《このごろ》
「ダムツーリズム」を考える

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 最近、「ダムツーリズム」と言う言葉を耳にする。ツーリズム自体は、観光、旅行といった意味でしばしば使われるが、ダムと組み合わせたところが目新しい。どんなことなのか。


国交省もダムツーリズム

 半年ほど前から、国土交通省水管理・国土保全局のホームページに、「ダムツーリズム」と題したページができた。それには、
「国土交通省では、民間ツアー会社と連携してダムツアーを実施しています。 ダムとその周辺地域の環境を活用し、地域と連携してダムの観光資源としての活用を図っています。また、ダムの工事現場も活用して完成前から観光資源としての効用を発現できるようダムのツーリズムを推進しています。」
と説明がある。ダムを観光資源として活用すること、また、民間の旅行社と連携してツアーを実施することが記されている。
(参考)
国交省水管理・国土保全局の「ダムツーリズムの」のページ

 数年前、あるダムの事務所に、一般の方を対象にした見学会をお願いしたことがあった。その時、民間の旅行社が実施するツアーは、営利企業なので問題があるといった趣旨の話があったのを思い出す。当時はまだ、一部にかもしれないが、公的機関が特定の民間企業の要請に応じることは慎重であるべきだとの考え方が存在していたように思う。今、国交省自体が旅行社との連携を積極的に推進している。変貌は著しい。


ダムツーリズムとは

 ダムツーリズムとは、どんな概念なのだろうか。厳密な定義など必要ないが、話の都合上大まかなことを考えてみたい。

ダムを資源として活用する
 ダムと言っている以上、これは当然のことだろう。ダム自体も、ダム湖も、周辺施設も、周辺の地域も、これら全てが含まれる。人々が興味を持ち、魅力に感じ、見聞し、体験し、接したいと思うような何らかの価値があるものとして捉えることができれば、それは資源と呼べる。

観光、あるいは旅行
 一般にツーリズムとは観光のことのようである。あるいは旅行でもいいだろう。いずれにしても、遠方から人を呼び寄せることが必要で、地元で地域住民同士が活動するようなことは、含まれないと考えていいだろう。典型的には、山間地にあるダムへ下流の都市住民が旅行するといったイメージ。

旅行社との連携は不可欠か
 遠隔地への旅行で、それなりの人数がある場合、当然旅行社主催のツアーが想定されるが、それ以外でも、例えば個人が自家用車でダムに行くようなことも、ダムツーリズムに含めて考えてもいいのではないか。手段はともかく、遠方のダムに観光に行くことに変わりはない。ただ、たくさんの人に来てほしいと思ったときには、旅行社のツアーが効果的なのは言うまでもない。


ダム好きが企画・ガイドするダムツアー

 もうだいぶ前になるが、ダム好きとしてよく知られ「ダムライター&写真家」を名のる萩原雅紀さんは、自らダム見学ツアーを企画し、東京で仲間を募って北関東のダムの見学を実施した。2004年5月に第1回ダムツアー(藤原・奈良俣・矢木沢)、2005年5月に第2回ダムツアー(藤原・奈良俣・矢木沢)、2006年5に第3回ダムツアーと、3回のツアーを実施。バスをチャーターし、自らガイドしてダムを回った。これは画期的な出来事だ。ダムに下流都市住民が訪れる資源としての価値があることを発見し、それを実践で示した。
(参考)
『ダムサイト』主催ダムツアー、参加報告

 萩原さんのツアーは、その後は実施されなかったようだが、今年になって、9月に、ダムマイスターの琉さんが企画・案内する「みなかみダムツアー」があった。東京駅発、みなかみでダムカレーの昼食、その後、藤原ダム・奈良俣ダム・矢木沢ダムを見学。これは萩原ツアーの復活のようでもあるが、その間にダム好き人口の増大などダムを巡る状況は著しく変化している。ガイドする琉さんの個人的人気もあるが、希望者が多く、人気が高かった。
(参考)
みなかみダムカレーを食べた


旅行社のダムツアー

 旅行社のツアーで、一部の行程にダムが組み込まれているものは、以前からあっただろう。しかし、ダムの見学をメインに据えたツアーが現れたのは、比較的新しい。手元ですぐ分かるいくつかの事例を以下に紹介する。ダム協会が企画などの面で協力したものも多い。なお、現在の状況を正確に把握するため、参加者の数が足りずに中止になった事例(いわば失敗例)も含めた。

2009年秋、JTB中部、JTBダム物語【徳山・横山・九頭竜・真名川】
 私の知る限り、これが最初の旅行社によるダムツアー。その意味で、パイオニアであり、記念碑的なもの。ダム好きの誰かが企画面で協力したのかとも思ったが、どうも旅行社の自主企画のようだ。ダム好きが増え、ネット上などで話題になるような状況があって、それが旅行社の目にとまったのだろう。名古屋発、バスで4ダムを巡るものだが、ダム見学自体は一般的な見学コースのみであった。6回企画されたが、全て成立したかは定かではない。
(参考)
JTBがダム巡りのバスツアー

2010年4月25日、株式会社ティー・ゲート、秩父3ダム巡り
 企画段階で株式会社ティー・ゲートから相談を受け、ダム協会が協力した最初のツアー。当時の計画としては、継続的にツアーを実施する予定であったが、その後担当者の移動もあって、1回のみしか実現しなかった。新宿発、バスで秩父3ダム(浦山、滝沢、二瀬)を巡るもの。相応の参加者が集まり、特に、各ダムにはよく協力していただいたので、通常見学できないようなところまで見ることができて、参加者には大変好評だった。
(参考)
ゲツダム第1弾 秩父3ダム巡り

2012年秋〜2013年夏、NEXCO中日本、ダム見学バスツアー
 NEXCO中日本は、高速道路会社だが、事業の多角化の一環として旅行業者として登録していて、旅行社でもある。NEXCO中日本が実施したダムめぐりのバスツアーで、例外はあるかもしれないが、名古屋発。2012年、2013年ともに数回実施。回によって異なるが、揖斐川水系の徳山ダム、横山ダム、それに大井川水系の長島ダムを訪れるもの。高速道路会社なので、それまで高速道路の建設現場やトンネル避難坑などの見学ツアーを実施してきており、その経験を生かしてダムの分野に進出。ダム協会は実施前にPRなどの面で協力した。結果として参加者がどうだったのかは定かではないが、強気とも思える意欲的な計画だった。
(参考)
NEXCO中日本がダム見学のバスツアーを企画(2012.11.9)
NEXCO中日本がダム見学バスツアーを企画(2013.4.26)

2012年12月8日、JTB水戸、ダムマイスター「琉」とめぐるダムツアーin茨城
 JTB水戸が茨城県の依頼で実施したダムめぐりバスツアー。企画・ガイドはダムマイスターの琉さん。ダム好きを前面に出した最初の旅行社ツアー。東京発のバスで、茨城県の竜神ダム・十王ダム・小山ダムを巡る。県がJTBとタイアップして、さらにダム好きが協力という点で、新しいパターン。普段は立ち入ることの出来ない、監査廊やダムの操作室を管理職員の案内で見学。あまりメジャーなダムがない茨城のツアーにもかかわらず、ほぼ満員の参加者があった。

2013年10月26日・27日、近畿日本ツーリスト新潟、貸切新幹線で行く紅葉の東北 4ダム巡り
 新潟発、大宮で乗り換えずに盛岡まで行く新幹線を貸し切って、各種ツアーを実施したものの中の一つ。新潟県内の駅と、大宮で乗車可能。1泊2日で、現地ではバスで移動、御所、湯田、胆沢、鳴子の4ダムを回る。宿泊を伴うこと、新幹線を利用することなどの点で、これまでのツアーから一歩踏み出した意欲的なプランだった。実施前にダム協会が協力。しかし残念ながら参加者が集まらず、中止。高額なツアーは少なくとも現段階では難しいことが明確になった。
(参考)
これは日本初だ 〜 貸切新幹線で行く、紅葉の東北 4ダム巡り

2013年9月〜11月、日本旅行横浜、WE LOVE DAM!!!ツアー
 日本旅行横浜支店が、神奈川県観光課から委託を受けて実施しているかながわの水の観光推進事業の一環。「水のさと かながわ」へ行ってみよう、というスローガンの元に、各種のツアーを用意。どちらかというと、神奈川県民が神奈川のことを知るためのツアーという色彩が強い。中の一つがダムめぐりツアー。海老名駅発で、三保ダム、宮ヶ瀬ダムなどをバスで巡る。宮ヶ瀬ダムでは観光放流を見学。ダム協会も協力したが、ほぼ企画が固まった段階だった。6回の計画で、琉さんと中村靖治さんが交代でガイド。参加者は、多いとき少ないときとまちまちだったようだ。
(参考)
「水のさと かながわ」WE LOVE DAM!!!ツアー

2013年11月18日、JTB水戸、茨城・ダムめぐりツアー第2弾
 2012年12月8日の茨城ダムめぐりツアーの第2弾。内容はほぼ同じ。回ったダムが微妙に違い、こちらには北部のダムが含まれていて、水沼ダム、小山ダム、花貫ダム、十王ダム。残念ながら、希望者が少なく、中止。似たようなツアーでも、成立させるのは簡単ではない。
(参考)
土木の日に茨城・ダムめぐりツアー第2弾


旅行社ダムツアー、成功の条件

 上で見たように、旅行社によるダムツアーも、最近は珍しくはない。しかし、うまくいったりいかなかったりで、現段階では成功には相当の努力、条件が必要である。結局のところ参加者が集まるか否かが問題だが、それなりのプランを立てれば参加者は集まると言った甘いものではない。そこで、成功の条件を検討してみた。

見学対象が魅力的
 どのダムのどこを見学できるのか、それが魅力的なのかどうかが最も重要。企画段階で魅力的なダムを選び、あるいは魅力的なダムをいくつか回れるコースを選び、ダムの管理者に要請して見学箇所を決める。
 最近旅行社がダム好きさんに相談する例が見られるが、ダム好きさんがよく言うのは、企画が固まる前に相談してほしいと言うことだ。どこを見るかは企画段階で決まる。それが決まってから相談されても、と言うこと。
 富山県の黒部ダムならば、ダム自体が特別の存在なので、通常の見学コースでもいいかもしれないが、通常のダムだとすると、そのダムのどこを見せてもらえるのかが重要。「通常では見られないところ」を見たい、「通常では行けないところ」に行きたいというのが自然な欲求。放流、監査廊、操作室、キャットウォーク、堤体直下・・・。
 何を見せてもらえるかについて不可欠なのはダムの管理者の協力だ。ツアーは、休日に実施されることが多く、ダムの管理に携わっている方にとっては本来休みなので、元々見学に応じること自体大変なことだろう。まして、通常見られないところをなどと言われると、対応困難かもしれないが、無理なことは無理として、できる限りのご協力をお願いしたいと思う。
 幸い最近では、多くのダムで見学会を実施するなど、ダムを見せることに関し積極的な取り組みが行われつつある。例えば、ダムが実施する見学会と提携した旅行社のツアーと言ったものも可能性が大きい。そうなれば、魅力的な場所を見学できることになるだろう。

ツアー料金
 民間会社のツアーなので、参加者は料金を払わなければならない。前例を見ると、日帰りバスツアーで、せいぜい7千円程度までのようだ。今のところ、ダムめぐりツアーの参加者は、比較的若い人が多い。他の種類のツアーには高額ツアーが成立する例があるが、ダムめぐりツアーの場合、今のところそのような状況にはないようだ。
 それでも、若い人を対象にするのではなく年齢の高い層を対象にして、少人数でゆったりと、また丁寧に説明・ガイドをして、そのかわり料金は高い、と言うタイプのツアーも今後はあり得そうに思う。
 宿泊を伴うツアーは、どうしても料金が高くなる。一泊するダムめぐりツアーがこれまでにあったのかどうか、少なくとも私はその例を知らない。いつか、この壁を打ち破るツアーが出てくるだろうが。
 もし、どこからか金銭的支援があれば、料金を下げることが可能だ。例えば、「地域振興のために」とか、「観光の促進のために」とか、何らかの公的目標を見いだして、公的機関が金銭的援助をする枠組みができれば、参加者の負担軽減につながるだろう。これは旅行社のツアーに限ったものではないが、毎年夏に実施されている水の週間の諸行事の一環として、「上下流交流の支援」と言う枠組みで、ダム見学ツアーに支援金を拠出することを初めてはどうかと、この夏に提案し、一部試行的に実施された。いろいろな意味で、金銭的支援の効果は大きいようだ。

出発地はどこか
 遠隔地のダムを想定した場合、出発地(途中の経由地で参加可能ならその経由地を含む。)がどこかは集客可能性の観点からきわめて重要だ。当然、大人口を抱えた大都市が有利。北関東のダムであれば、東京から参加可能な場所が出発地であることが有利。同様に、大阪、名古屋などの大都市が有利。
 茨城県発など、周辺から人を集めるのは、よほど他の点で魅力を持たせることができなければ、難しい。少人数でもいいと言うことであれば成立する可能性はあるが、困難が伴うだろう。
 地域的なツアーのように、大きくはない都市から近くのダムに行くようなツアーもあり得るが、ダムの側でイベントをやるなど、特別なことがない限り参加者は限られるだろう。

何かプラスアルファを
 何らかのプラスアルファがあれば参加者増につながる。
 最近のツアーでは、ダムカードを配布する例がほとんどになっている。ダムカード人気は絶大で、そのためにダムに行く人も結構いるようで、ダムカード配布は効果的だが、一方で配布が当たり前となっているような現状では、プラスアルファと言うよりは、配布しない場合にマイナスとなりそうだ。
 適切なガイド・説明者を確保することも大事。ダムに着けば、管理をしているダムの方が案内してくれるだろうから、それで十分かもしれないが、もし高度に技術的なことを知りたいとなれば、ダム技術に詳しい人が同行するのがいい。もしダム好きさんが同行すれば、ダムの方とはちょっと観点が異なった、参加者の興味がわくようなことを説明できるだろう。バスツアーの場合、バスでの移動時間が長いので、その間を利用して、ダム好きさんやダム技術者が説明するのも、効果的だ。
 ダム協会では、「ダムマイスター」の制度を設け、現在、ダム技術者の方や一般のダム好きの方など32名の方がダムマイスターに任命されている。ダムマイスターが協力したツアーも最近出てきている。ダムマイスターに協力を求めるのもいい。
 ある一つのことで決定的な魅力を持たせることができればそれに越したことはないが、一般にはそうはいかない。いくつかプラスアルファを工夫する必要がある。
(参考)
日本ダム協会 ダムマイスター


ユニークなダムツーリズム

 ダムツーリズムなのかどうかは別にして、ユニークな取り組みで、効果が大きいのではないかと思われる二つの事例を簡単に紹介する。創意工夫でいろいろなタイプのダムツーリズムがあっていいはずなので、参考になるだろう。

「水陸両用バス」によるダムツアー
 湯西川ダムとその周辺のダムを水陸両用バスで回るツアーが行われている。すでに数年間にわたって実施されているものと思われる。人気が高くダムに多数の客を集めたという点では、日本最大級だろう。
 3年ほど前に参加したが、その時の状況が下記参考に詳しい。当時はまだ湯西川ダムが完成していなかったので、コースは、
 道の駅湯西川 → 川治ダム見学 → 川治ダム湖クルーズ → 道の駅湯西川
というもので、川治ダムとダム湖を巡るものだった。
 アーチダムである川治ダムの監査廊やキャットウォークの見学、道路を走ってきたバスがそのまま川治ダム湖に入り遊覧など、得がたい体験ができ、案内の方も熟練した感じで、料金は決して安くはなかったが大変な人気だった。
 参加者は、近くの方もいたようだが、結構遠方から来た人も多いようで、こんなツアーがどうして実現したのか、大変興味がわく。現在も多少形は変わったかもしれないが続いている。
(参考)
「水陸両用バス」で行くダムとダム湖探検ツアー

四国堰堤ダム88箇所巡り
 高松在住の佐藤哲也さんが発案、「四国堰堤88箇所巡礼運営委員会」を組織して88箇所ダムめぐりを始めた。88箇所の堰堤とさらに番外別院堰堤をあわせて合計108の札所を巡礼するというもの。各ダムにはハンコが置いてあって、そこに行った証明にハンコを押してくる。遠隔地や険しい山中のダムもあり、ハンコを設置するのが大変だったようだ。完走するのも相当難しい。2012年にはハンコの設置を完了、事実上スタート。
 1年ほどで完走者が出て、2013年7月に早明浦ダムで完走者表彰式が行われた。この時、完走者5名が表彰を受けた。現在も順次完走者が出現している。
 佐藤さんは、同じようなシステムで、ダム以外にも「酒蔵」、「温泉」、「駅と車窓」などについて88箇所巡礼を立ち上げている。ユニークな取り組みで、四国以外でもこのアイデアを参考にできるのではないか。
(参考)
四国の堰堤は君たちの挑戦を待っている
四国堰堤88箇所巡礼・判子は全ダムに設置済
四国堰堤ダム88箇所巡り・完走者表彰式


 ダムツーリズムを支えるのはダムに興味を抱く人々だ。そしてダムに興味を持つ人々は、今確実に増えている。関係者の努力と工夫があれば、ダムツーリズムはさらに進展するだろう。未来に期待したい。

 「ダム便覧」はダムツーリズムを応援します。旅行社の方々、何かありましたらお問い合わせください。

(2013.12.25、Jny)
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