ多く貯水できることになるので、これも洪水の軽減につながる」と論じる。 ただ、現時点での科学のレベルでは森林が大洪水の軽減にどの程度数値的に決定するのか難しい、と指摘する。
B森林の成長は樹木の蒸発散量を増加させ、渇水時には河川への流出量をむしろ減少させるかどうか。 これに対し、「森林が渇水に及ぼす影響について、ゆっくり流す機能がプラス作用する一方で水を消費する機能がマイナスに作用するため、そのどちらかが強く作用するかで、渇水を緩和する場合、影響がない場合、渇水を激化させる場合の3通りになるが、最新の研究では影響はない」と結論づけている。
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また、岡本芳美著「緑のダム、人工のダム」(亀田ブックサービス・平成7年)によれば、森を大切にすれば、人工のダムは必要でないというダム不要論に対し、やはり人工のダムは必要である、と論じる。
そのダム必要論については @日本の国は洪水の国である。 A後から川の水を利用しようとする人はどうしてもダムを造らなければならない。 B日本の国では水は余っていない。水は不足しており、この水不足は緑のダムでは解消できない、と述べている。
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「緑のダム、人工のダム」 |
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さて緑のダムに関し、様々に論じ合っているが、日本のダムの80%は河川上流域の森林地帯に造られており、森林の働きはダムの効用を補充すると指摘し、森林とダムとは共存すべきであると主張する。それは東京都水道局で、小河内・村山・山口各貯水池などの多摩水源施設管理を30年間勤められた島嘉壽雄著「森とダム−人間を潤す」(小学館スクウェア・平成14年)である。森林とダムについて、次のように論じる。
まずダムの欠点を5点挙げている。 @流况の変化を及ぼす。 A河床の変化を及ぼす。 河水とともに流下する土砂が貯水池内に堆積するため、貯水池の上流部における河床の上昇とダム下流部における河床の低下となって現れる。河川に多くのダムが築造されると河口近くに海岸浸食が起こっている。 B河川水温の変化を及ぼす。 ダム取水口が湖の中層または下層にあると河川表流水温より低い温度の水が下流に放流されることになる。
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「森とダム−人間を潤す<」 |
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C水質の変化を及ぼす。 水質の変化は流况の変化やダム湖が種々の物質を貯留することによって起こる。 D生物生態系の変化を及ぼす。 前述の環境変化が複雑に影響しあって生物生態系の変化が現れる。
これらのダムの欠点について、ダム技術者たちは、河川維持用水の確保、土砂堆積の浚渫、貯水池内の水質改善、魚道設置などの対応を図ってきた。 そこで、ダムの欠点を補うための森林の貯水池保全機能を挙げている。 @森林からの土砂流出量を毎年1ha当たり1と仮定すると、農地・裸地・崩壊地は10、100、1 000倍になるという。 貯水池に流入する土砂を少なくしているのが森林の働きの一つである。しかし、1日200o以上の降雨があると土壌に雨水を浸透させる余地が少なくなり、地表面を雨水が流れ、土壌を浸食して土砂を流出させる。 A雨の中のリンや窒素を森林が消費するので、貯水池の富栄養化防止に役立っている。 Bダムと似て、森林も水を貯えて、徐々に貯水池に水を送っている。
このように森林は堆砂、水質、貯水の面でダムの欠点を補っていると指摘する。 さらに、ダム最低部の放流口以下に溜まる汚泥の問題について、その汚泥を除去するには綿密な予備調査が必要である。一方法として成層期に最低部に溜まった汚泥を夜間の発電電力を使って真空ポンプで吸い上げ汚泥を濃縮し、凍結、融解法によって土壌と水分に分離するのも良い方法であろうと論じる。
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おわりに、人工のダムではないが、自然災害によって出現する天然ダムについて、田畑茂清・水山高久・井上公夫著「天然ダムと災害」(古今書院・平成14年)を掲げる。 限界はあるものの天然ダムが生じないように森林の整備、管理は大切であり、森林環境税によってその管理にあたることも止むを得ないものと考える。
以上、いくつかの書を挙げて、ダム論、緑のダム論を紹介してきた。このようにみてくると、森林とダムとは密接に関係していることが理解できる。地球温暖化の今日、森林とダムとの共存が益々重要になってきた時代だといえるのではないだろうか。
森は海を海は森を恋いながら 悠久よりの愛紡ぎゆく (熊谷龍子)
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「天然ダムと災害」 |
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