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ダムの実施計画調査の資料を見て思うこと

これは、本田典光様の投稿です。

 本稿は当初、あるダムの実施計画調査(以下「実調」という。)関係の資料を見て、どうしてもわからない点、疑問点をまとめようとした。しかし、実調中のダム事業で、その事業について疑問を提起した場合、実施している調査への影響や関係者に迷惑がかかるなどのトラブルが発生する可能性が考えられるので、本稿では事業について具体的な記述を避け、抽象的な表現にとどめています。

はじめに

 ダム事業実施者が事業を実施しようとするときには、最初に実調に着手する。この実調は、当該事業で実施する施設等を詳細に検討して事業で実施すべき全容を決定するための調査であると思っている。

 ダム事業の内容を知りたくて、ダム事業実施者が公表している資料を探すとその資料のボリュームは非常に少ないことに気づく。公表資料が少ないということは、担当者以外の人が、ダム事業実施者が行おうとしている事業についての考え方や全容をつかむことができないということである。また、公表している資料も、主に結果(結論)だけを公表しており検討過程、比較検討したデータやそのデータの内訳がわからないため、ダム事業全体を理解することができず、素人が単純に考えるとどうしても不明な点が多く残ってしまうのが現状である。

 あるダム事業について公表されているデータを読んでみて、治水計画の素人が当該ダム事業の疑問点をまとめてみた。

流域概略図

 前述のとおり、流域図やダム計画位置等の入った流域図を記載しない方針のため、説明の便宜上、下図のような流域概略図を作成した。この流域概略図は、実際に存在する河川の流域図ではない。
         

河川整備計画

 当該ダム事業は、整備局が策定した「○○川水系河川整備計画」(以下「河川整備計画」という。)に位置付けられており、河川整備計画では、「ダムで、新たに洪水調節機能を確保するため、調査・検討をおこない必要な対策を実施する。このことにより、本事業の対象となる既往洪水(以下「対象既往洪水」という。)と同規模の洪水が発生した場合、基準点における流量を既設他ダムと併せ洪水調節後の流量まで減じる。」といったようなことが書かれているのが一般的である。

 この基準点における流量を減じるということは、対象既往洪水と同規模の洪水が発生した時、基準点上流の既設の洪水調節施設と新設の洪水調節施設を併せて、ピーク流量を低減するということである。

現況での災害想定と対策案

 流域の現況河道で対象既往洪水と同規模の洪水が発生した場合、多くの住宅での浸水被害が想定されている。下図は、ダム事業の実施予定個所より下流の想定氾濫区域図の概略図である。
 なお下図は、当該事業の「ダム事業の新規事業採択時評価」(以下「事業採択評価」という。)の想定氾濫区域図を参考に作図したもので、実際に公表されているダム事業の想定氾濫区域とは相違がある。


 対象既往洪水と同規模の洪水が発生した場合に堤防決壊、越水等が発生し家屋の浸水被害がおこる。整備局は、その被害を防止、軽減するため河道掘削等を含む複数案を提案し、その案を比較検討して最も有利な案として「ダム事業案」を選定している。

 以下は、比較表の例である。(下表は、説明のための例示であり実際の比較表はもっと詳細に比較している。)


対象既往洪水について

 対象既往洪水について、当該河川の出水記録を参考に推測すれば、概ね以下のような内容だと思われる。

 大型で強い台風が、本州に上陸後東進した。当該流域では、朝から雨が降り続き、翌日の午後に強く降った。その2日間で降った雨は、流域で200mm以上の観測所もあり、各地で記録的な降雨となった。その後、低気圧は東海上に去り県内の天気は急速に回復したが、2日間の降雨で河川が増水し、記録的な出水となった。
被害状況は、流域各地で全壊家屋、半壊家屋、床上浸水、床下浸水が発生した。

 当該ダム事業が、実調に入る時の資料で公表されている事業採択評価によれば、前述の対象既往洪水における流域の被害は、全半壊、床上浸水、床下浸水が多数発生したと記述されている。

 また気象庁で公表されている観測データから調べてみると、当該台風の4日間の総降雨量が300mm以上を観測した観測所もあり、その他250mm〜200mmの降雨を多くの観測所で記録している。(気象庁の観測データでは、4日間のうち1日目と4日目の日当たり降雨量の最大は3mm(1雨量観測所)であり、多くの観測所では、1日目と4日目の降雨は記録されていない。)
 このことから出水の状況を推察すると気象庁の雨量観測所でも2・3日目に降雨が集中し、流域全体で大出水となっていると想像できる。
 出水の状況であるが、支川流域の降雨が大きく、それによって大出水になったと考えられる。次に集水面積が大きく150mm以上の降雨の面積が広く分布している本川の出水となっていると思われる。当該ダムの計画されている河川は集水面積が狭く、対象既往洪水での出水は支川、本川に比べて小さかったように思われる。(整備局が作成した2日間の等雨量線図では、特に本川の雨量が気象庁の観測データに比べ少ないように感じられる。)

必要性における不明点・疑問点

 本ダム計画についての私が気づいた不明点や疑問点を以下に記載する。

○対象既往洪水と同規模の洪水を対象にダム計画地点より下流の地域で想定氾濫区域を想定しているが破堤地点が不明。また、内水氾濫と考えられる地域も含めているようである。
前掲の「戦後最大規模の洪水を想定した場合の想定氾濫区域」を見ると、想定氾濫区域はあるが破堤地点が記述されていない。(原図が掲載されている事業採択評価にも記述がない)そのため破堤地点から洪水の拡散経過がわからない。また、内水氾濫の地域も含めているようで、内水氾濫と当該ダム計画との関連も不明である。

○事業採択評価で比較検討した複数案のなかで、ダム事業以外の案の施工内容が不明である。
 各案の施工内容や工事費等の積算内訳が不明で具体の内容を把握できない。工事費等を計上するには、どこに、どんな規模の、どんな施設を施工するかで決まるが、残念ながらその工法に対しての詳細なデータが公表されていない。(今まで実施された全ダム計画を含めて多くの治水事業の場合も決定した事業以外の実施内容は公表されていないと思う)

○本ダム事業は、ダムを設置する計画の河川(以下「ダム設置河川」という。)に降った降雨による出水には効果的である。しかし、本川や支川での降雨には効果が少ない。
 前述のとおり対象既往洪水では、ダム設置河川ではなく支川及び本川で大出水していると思われることから、施設計画は本川・支川を含め広角に考えた方が効果はあると思う。また対象既往洪水の後(25年後)に発生した大洪水(対象既往洪水より規模は小さい)では、ダム計画河川の降雨は少なく、支川流域に降った雨で大洪水が発生したと、ある座談会で当時の河川管理者が述べている。
支川や本川の洪水を考慮するとコスト面の有利不利のみで判断するのではなく、支川や本川の洪水にも考慮して「治水の安全とはいかにあるべきなのか」という観点で事業案を採択するという結論もあるように思う。

当該事業の事業概要

 事業概要を記述すると当該ダム事業の実調に影響がでることが予想されるため記述することを控えます。

事業の費用対効果

 整備局では、基準点において100年に1回程度発生する降雨による洪水の場合、浸水戸数、浸水面積とも大きな被害が発生すると想定している。
 本ダム事業の事業効果は、100年に1回発生する洪水で発生する被害のうち浸水戸数の約1%、浸水面積約1%の軽減が可能と見込まれている。

事業についての不明点・疑問点

 本ダム事業についての私が気づいた不明点や疑問点を以下に記載する。なお、この他にも不明点や疑問点はあるが、事業概要を記述しなかったことなどのため記述しませんでした。

○支川の治水容量を確保するため、支川にある既設利水ダムの発電容量を治水容量にすれば、支川の浸水区域が軽減する。
 支川にある既設の利水ダムの発電容量を買い取り、治水容量に振り替えればダム計画河川と支川の合流点より上流にある支川の想定氾濫区域の被害軽減も可能である。

○管理に移行後の堆砂の状況が不明。
 日本中の多くのダムで堆砂問題については頭を悩ませている。貯水池に堆砂した土砂を搬出しても「引き取り手がない。」、「置き場所がない。」という問題である。流入する土砂の推定を誤ることなく堆砂容量の確保が必要である。計画するダムへの堆砂土砂が多い場合、その土砂の処分方法によっては河道拡幅や遊水池等の河川単独の治水方法が有利になる可能性も否定できない。

まとめ

 事業を実施する場合、事業実施者は一般住民に対し事業の検討資料や詳細情報を十分に公開しないことが多いように思われる。それは、事業実施に反対する勢力から多くの質問を浴びせられ、その質問に回答するための検討時間が必要になることで、事業の内容を検討する時間をムダにしたくないということからだと思われる。

 ダム事業実施者も同様な考えで今まで事業を進めてきたと思う。そのことは、一面止むを得ないようであるが、よく考えてみると「事業実施者が推進するダム事業に間違いや問題はない。プロである治水担当者と学識経験者にまかせておけば問題はない。専門家が進める事業は絶対正解であり、間違いがあるわけがない。」という上から目線からの考え方や「素人には貴重なデータを公表する必要はない。事業への質問を最小限にするため、データの公表は少なくし、質問されるネタになる検討過程の資料やデータなどは公表しないほうがよい。」といった考えがあるとすれば残念なことである。

 今、ダムという構造物に多くの人の目が集まっている。ダム反対、ダムは無駄と言われた時代から、ダムの機能が見直されつつある時代に移っているのだと思う。現在は、構造物としてのダムのみが注目されているが、これから「ダムの計画というのはどんな検討をするのか、ダムの効果とはどんなものなのか。」というようなことを考える人も必ず出てくると思う。

 ダム事業実施者は、関係する県や自治体、そして議会や地元住民などの関係者に対して詳細な説明をするのは勿論であるが、全国の「治水の素人」であるダムファンを切り捨てることなく、素人にも理解できる資料作成に心がけ、素人のトンチンカンな疑問にもわかりやすい言葉で丁寧に説明することで、全国のダムファンが「なるほど、そういうことか。わかった。」と言うことができる情報の提供・公開・公表が必要だと思う。ダム事業実施者は、自分たちが進める事業の内容を積極的に全国の人々に公表し、説明すべきであると思う。

 私は、治水安全度を向上させるために建設するダムを否定しようとするものではなく、むしろ地域の安全安心のためダム事業を含めてよりよい治水事業を選択し、積極的に進めるべきだと思っている。
 また、利水ダムに関しても発電はクリーンエネルギーであり、また農業用水等の用水確保のためにもダム事業を進めることは大切だと思う。

 再度言わせてもらうが、ダム事業実施者が事業を実施するために検討した情報を可能な限り積極的に公開し、ていねいでわかりやすい言葉で説明し、それを全国に発信して欲しい。また、そうすべきではないかと思っている

(2016年1月作成)
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