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11. 横川ダム(横川川)の建設


 常にダム建設にはダム地点下流域における水害の防御、利水の活用の強い要請が影響してくる。
 横川川は、その源を中央アルプス北部経ケ岳2296.8mに発し、横川渓谷を形成し、小野川、小横川を合流し辰野町の市街地で天竜川へ注ぐ。流域面積 136.5km2、流路延長21km、平均川床勾配1/40の河川である。横川川の沿岸は洪水のたびに被害を受けていたが、特に昭和38年局地的豪雨において、辰野町に死者10名を出す大被害をもたらした。


『横川ダム工事誌』

 松川ダムは洪水の被害と辰野町の都市化を契機として治水対策上強く求められ、長野県上伊那郡辰野町大字横川字入谷に昭和61年完成した治水ダムである。

 長野土木部編『横川ダム工事誌』(上伊那ダム建設事務所・昭和62年)によると、このダムは2つの目的を持って建設された。第1点はダム地点における計画高水流量 210m3/s(1/50)のうち、調節量 100m3/s、放流量 110m3/sを洪水調節し、下流宮所基準地点流量 560m3/sを 460m3/sに低減する。第2点は不特定容量15万m3を利用してダム地点下流の小野川合流地点まで横川川沿岸のかんがい用水の補給を図るものである。


横川ダム

 このダムの諸元は堤高41m、堤頂長 282m、堤体積10.5万m3、総貯水容量 186万m3、型式重力式コンクリートダム、起業者は長野県、施工者は大成建設(株)、(株)大本組共同企業体で、事業費 92.49億円を要した。なお、主なる用地補償は家屋移転4戸、用地取得面積20haとなっている。

 ダム地点の上流 1.5kmに、黒色粘板岩と閃緑岩の混じった岩床に石英脈が垂直、等間隔に 100本程入っており、ちょうど蛇腹のような「蛇石」が水没する恐れがでてきた。この「蛇石」は、地質学上も貴重なもので昭和15年に天然記念物に指定されている。文化庁から水没することなくこのまま保存するように注文がついた。このため「蛇石」が土砂埋没しないように流入土砂の一部貯留する貯砂ダムとして、横川ダム地点から 2.5km上流に堤高14.9m、貯砂容量20万m3を擁する大洞貯砂ダムを建設し、併せてダム湖の機能の保全を図った。この貯砂ダムの堆砂が許容堆砂量に達した後は搬出、処理することになっており、この搬出作業は流水の汚濁による漁業等の影響を考慮し、9月〜11月に行われる。

 なお、ダムの工事について着工から完成まで延べ 110万時間、無事故、無災害で完成させたことは特筆に値するであろう。

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