《このごろ》
語りべたちは何を語ったか

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平成20年12月8日、東大本郷キャンパス山上会館で、ダム工学会主催の「語りべの会」があった。立派な大会議室に観客も多数。盛会だった。

語りべは3人。ダムのプロと著名なダム好きという興味深い組み合わせ。国交省の川崎秀明さん、「ダムサイト」管理人の萩原雅紀さん、「ダムマニア」管理人の宮島咲さん。


会場風景

まず川崎さんが登壇。「ダムの用強美 −用強美の極み、アーチダムを知ろう−」とのタイトルで講演。内容は盛りだくさん、かつ専門的で中身の濃い、というより濃すぎて要約などとてもできない。ただ、アーチダムの歴史について詳しく話されたのが印象深かった。ローマ時代のアーチダムから現代まで、多くの人々の努力の積み重ねで、技術的発展を遂げてきたことがよくわかる。アーチダムの強さも美しさも、一朝一夕には成らずと言うことだろうか。



時間が足りなかったのが残念だし、貴重な内容で多くの人の目に触れるのがいいと思うので、これは是非どこかに発表してほしいものだ。たとえば雑誌に連載するなど。川崎さん、「月刊ダム日本」に書いてくれませんか?

そしていよいよ萩原さんと宮島さんがそろって登壇。二人で、「ダムの魅力 −このダムにひとこと言いたい 20連発!!−」と題して、レポート。二人の掛け合いがおもしろかったし、見方が新鮮で、博識に驚かされるし、ダム関係者には耳の痛いことも随所に。以下あらましを。



まず宮島選、東日本編10ダム

No.1 月山ダム
(宮島)堤体下流面に月の形を浮き立たせている。管理所のデザインもすばらしいし、おまけに洪水吐はスキージャンプ式。重力式ナンバーワンではないか。
(萩原)下流面に大胆なデザインを取り入れたのはここが初めてでは。


(撮影:宮島咲)

No2 寒河江ダム
(宮島)ロックフィルダムだが、洪水吐が複雑でいい。ただ、天端が車進入禁止で、駐車場に車を止めて洪水吐まで延々と歩かないといけない。天端は十分車が通れるし、洪水吐の近くには駐車スペースもある。なのに車進入禁止。
堤体の貯水池側をよく見ると、青い線が入っている。常時満水位かも。だけどこれは美しさに配慮不足。キャラクターの像があるが、それが壊れている。直して!



No3 羽鳥ダム
(宮島)これはアース。自由越流式の洪水吐が折れ曲がった形をしている。なぜこんな形なんだろうか。距離を稼いでいるのだろうが、特徴的だ。


(撮影:風花)

No4 大井ダム
(宮島)福沢桃助で有名な発電ダム。古くて赤さびが出ている。いいダムだが、一つ嫌いな部分が。左岸直下のところにコンクリートがギザギザと。このギザギザがいやだ。きれい好きなので。
(萩原)かえっていいと思う。チェルノブイリを固めたコンクリをイメージする。無理矢理固めた感じが出ていて、それがいいのでは。


(撮影:Dam master)

No5 四万川
(宮島)西洋の城をイメージしたデザイン。堤体に石を張り付け、すばらしいグッドデザイン。上流を見ると、ダム湖の水が本当に真っ青。
(萩原)本当ですか。個人的好みとしては、壁に模様を付けるのは嫌いです。ダムらしくしろと言いたい。それから、下流から見ると、顔に見える。不細工な顔だ。言ったときに犬の糞を踏んだのも嫌いになった原因かも。


(撮影:だい)

No6 宮ヶ瀬ダム
(宮島)重力式。関東で一番大きい。集客もナンバーワン。非常用洪水吐が、上流と下流とで数が違う。天端側水路で調節している。天端状に突き出た構造物は皆同じデザイン。下流面に縦の筋。いろいろいいところがある。ただ嫌いなのは、下流直下にボコッと箱のようなものがある。選択取水の放水口だろうか。個々だけでデザイン評価がマイナス30点。
(萩原)僕は気にならない。全体の大きさに圧倒されるから。僕がいやなのは、堤体直下右岸側にある発電所。なければいいのに。あるいは地下にするとか。


(撮影:安河内孝)

No7 大内ダム
(宮島)揚水式の上池。ロックフィルだが天端から下流を見ると、普通のロックとは何か違う。直下から見上げると、わかるが、土を持って芝生をはやしたのではないか。ダムとは思えない光景。


(撮影:だい)

No8 奈良俣ダム
(宮島)ロックの多目的ダム。剣道をカーブを切りながら行くと、突然ドカーンと現れる。ロックの真っ白い堤体。何だこれはと。
(萩原)インパクトありますよね。ロックがあるという予備知識がないとよくわからない。10年ぐらい前は本当に白かった。
(宮島)欠点は、石と石との間に草が生えてきたこと。手入れをしてほしい。
(萩原)年をとって、お肌の曲がり角?
(宮島)今や40過ぎの女性?


(撮影:Dam master)

No9 南相木ダム
(宮島)東電の発電専用ロックフィルダム。これは白い。尋常ではない白さだ。堤体直下にも転々と白い石を配している。小川もある。立ち入りもできて、ファミリーできても楽しめる。リップラップもそろっていてきれい。洪水吐が山をかち割ったように作られているのもすごい。
(萩原)奈良俣がロックのアイドルだったが、それが衰えた頃に南相木が出てきた。
(宮島)残念なのは、トイレはあるが、PR館がないこと。
(萩原)揚水式の上池で、信濃川水系にあるが、下池の上野ダムは利根川水系にある。ダムの上流からの雨水は、ダムに貯めずに下流に流すようになっていて、そのために、洪水吐の導流部を使っている。それで、導流部によく水が流れている。粋なはからいだ。


(撮影:へいはち)

No10 アーチ式ダムカレー
(宮島)ダムカレーは最近作りすぎて作るのが好きではなくなったが・・・。



特別に全国ダムファンを代表して 早明浦ダム
(宮島)毎年ご苦労様。

続いて、萩原選、西日本編10ダム

No1 新成羽川ダム
(萩原)中国電力のダム。写真を撮りたいと申し込んだら、洪水吐の本当に直下まで案内してくれた。ここまで案内してくれるとてもいいダム。チョイワルなイメージだったがフレンドリーだった。


(撮影:cantam)

No2 高根台1ダム一ツ瀬ダム稲核ダム川浦ダム殿山ダム小見野々ダム雨畑ダム etc
(萩原)発電用重力ダム。電力会社のフラッグシップ。だが、天端に入れない。見られる場所がほとんどない。天端を解放してほしい。それができないとしても、各社をしょって立つ花形ダムだから、何らかの機会に見せるとか・・・。活用次第では地域の活性化にも成る。

No3 小里川ダム
(萩原)いいのか悪いのか、ダムのデザインが議論になって、意見が分かれている。個人的にはわりと好き。この時代には、隠れよう、地域にとけ込もうというデザインがわりと多い。ところが、このダムは攻めに出たデザイン。神殿のようで。
(宮島)普通に言えば丸いだけ。
(萩原)縦の筋は全部円柱。このデザインにゴーサインを出した国交省の所長は立派だ。


(撮影:ふかちゃん)

No4 千屋ダム
(萩原)岡山県の多目的ダム。以前にダム協会のトップページにこのダムの夜景がずっとあって、是非行ってみたいと思った。行ってみると、洪水吐・放流設備全部乗せ。ゴージャスなダム。下流から見ると微妙に石垣風。天端には東屋風の屋根。これは何だとさめてしまった。がっかり。
(宮島)中途半端で統一性のないデザイン。
(萩原)もう一度やり直してほしい。


(撮影:cantam)

No5 境川ダム
(萩原)千屋とは対局。富山県の多目的ダム。立地がいい。そこにV字形に三角形のダム。このストイックさ。何も付いていない。ほれてしまった。


(撮影:ToNo)

No6 鳴淵ダム
(萩原)福岡県営。怪しいものがいろいろくっついている。君は何になりたいのか。街灯、屋根、初めて見るとびっくり。内部見学通路入口もディズニーランド風。管理所も、県のお偉いさんが予算があるからやっちゃえと言ったような感じがする。君は何になりたいと言いたいほどの統一感のなさ。
(宮島)がんばったんだけど、間違っちゃった。


(撮影:ふかちゃん)

No7 高山ダム
(萩原)水資源機構の多目的ダム。重力式アーチ。1年ほど前に見せてもらったかっこいいダム。これまでは、洪水の時、常用洪水吐に使用ですんだ。クレストゲートは使っていない。一度使いませんか、と思ったりした。たとえば満水の最後で、もう水はどんどん引くとわかっているときに、一度使ってみては。勝手な意見ですが。
(宮島)デザインは好きだが、構造的に天端から下が覗けないようになっている。自殺防止と言うことかもしれないが・・・。
(萩原)上から覗きたいというのはありますね。最近脚立を買いました。
(宮島)私も脚立を持っています。


(撮影:Dam master)

No8 温井ダム
(萩原)ダムカードを、所長が封を切って最初にもらったダムです。去年の7月20日。キャットウォークに天井が付いていて濡れなくていいと職員さんが。だけどはっきり言って屋根はいらない。キャットウォークが屋根で魅力半減。


(撮影:けんさん)

No9 上椎葉ダム一ツ瀬ダム杉安ダム
(萩原)この3つのダムは関係があるのでは。上椎葉は初の本格的アーチダムで、左右にスキージャンプ式の洪水吐。10年ぐらい後に造られた一ツ瀬が同じデザイン。九州電力、ねらったなと思った。九電が正統な後継者を造った、と勝手に想像して喜んでいた。その後に杉安ダム。高くはないが。素人考えでは、わざわざアーチにしたのは、アーチで統一したかったからでは。九電の熱い思いを勝手に想像していた。デザインと形式の継承。


一ツ瀬ダム(撮影:ふかちゃん)

No10 徳山ダム
(萩原)超巨大ダム。今年完成。洪水吐の下に橋があって、また広いスペースもある。そこに行って、下から上を除かせてほしいとだいぶ頼んだが、だめだった。中電の発電用の土地があって、そこを通らなければ成らず、中電に了解を取るのはすぐには無理と言うことのようだった。ちょっと残念。


(撮影:さんちゃん)

(宮島・萩原)以上、素人が勝手なことを言ましたが、ダムに関わっている方々の少しでも活力になれば、これに勝る喜びはありません。

ということで、3人の語りべの熱のこもった話が終わり、フリーディスカッションを経て、閉会。
その後、懇親会が。これも又和気藹々、有意義なものでした。


懇親会の様子

(2008.12.10、Jny)
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