平成24年12月20日(木)東京大学・山上会館で、ダム工学会・若手の会による「第6回語りべの会」があり、会員をはじめ学生・一般の方も含めて70名近い参加者が集まった。 ダム工学会・若手の会では、ダムに関心のある人への情報提供のほか、若手技術者に対しての技術継承や技術者間における連携を目的として、これまで5回にわたり「語りべの会」開催してきました。第6回となる今回は、「ダムの今までとこれからを考える」をテーマに、参加予定者から事前にアンケートにお答え頂き、講演のあとの意見交換会での活性化をはかる内容となった。
【プログラム】
■開会挨拶:ダム工学会会長 田中 忠次 ■講演:「大災害の歴史から学ぶこと」 土屋 信行 (元 江戸川区土木部長) ■講演:「湯西川ダムの竣工−これからのダム」 宮村 忠 (関東学院大学名誉教授) ■意見交換会 コーディネーター: 神戸 隆幸・鹿島建設株式会社 新家 拓史・株式会社ニュージェック 中野 朱美・財団法人日本ダム協会
【内容】
開会に先立ちダム工学会田中忠次会長が、再生可能エネルギーの重要な構成要素である水力発電、ダムそのものの持続可能性など、ダム工学が果たすべき重要な役割や科学的に正確な情報を社会に向けて発信していくことが極めて重要になってきていることなどを、ダム若手技術者へ向けたメッセージとして挨拶された。
ダム工学会田中忠次会長 開会挨拶 二人の「語りべ」による講演では、最初に土屋信行氏が「大災害の歴史から学ぶこと」として、地域を襲った津波の実態を伝える古老の話によって、設計上想定される津波の高さを一段階上にしたという女川原発の開発話を披露された。次に東日本大震災の教訓について今一度思いを向けて、なぜ今、首都圏の治水について八ツ場ダムが必要なのか。ダムの下流地域のゼロメートル地帯における住民の安全をいかに確保するか、危機管理の方向性と住民理解の必要性を強く訴えられた。
土屋信行氏講演「大災害の歴史から学ぶこと」 続いて、宮村先生は、最近、湯西川ダムの竣工式に出席した時の感想として、上下流域の住民の意識の違いがもたらすダムへの無理解という問題についての考察を述べられた。 竣工式では、ダムの建設現場である上流域の人々から、計画が出来てから完成に至るまで、様々に交差する思いをもって協力してきたということが、この日の挨拶に現れ、一方、ダムの恩恵を受ける下流域の人々を代表する方の挨拶がなかったことで、ダムをはさんでの上流、下流の気持ちの交換がないこと、多くの犠牲的な協力関係によって完成したダムの竣工式に、そのダムの恩恵を受ける下流地域を代表する人が挨拶に来ておらず下流の人から上流の方に対する感謝の気持ちが見えなかったことを問題視された。
宮村忠先生講演「湯西川ダムの竣工−これからのダム」 人口が減りつつある我が国において唯一右肩上がりで人口が増え続けている首都圏を支えている千葉県において、将来の水不足が懸念されることへの備えとして、湯西川ダムがもたらす恩恵は当然のことだが、それに対して知事および各地域の首長らの感謝の言葉がないことに対して疑問を呈された。 ダムが計画され、実現されるまでには多くの難問が存在していますが、それらを一つひとつ解きほぐしながら、建設されてきたダムが完工するに際して、その恩恵を受ける側の地域の代表がなぜ挨拶に来ないのだろうか?儀礼や様々な手続きといった様式美を大切にする日本人が、ダムの竣工式というような重要な儀式の意義を大切にしなくては、これからの時代にあって人との絆づくりもうまくいかないのではないかと話されたことが印象的だった。
講演後の意見交換会では、その場で結論を出すことが目的ではないので、自由奔放な意見が様々に会場から出され、二人の語りべとも突っ込んだ意見交換ができて大変な盛り上がりを見せた。
講演後の意見交換会 以上で、語りべの会は終了。 当日、会場にも来ておられたダムマニアの萩原さんが建設Milのサイトで矢木沢ダムの渇水を例に、利根川水系の低水位管理についてのレポートを書かれた記事「水不足はどうやって防ぐ(2012.12.12付)」を読んでみて、ダムの存在意義を世の中に知らせていくには、まだまだ世間一般には知られていない、ダムからのメリットをもっと拾って説いていくことではないかと感じました。 利水の面でも治水の観点からも、我々の生活にはダムが欠かせないということが、まだまだ十分に理解される状況にはなっていないということ。
これがダムについての理解の壁、巨大なギャップというものでしょうか。なぜダムが必要なのか、ダムができて下流のみんなが得られる利益というものは、どういうものなのか?について、もう一度見つめてみる機会が必要だと感じた。
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