《このごろ》
ダム随想 〜 地震とダム

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 3月11日、マグニチュード9.0という未曾有の地震が東北地方を襲った。東北地方太平洋沖地震と命名された。東京でも震度5という揺れであったが、継続時間が長かったから、同じ震度にしては恐ろしさを感じた人が多かったようだ。これだけの大きさだから、地震そのものによる被害も大きかったのだろうが、その後に発生した津波による被害があまりにも大きかったので、報道はそちらに集中し、内陸部の状況はほとんど知ることができなかった。

 ダムの場合、大きな地震に見舞われた場合の規定で、各ダムで直ちに点検が行われたが、現在のところ異常は報告されていない。

 ダムは、水圧という水平力に耐えるように設計されているから、元来は鉛直力に耐えるように設計されている橋などの構造物より、はるかに地震に強い。そのうえ、雪国のダムではこの時期、水位を下げるような貯水池運用がなされるのが普通であるから、ますます安全度は高くなっている。水位を下げるのは、雪解け水を効率よく使うためである。

 重力ダムの場合、水圧によりダムにかかる力は水深の2乗に比例するから、たとえば水位が3割下がっていれば、ダムにかかる力はおよそ半分になる。フィルダムの場合はそれほど単純ではないが、斜面の安定の問題であるから、水位が下がって、浸透圧が下がることは安全率の増加につながる。

 フィルダムは完成後も沈下を続けるが、沈下は地震時に集中する。最近はフィルを振動ローラで締め固めるようになっているので、沈下量は非常に小さくなっている。1%以下というのがほとんどのようだ。それでも沈下はするので、地震後に下流面の法面保護の張り石がずれたりして、一見クラックが入ったように見えることがある。安定性には何の関係もないが、なんとなく気持ちが悪い。とはいっても簡単に補修する方法はないので、ダムを管理する人は大変苦慮することになる。

 そんなことで、あまりきれいに張り石をしないほうがいいと忠告するのだが、完成時の見掛けがきれいなので、石垣を積むかのように丁寧に施工されることが多い。また、沈下量はダム基礎の地形を反映するので、沈下が進行すると下流面が波打ったように見えることがある。これまたなんともしようがないので、手をこまねいているしかない。いつの時点の美しさを採るかという問題なので、沈下のシミュレーションをして、図化したうえで見比べでもしなければ決められないことになる。

 そのほか、地震後にフィルダムで見られる変状としては、天端に軸方向に入るクラックがあるが、多くの場合あまり深くはなく、漏水にはつながらないので、シートなどで覆って水が入らないようにしたうえで深さを確認し、浅ければスラッシュグラウチングなどにより隙間をつめる。グラウトはセメントミルクよりベントナイトかベントナイトとセメントの混合物のほうがいいように思う。土質遮水壁の中にセメントのせんべいが挟まっている姿は、あまり好ましいものに思えないからだ。

 クラックの深さが深いときは、その部分を削り取って盛りなおすなどの方法を検討する必要がある。

(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)

(H23.8.10、中村靖治)
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