先週の金曜日(3月23日)、東京国際フォーラムで、「裕次郎の夢−全国縦断チャリティ」プレミア上映会が開催され、「黒部の太陽」のノーカット版が上映された。石原裕次郎が生前「大型スクリーンでしか見せないでほしい」と言ったと言われる幻の作品。上映時間はさすがに長く、3時間16分。
ノーカット版の有料上映は44年ぶりとのこと。もっとも有料といっても、チャリティー上映会ということで、チケットの売り上げは東日本大震災の被災地への義援金として寄付される。また、5月には全国縦断のチャリティー上映会が、全国150か所以上で予定されている。
当日は、午後6時開演。初日ということもあって、上映会の実行委員の方数名が登壇。そのうち、石原裕次郎夫人のまき子さん、俳優の渡哲也さんが挨拶した。 石原まき子さんは、裕次郎さんが33歳のときの作品で、準備段階から挫折を繰り返しながら作ったもので、機会があるときに大きなスクリーンで多くの人に見てもらいたいというのが裕次郎さんの夢だった、感慨無量の思いですなどと話した。 また、渡哲也さんは、「黒部の太陽」は日本人の魂と勇気がテーマであり、三船敏郎さん石原裕次郎さんの勇気と決断がなければ実現しなかった映画でしたと語った。
続いて、上映開始。これまで「黒部の太陽」を3回見たことがあるが、いずれも短縮版で、それぞれの短縮の仕方が異なっていたためか、細部ではそれぞれだいぶ違いがあった。筋が繋がらなかったり、出るはずの俳優が出ていなかったりといったこともあったが、今回、映画の全貌が分かり、違和感のないストーリーが明らかになった。
隣で見ていたダムの専門家が「樫山文枝が演じている役は要らないんではないか」と言うような感想を漏らしていた。技術の話、土木の話としては、付け足しに見え、かえって良くないということなのだろう。従来私もそんな感想を持っていた。しかし、今回のノーカット版で、認識が変わった。この映画は、技術や土木の話と言うよりは、「人間」を中心に据えた物語ではないか。親子めぐる激しい葛藤、困難に立ち向かう不屈の精神、個人としての愛と苦悩など、様々な人間模様が描かれていて、黒部の大自然も、技術的解説や建設現場の映像も、戦前・戦後の時代背景も、物語を盛り上げるための道具立てなのかもしれない。交錯する人間模様を、多数の名優達が全力で演技した。そこにあるのは、「人間」であり、「人生」ではないか。
とは言っても、当時のダム建設の困難さや状況を推し量るにはまたとない資料であることは間違いない。映像も貴重な当時のものが使われているようだし、それはそれとして価値があるだろう。そのような興味を決して裏切るものではない。
黒部ダムの建設には当時400億円かかったという。この映画自体にはいくらかかったのだろうか。今後、日本で、これに匹敵するようなダムが建設されたり、この映画に匹敵するような映画が製作されたりすることがあるのだろうか。夢は持ちたいと思うのだが、時代は変わったと言うことなのだろうか。
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