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宮崎県の耳川はその豊富な水量をエネルギーとするべく古くから水力発電開発がおこなわれてきた川です。耳川にあるダムはすべて九州電力様の管理ダムで、最上流に上椎葉ダムがあり、岩屋戸ダム、塚原ダム、山須原ダム、西郷ダム、大内原ダムが続いています。支川には諸塚ダムと宮の元ダム、いくつかの取水堰もあります。
平成17年14号台風によって、ここ、耳川にはかつてない大規模な災害がもたらされました。
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土砂崩れによる人家への被害をはじめ、大規模な地滑りによる河道閉塞が起きました。 中流域の諸塚地区では深いV字谷の横に川と道路が並行して走っており、道路沿いに並んだ建物の二階の高さまで水が押し寄せる浸水被害が発生、多くの建物が流失しました。 流域のあちこちで土石流が道路を寸断し、耳川の水力発電所のうち上椎葉発電所、塚原発電所、山須原発電所、西郷発電所では浸水被害を受けました。
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耳川にはこの災害の後、莫大な土砂が流れ込みました。 土砂による河床の上昇は洪水時の浸水リスクを高め様々な弊害をもたらします。 ダム湖にとっては貯水量の減少にもつながります。
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そのため、耳川のダムでは上流から流れ来る土砂を河口まで届けられるように山須原ダムと西郷ダムを改造することにしたのです。 西郷ダムは改造工事が無事に完成しており、山須原ダムは平成34年の完成を目指して改造工事が行われています。
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改造工事が進む山須原ダム
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その改造工事が進められている山須原ダムと西郷ダムでは巨大なゲートを新設するために既存の堤体を、大きく切り欠く必要が生じました。 その堤体をカットする工程でコンクリートの中から非常に貴重なものが現れたのです。
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堤体の底に近い部分に巨石がたくさん出現しました。 これはコンクリートが高価であった時代に堤体の自重を稼ぐために投入された巨石コンクリート(サイクロピアンコンクリート)というものです。
堤体に巨石を使ったという記録が残っているダムは木曽川の大井ダムをはじめ、各地にありますが、実際にボーリング調査や、工事で堤体をカットしてみないとどれほどの巨石が使われていたのかは解りません。
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山須原ダムで掘り出された一つを測定したところ大きさは60×70cmにもなりました。
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巨石の周囲には30cmくらいの石、さらに小さい石がモルタルによって結合されびっしりと隙間なく完璧に収まっている様が見事だったそうです。
海外では岩の周囲に隙間が出来やすい、岩とセメントはくっつかない等の理由で廃れたというサイクロピアンコンクリートですが 日本においては、少なくともこの耳川のダムにおいては非常に丁寧な施工がなされ、海外で不評だった低品質のコンクリートのようにはなっていなかったことが確認されたのです。
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改造工事で発見されたサイクロピアンコンクリートはコンクリートの歴史を語ってくれる素晴らしい史料です。 しかし、ただ、それを置いておくだけではなかなかその価値は伝わりにくく専門家の方、興味のある方にとっては一級品の史料であっても一般の人には全く興味のないものになってしまいます。 それはあまりにも勿体無い、永く働いてきたダムの一部を産業廃棄物として捨ててしまうのではなく 多くの人にダムのことを知ってもらう役目を担う何かに転用できないかと、改造工事を行っている九州電力・耳川水力整備事務所の方が考えついたのが サイクロピアンコンクリートを材料にしたテーブルセットの制作だったのです。
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改造工事が終わった西郷ダムの堤体の横にダムパークが新しく作られることになり、ここに西郷ダムのクレーンカバーを模した鐘のモニュメントとテーブルセットが整備されました。
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社長の安部様にお話を伺いました。
夜雀「今日は西郷ダムのダムパークに置いてもらっているサイクロピアンコンクリートのテーブルセット制作についてお話をお聞きしにまいりました。よろしくおねがいします」
夜雀「西郷ダムパークのテーブルセットのお話が来た時の第一印象はどうでしたか?」 安部社長「一番最初に来たお話はダムから出てきた玉石をなにかにできないかという事だったんです」 夜雀「あのテーブルセットの前に別のお話があったんですか?」 安部社長「これがその時に造ったものです。一輪差しです。これを120個くらい作りました。改造工事の定礎式で配ったそうです」 夜雀「小さいのはなんですか?」 安部社長「ぐいのみですよ」 夜雀「西郷ダムのサイクロピアンコンクリートの巨石で作ったぐいのみ!!」 |
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一輪差しとぐいのみ
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安部社長「そのあとにテーブルと椅子のお話を受けました」 夜雀「国内のダムにおいて、とても貴重なサイクロピアンコンクリートが材料だったわけですが…」 安部社長「“さいくろぴあん”コンクリートってなんでしょうか?」 夜雀「国内では明治から昭和初期にマスコンクリートの構造物をつくる際に、当時高価だったセメントの使用量を少なくしつつ構造物の重さをしっかり稼ぐために、今では考えられない工法ですが、コンクリートに巨石をごろんごろん入れて造っていたのです。その大きな石というか岩のことを海外で神話に出てくる巨人のサイクロプスにたとえてサイクロピアンと読んだらしいのです」 安部社長「確かに普通のコンクリートとは全く違いましたね。私が感心したのはこれだけの大きな石を使っているのに石と石がくっついていないことです。間隙がなくて隅々まで、石の周囲にこんなに隙間なく美しくセメントがいきわたって美しいコンクリートになっていたことに吃驚しました」 夜雀「さすがコンクリートのことをよくご存じですね!!ふつうは正体不明で怖いから引き受けてもらえないような注文だったと思うのですが」 安部社長「私は面白そうだなと思って受けましたが(笑)」
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夜雀「加工が色々、大変だったと思うのですが…」 安部社長「石と違ってコンクリートですから切るのも石とは異なります。コンクリートの場合は切り込み、深さに注意して、ゆっくり、そーっと速度を落として切るようにしました」
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夜雀「石部分とセメントで硬さが大きく異なるからですね」 安部社長「そうです。コンクリートと石というのは接着力はないので。骨材はカットしている時でもポロっと外れたりしました」 夜雀「それはどうやってくっつけるのですか」 安部社長「石材用のセラミックボンドというものがあるのでそれを使います」
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夜雀「すごく綺麗な仕上がりでどこが外れたのか分からないですね」 安部社長「うちは墓石屋ですから(笑)。コンクリートと骨材にどれだけ接着力があるのか、せん断力をテストしてみたんですがコンクリート+コンクリートを基準にすると、コンクリート+表面がざらざらの石でも1/2から1/5、コンクリート+つるっとした石では1/6から1/8と、もう接着力はないと思っておいた方がいいという結果でした」 夜雀「くっつかないよとは学んでいましたが具体的な数字を聞くとびっくりです。そんなに差が生じるんですね」 安部社長「まぁ、複雑な材料ではありますが私どもは切って磨いて削って彫る作業ですから」 夜雀「今回の作品でここを見てほしいというポイントはありますか?」 安部社長「色つきの石がたくさん入った綺麗な面を道路側に向けて配置してありますよ。表面はつるつるしていますが墓石に比べるとそんなに磨いていません。墓石はもっと磨いてつや出しまでするんですけどその半分くらいでやめています」 夜雀「セメント部分が減るからですね」 安部社長「そうです。コーティングは特にしていませんので」 夜雀「貴重なお話をどうもありがとうございました。今から現地に行ってぺたぺたなでなでさせてもらって来ます」 |
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製作の苦労をお聞きした後に西郷ダムパークに到着しました。 立派なダム銘碑の向こうに改造工事が終わった西郷ダムが見えています。 新設されたゲート部の上のクレーンのカバーが鐘の形になっています。そしてそれを模した二つの鐘がモニュメントとしてダムパークに設置されました。この鐘は誰でも自由に鳴らすことができます。
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そしてこちらがサイクロピアンコンクリートテーブルセットになります。 びっくりするほど美しい仕上がりに感動しました。こんなに大きな石がコンクリートの材料として使われていたのです。現在のコンクリートダムに使用されるコンクリートの粗骨材は150mmくらいの物もありビルなどに使われる粗骨材の20mm以下に比べると大きいものです。しかしそれをはるかに上回る巨石が昔、目の前にあるダムで使われていた、そして信じられないほどの高品質のコンクリートであったということがこのテーブルセットから伝わってくるのです。
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コンクリートはこうして磨き、こうして成形すれば立派な芸術作品となることをこのテーブルセットは教えてくれています。
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特にこのコンクリートのいわれを知らない人がふらりと立ち寄ったとしてもテーブルセットにはきちんと説明書が貼り付けられています。
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テーブルセットと一緒に記念撮影してもらいました。
昔、コンクリートが高価だった時代に 当時のエンジニアの英知が作り上げたサイクロピアンコンクリート。 それに手を触れて間近で見ることができます。
そしてそれは稀に見る高品質コンクリートで 今も立ち続けている堤体の中にはまだいくつも巨石が仕事をしているのです。
耳川にお越しの際はぜひ西郷ダムパークで足を止めてみてください。 素晴らしいコンクリートが素敵な鐘のモニュメントと一緒に待ってくれています。
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[関連ダム]
山須原ダム(再)
西郷ダム(再)
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(2018年10月作成)
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(夜雀)
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