3月11日の東日本大震災によって、発電所などに多大な被害があって、一時、この夏は関東地方で計画停電が必要だとの情報も流れ、社会的に大きな問題となった。現在では、供給対策と節電でどうにか停電は避けられそうだが、その過程で、揚水発電がどう取り扱われたのか、興味があったので調べてみた。
政府の「夏の電力需給対策」
平成23年5月13日、政府の電力需給緊急対策本部(本部長:枝野官房長官)の会合で、「夏の電力需給対策」が決定された。東京電力と東北電力管内の今夏の電力の節電目標が正式に決まり、企業と家庭のピーク時の最大消費電力を前年比15%削減することが決まった。大口需要家には電力使用制限令を発動する一方、家庭など小口需要家には節電メニューの例示などで自主的な節電を促す。 電力供給については、4月8日に、この本部で「電力需給対策の骨格」をとりまとめて以降、東京電力・東北電力管内の電力供給力積み増しの努力が行なわれ、「骨格」で示した目安を上回る供給量の確保の見通しが立ったとしている。 これらの結果、この夏は、計画停電は原則実施しないことになった。
東京電力の電力需給見通し
東京電力は、今夏の電力需給見通しを公表している。電力供給力積み増しの努力を反映しているものと思われるが、それらを表にまとめてみた。それによると、地震発生から間もない3月24日をベースに、7月末の需給を見通している。 見通しは、これまで3回(3月25日、4月15日、5月13日)出されているが、需要については、いずれも5500万kWで変化はないが、供給力は、4650万kWから5520万kWへと、だいぶ増大している。揚水発電を含むか否かの取り扱いの違いも影響しているが、供給増の努力の成果とも考えられるだろう。
このような供給力の増大の要因別内訳についてまとめたのが次の表である。供給力は、3月24日(実績)に比べて、最終的には、1870万kW増加しているが、このうち揚水発電が650万kWで、これが全体の増加に大きく寄与している。
期待される揚水発電の役割
地震発生から間もない頃、今夏の電力供給の観点から、揚水発電の無力さを強調するような議論があったように思える。たとえば、次のような説明があった。
「・・・(図中で)点線で示されているのは供給力ですが、揚水発電は除いてあります。 というのは、東京電力は680万キロワットの揚水発電を保有していますが、原子力や火力などの固定供給力が不足する状況では、揚水を確実な供給力として見込めない事情があるのです。」(電気新聞 2011.4.12、技術 「計画停電B」)
どうも、その後の精査で考え方が変わってきたようで、前述の数字に見られるように、揚水発電の役割が大きいことが明確になったのではないだろうか。揚水発電が夏の停電を防いだとも言えよう。 水力発電全般についてもそうだが、再生可能でクリーンで、また量的にも十分に寄与できるエネルギー源として、揚水発電の役割がもう少し一般に再認識される必要があるのではないかと思われる。
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