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ダムの役割なぜ理解されないのか
- 治水編(上) 洪水調節の現実 -

日本ダム協会専務理事 横塚尚志
 
(これは、建設通信新聞(2010.2.8)からの転載です。)
 
綱渡り操作強いられる日本のダムの特性

 わが国のダムがどのような形で登場し、どのような役割を果たしてきたのかは、1月20日付の本紙に記したとおりである。それでは、こんなに役に立っているダムが国民に十分理解されているのかというと、残念ながらそうではない。なぜ、なかなか理解されないのであろうか。

 理由の一つは、ダムによる洪水調節の効果が直接は目に見えないからである。現実に人々の目に触れるのはダムによる洪水調節が終わった後の姿だ。ダムによる効果は、それと、もしダムがなかったらどうなっていたのかという現実には起こらなかった事象との差として理解されるが、その一方は現実には起こらなかった仮想現実なのであるから、ダムの効果といってもなかなか実感としては湧かないのである。

 堤防にも似たようなところはあるが、こちらの方は、堤防が切れて水浸しにならないまでも、目の前で川いっぱいに濁流が流れている。必ずしも想像力の豊かでない者でも、もし堤防がなければどうなるのかくらいは容易に想像がつく。

 それに対してダムによる洪水調節は直接には認識されにくい。その上、ほとんどの場合、ダムは洪水調節を行っている間に貯めた水の一部を放流する。こちらの方はダムを眺めていればすぐに分かるし、テレビにでも放映されれば誰の目にも一目瞭然である。そのとき、仮に下流側で氾濫でもしていたら大変である。

 現実に発生している現象は、ダムから放流しているという事実と下流側では氾濫しているという事実である。人々はそれを簡単に直接結びつける。「ダムがあったから氾濫が起こったのだ」と。

 実際には、もしダムがなければもっと多くの洪水が流下して、もっと大きな氾濫が発生したであろう。しかしそんなことは人々には分からない。現実に目に見えているのは、ダムからの放流と下流側での氾濫だけなのだから。その上、普通の人は、そもそも洪水調節の間にダムから放流が行われるなどということは考えてもいない。それが誤解を増幅する。

 確かに米国などの大陸国家にあるダムでは、洪水の水を全部ダムに貯め込む方が普通なのだ。だから、洪水調節を行っている間に放流などをしたこと自体が問題で、それこそが洪水調節失敗の何よりの証しなのだ、と考えてしまう。

 しかしわが国の現実では、大洪水に際して洪水のすべてをダムに貯め込むなどという芸当はまずできない。流域の広さに対して発生する洪水流量はあまりにも大きく、ダムによって確保できる貯水容量はあまりにも小さいからである。実際に流せる時に貯まった洪水の一部をダムから放流しておかなければ、すぐにそのダムは満杯となって、現実にしばしば発生しているように、洪水調節能力を失ってしまう。

 わが国のダムは常に綱渡りの洪水調節を強いられているのである。


(平成22年3月作成)
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