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尾口第一ダムの改修工事

 尾口第一ダムは、石川県の手取川に北陸電力が所有する尾口発電所の取水ダムで、堤高28.4m、堤頂長42.2m、洪水吐ゲートラジアルゲート4門)を有する発電用ダムであり、洪水吐ゲートが約70年を経過し取替えの必要が生じたことから、平成20年6月より「ゲートレス化」の改修工事が実施された。ここにそのあらましを紹介する。
 なお、基礎資料として、北陸電力株式会社 中島 奈緒美、佐藤工業株式会社 前田 佳昭「尾口第一ダム改修工事について −ハイダムのゲートレス化−」(第70回ダム施工技術講習会)の講演資料を使用した。


 
■尾口第一ダムのあらましと改修の必要性

 尾口第一ダムは標高2,702mの白山を源に石川県の南部を流れる延長72kmの1級河川手取川水系のの支川である尾添川に位置する。



 発電用ダムであり、取水した水は尾口発電所で発電に利用される。
 尾口発電所は、尾添川から8.85m3/sを取水する延長4.3kmの第一水路と、目附谷川から2.67m3/sを取水する延長4.0kmの第二水路の2つの導水路を有している。尾口第一ダムは、第一水路の発電用の取水ダム。
 この尾口第一ダムの上流には三ツ又第一発電所という発電所がある。



 尾口第一ダムは、丸石谷川・中ノ川・蛇谷川という3河川の合流部の直下流に設置されている。集水面積は101.21km2、ダムの貯水容量はない。管理のために、通年、1名以上のダム勤務員が左岸側にあるダム管理所に常駐。
 このダム管理所等ダム左岸側の設備へ行くためには、堤体にある洪水吐ゲートの巻上げ機を収容している巻上げ機室の上の通路を使用する。


 標高は550m地点にあり、両岸は1,500m級の山々に挟まれた石川県内有数の豪雪地帯。白山国立公園の第二種特別地域内であり、イヌワシやクマタカの生息地でもある。ダムの右岸側には石川県と、世界遺産である白川郷のある岐阜県の白川村をつないでいる白山スーパー林道(全長33.3km)が通る。
 この白山スーパー林道がダムヘのアクセス路だが,冬期間(12月初旬〜4月下旬)は積雪によりダムの下流約2.5qの林道始点から上流部が閉鎖されてしまうため、この期間ダム勤務員は冬期通路(トンネル)を約1時間歩行して毎日交替していた。



 尾口第一ダムは利用水深を有しない取水池であるため、少量の降雨でも洪水吐ゲートからの放流が必要となり、年間約200日程度、洪水吐ゲートの操作を行っていた。
 写真は,平成3年6月29日の出水時の状況。このときは最大流入量は614m3/sで、既往第3位。既往最大流入量は、昭和36年の9月に来襲した第二室戸台風によもので、780m3/s。


 雪による被害もある。積雪が最大5m近くにもなる豪雪地帯で、急峻な山肌をもつ地形であることから、過去から幾度となく雪ダムの決壊による災害を受けてきた。雪ダム決壊による災害とは、なだれが発生し、河道を堰き止める雪ダムが形成され、そこに流水が貯留、その雪ダムに貯留された流水が水圧等に耐え切れなくなり決壊し、貯留されていた流水と雪塊が一気に下流に押し流される現象のこと。
 尾口第一ダムの直上流では3河川が合流しており、雪ダム決壊の事象は毎年のように発生、そのうち十数年に1回程度は設備に被害を及ぼすような大規模なものだった。
 写真は、平成16年2月22日に発生し被害の状況。ダムの上流左岸側より写しており、この時は幸いダム本体・洪水吐ゲート等の主要な設備に異常はなかったが、
 @取水池の約半分が雪塊で埋没
 A取水口・導水路に大量の雪塊が流入し取水・発電停止
 B予備エンジン室シャッターを破損、安全柵等が変形
といった被害が発生した。


 以上のような尾口第一ダムの現状をまとめると、
洪水吐ゲートが経年70年と老朽化している
・山間僻地で丸一日、たった1人での勤務のうえ、冬期には交替も過酷
・洪水吐ゲートからの放流日数が多い(年間約200日)
・急激出水、急激放流に対応するためには熟練技術が必要
・雪ダムによる被害リスクが高い
といったことがあげられる。

 加えて、近年、安全なダム管理のため自由越流式のダムが主流となってきているといった社会的背景や、熟練者の減少、労働環境の改善、安全・安心な設備形成による危険リスクの回避が主流となってきているといった社内的背景がある。

 そこで、これらの背景を踏まえて尾口第一ダムの将来的な維持管理方法を考慮した最適なダム改修方法について検討した。

■改修方法の検討

 改修方法として、洪水吐ゲートの単純更新を含めた3案について検討を行った。
 (改修案1)洪水吐ゲート取替案
 (改修案2)上流発電所である三ツ又第一発電所との直結案
 (改修案3)ゲートレス化によるダム改修案

 比較検討の結果、改修案3が採用された。これは、
 ・ゲート操作がなくなることによる放流の安全性や信頼性、維持管理性
 ・労働環境が向上する
 ・残留域の水資源の有効利用
 ・一番経済的である
と言った点から総合的に判断したもの。


 
 

 
 

■ダム改修工事

 工事内容は、大きく4点ある。
  ★洪水吐ゲート撤去(4門)
  ★ダムの嵩上げ(4.5m)
  ★通路橋の架け替え
  ★排砂門の大型化


 以下写真で、工事の状況を追ってみる。













 【 完 成 】


[関連ダム]  尾口第1ダム(再)
(2011年12月作成)
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