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◇ 3. 長崎県の河川

 長崎県の河川をみてみると、昭和43年に一級河川に唯一指定された本明川(諌早市)は延長21q、流域面積87km2、佐々川(松浦郡)は延長21.5q、流域面積85.98km2、中島川(長崎市)は延長4.9q、流域面積19.1km2に過ぎない。

 長崎県の河川数は376、区間延長は1,150qに及ぶが、河川延長は短く、勾配も急な中小河川ばかりであり、洪水比流量や河状係数は、日本の主要な河川と比較した場合、非常に高い値を示している。このように長崎県の河川は平常時は流量が少なく、大雨になれば一気呵成に流出してしまう特徴をもっており、しばしば洪水・土石災害と渇水を繰返してきた。昭和32年7月の諌早大水害、その15年後に起こった昭和57年7月の長崎大水害を追ってみたい。

◇ 4. 長崎県の水害

1)諌早大水害(昭和32年7月25日)

 諌早市教育委員会編『諌早水害誌』(諌早市・昭和38年)から諌早市水害の惨状をみてみたい。
 本明川は五家原岳(1,057m)に源を発し、諌早市のほぼ中心を貫流し、有明海に注ぐ全長21qの小河川である。平常の水量は少ないが、一度大雨に遭うと忽ち氾濫を起こす。

 昭和32年7月25日、諌早市を中心に長崎県を襲った大水害はわが諌早市にとっては未曾有の一大痛恨事であった。これは、一昼夜に700ミリから800ミリを超える驚くべき雨量の梅雨末期における局地的異常豪雨によるものであった。

 特に、諌早市が超豪雨に見舞われたのは、南西方向から突入した「湿舌」の突端が諌早上空にあって、ここで雷雲が最盛段階に達した7月25日午後9時から26日午前1時の間であったといわれる。

 水魔は多良岳の山肌をいたるところで剥ぎ取り、岩石を覆し、大木を押し倒し、上流本野地区の河畔の人家を呑み、田畑も一面の濁流と化した。勢いを増した奔流は諌早駅前東永昌町一帯を襲い、多くの人命と家を奪い、四面橋東側上方の堤防をおし切って、天満町を突き切り、直線コースをとって高城神社裏の屈曲部右岸堤防を破壊、更に下方眼鏡橋付近一帯を破壊して市街地に突入した。家が流れる。人が呑まれる。流れる屋根に乗って悲鳴叫喚する人の群に絶間ない雷光と豪雨は襲いかかり、この世ながらの生地獄の姿を呈し、自然の猛威の前に人間の無力、はかなさをまざまざと感じさせられた。

 死者494人、行方不明者45人、重傷者1,409人、軽傷者2,015人、住家流出725戸、半壊575戸、田流失埋没420町、畑流失埋没385町……等々。

 濁流の中に身の危険を顧みず人命救助に挺身された消防団や警察の方々の功績は偉大なものがあった。然し、ここに痛惜に耐えないことは苦難を極めた救助作業中、消防団5名の人々が濁流に呑まれて自らの命をおとされたことである。

 その後、本明川は国の直轄河川に編入され、根本的な改良工事が行われた。ほかの河川や道路・橋梁・農地・農業用施設、学校等公共施設も見事に復旧し、また被災した中央市街地は都市計画区画整理によって復元した。

2)長崎大水害(昭和57年7月23日)

 昭和57年7月23日、時間雨量100ミリをこえる集中豪雨が3時間も続いたため、長崎市内を流れる中島川、浦上川、八郎川等の中小河川は大氾濫し、また鉄砲水が噴出し、山腹の東長崎地区等山崩れや土石流を引き起こし、住家をひと呑みにした。長崎市内は完全に都市施設、交通施設が麻痺した。

 河口栄二著「濁流」(講談社・昭和60年)は、長崎大水害の惨状を刻々と描き出した。
 豪雨は勤めに出ていた夫の帰宅途上と重なり、家には、妻、子供、老人達が残されていた。頼るべき夫の不在が妻たちの不安をいっそう駆り立てていた。主婦たちの119番通報には絶叫、悲鳴がときには入り混じった。
 「家の後の崖が崩れたのですっ/B>」
と怯えた声で通報してきたある主婦は、自宅の道順を説明している最中、土砂が家になだれこみ悲鳴をあげていた。
 通信係員は
 「もしもし避難してくださいっ、避難を」
と叫び、自宅の電話番号を聞くのが精いっぱいであった。

 死者、行方不明者299人、全半壊家屋1,538棟、床上浸水17,909棟、自動車冠水被害約8,000台、公共施設及び一般被害額は3,000億円に達した。丁度、豪雨時が満潮と重なったこともさらに被害を増大した要因となった。

  満潮と豪雨重なる魔の時刻
    たちまち濁流は市街をおそひぬ
 
                    (吉田ふみ子)

◇ 5. 長崎市水害緊急ダムの建設・改修

 昭和57年7月の長崎大水害を機に長崎県による長崎市水害緊急ダム事業がスタートした。水害の要因となった市内を流れる中島川、浦上川、八郎川、それに西彼杵半島の雪浦川には、ダムによる抜本的な治水対策を目的として次のように施行されている。

@ 中島川にある利水専用のダムの本河内高部ダム、低部ダムを利水機能、洪水調節を併せ持つ多目的ダムに改修する。
A 中島川支川西山川にある水道専用西山ダムを洪水調節機能を併せ持つ多目的ダムに改修する。
B 浦上川上流の利水専用浦上ダムを洪水調節機能を併せ持つ多目的ダムに改修する。
C 中島川の代替水源と八郎川の治水のために新たに中尾ダムを建設する。
D 浦上ダムの代替水源と雪浦川の治水安全度向上のため雪浦第二ダムを建設する。


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