日本ダム協会専務理事 横塚尚志 (これは、建設通信新聞(2010.2.10)からの転載です。)
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洪水調節の瞬間「見える化」で臨場感
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どうしたらダムによる洪水調節の有難みを本当に実感してもらえるようになるのだろうか。一つは、河川の水位低下よりももっと直接的な手段を使うという方法である。
今は氾濫した場合の状況を相当正確に高速でシミュレートできるようになっているので、洪水が起こるたびに素早く氾濫計算を実施して、「ダムがなければここまで水に浸かっていたのですよ」「あなたの家が被害を免れたのはダムのおかげですよ」と教えてあげるのだ。
これなら普通の人にもよく分かってもらえると思うのだが、問題は氾濫というものはそうたびたび起こるものではないということである。
もともとダムによる洪水調節は相当大きな洪水を対象にして、万が一の場合でも破堤、氾濫が起こらないように計画されているので、通常起こる程度の洪水ではダムがなくても川の中に納まってしまい、そもそも氾濫が発生しない。
それを“もし氾濫したら”というフレーズでやると、「狼少年」になってしまう恐れが多分にある。この方法は、ダムがなければ氾濫したかもしれないような大洪水の時にしか使えないのだ。
もっと日常的にダムが働いている姿を理解してもらうためには別の仕かけが必要である。
そもそもダムによる洪水調節がうさんくさい目で見られるのは、発表のタイミングという問題もある。いつも発表が遅すぎるのだ。
よくて2、3日後、ひどい時になると1週間後とか、発表しないことすらある。
洪水の被害が発生していてその復旧に追われている時に、「実はダムはこんなに役に立ったのですよ」、なんて発表をしたところで、被災者の目には言い訳としか映らないだろう。後出しジャンケンは常に疑われるのだ。これを防ぐためには、現に洪水調節を実施している瞬間に、常にその状況を伝える努力が必要である。
個々のダムごとに、ダムへの流入量、放流量、そしてその差分である貯水池の水位を実況中継してみるのも一つの方法かもしれない。
「今のダムの放流量があなたの所に届くのは何時ごろですよ」、くらいのことを言い添えれば、より実感として感じ取ってもらえるだろうし、住民の避難行動など実際の役にも立つだろう。
洪水調節のためにダムの操作を行っている現場を実際にのぞいてみると、急変転する先の見えない気象状況の中で、不十分な洪水調節容量をどう工面して下流側の被害をいかに少なくするのか、それこそ一瞬でも気の抜けない作業の連続である。
まるで戦場にいるような状況だから、その操作を間違いのないようにしっかり行ってもらった上に、このような実況中継まで押しつけるのはいささか気の毒な気もしないではない。だが、そういう苦労も含めて、洪水調節の実態を常に国民に知らせ続ける地道な努力を怠ると、結局は国民の理解を得られずに終わってしまうのではないだろうか。
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(2010年3月作成)
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