《このごろ》
特別インタビュー:
takaneさんが本を製作 〜「ダム紙幣」概論 〜

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 takaneさんは、当協会がWeb上で提供している「ダム便覧」の全国各地にあるダムの緯度経度情報をもとに、Google Maps上にその位置を表示するWebアプリケーション「DamMaps」を自作・公開していることでよく知られるダム愛好家です。今は、数多くのダムマニアさんがこのアプリを使ってダム巡りを楽しんでいるのは言うまでもありません。そのtakaneさんが、このほど『「ダム紙幣」概論』という小冊子を作られたということを聞き、さっそくお話を伺うことにしました。


「ダム紙幣」概論

日本にあったダムの絵はがき

中野: まず、今回の出版テーマである「ダム紙幣」を見つけられたきっかけを伺います。ネットオークションを見ていて偶然発見されたということですが。

takane: そうですね。ヤフーオークションでたまたま見つけたのがきっかけです。元々ダムに関する物などが出品されてないか常日頃チェックしてまして。オークションにはいろいろ出品されているんですよ。例えばダムの絵はがきとか。戦前、日本では絵はがきが流行った時期があって、その時期に造られたいくつかのダムも絵はがきになっています。他にも大正時代の「日本電力事業図絵」という出版物を見つけて購入しました。当時の送電網が描かれているんですがカラーで綺麗なのでお気入りです。

中野: 紙幣を集める前に、ダムの絵はがきを見たのがきっかけですか。

takane: 絵はがき以外にもダムの建設史やらなんやら。物が物だけに入札があまり入らないので、割と安く手に入れることができます。それで、その中に何枚か海外のお札があったのですが、その紙幣の図柄にダムが描かれていて、ダムの説明がされているものが出品されていました。それを見たのがダム紙幣を集め始めたきっかけです。

中野: ダム紙幣はもともと日本のものではないのですね。

takane: もちろん日本のものではないです。以前にも、インドネシアだとか外国のお札にはダムが描かれているものがあるという話はうわさでは聞いていましたが、実際に何種類かまとまって手に入ってしまうと、ダムの描かれた紙幣が世界ではどのくらいあるのかが気になりまして。それで、集めてみたら思いのほか種類も多くて、整理分類してまとめてみたいなと思うようになったのです。


ネットオークションでお札を落札

中野: これらはすべてネットで購入されたものなんですか。

takane: ネットオークションで買いました。またその他に、コインや紙幣を収集しているマニア向けの古銭商や即売会等でも購入しました。

中野: 古い切手とか、紙幣とかを扱っている古銭商ということですか。

takane: 最初、お札の収集という目的ではなかったのですが、たまたまダムの図柄が描かれた紙幣がいくつも出てきたので集めてみようかと思いました。しかし、紙幣としてどういうものがあるのかがわからないと集められませんので、まず紙幣に関する資料を探そうと思い、いろいろと検索をしていたら、アメリカの出版社から「Standard Catalog of WORLD PAPER MONEY 」という本が出ているというのがわかりまして取り寄せました。

 でもこの本、広辞苑くらいの厚さがあるようなボリュームの本で調べるのが大変なので、どうしようかと思っていたら、同じ内容でDVD版で出ているのに気付いて、それを購入しました。そして、このDVDのデータから「dam」とか「reservoir」みたいなキーワードで検索してダムの絵柄がありそうな紙幣をピックアップし、リストを作成してみました。現在、把握してる紙幣は156種類あります。

 ただ、ダムの絵柄だとはリストに書かれていないのもありますし、検索で取りこぼしたものもあります。また調べた紙幣カタログ以外のものも出ているので、実は他にもまだあるな、と睨んでいます。(笑)

「Standard Catalog of WORLD PAPER MONEY 」(DVD版)


途上国に多いダムの図柄

中野: なるほど。どうしてダムがお札の図柄に描かれているのかということですが、ダムの役割を重要に考えている国が紙幣に採用しているのでしょうか。ダム紙幣を発行しているのは、どういう国が多いのですか?

takane: 地域では、アフリカが多く、北米・オセアニア地域の国で発行は確認できません。中国や北朝鮮など、一部のアジア地域にもあるのですが、日本にはありません。
 また「ダム紙幣」には、ダムと一緒に描かれているものに、送電用の鉄塔がよくありますが、これは発電を印象づけるような図柄がお札に採用されているのだと思います。ダムとは直接つながっていなくても鉄塔が描かれているお札もあります。こういうところから、ダムを重要に考えているというよりは、ダムを造って発電を開始したぞというような、国の産業振興や文化という側面から先進的な電化した国だというアピールをしているしているように思えます。



ダム紙幣は、誰もまだ手をつけていなかった

中野: 紙幣というのは、色も綺麗で一枚一枚、じっくり見るととても楽しいですね。その国のことを調べることによって、さらに集めるのが面白くなったというか、新たな興味が湧いてきたということはありますか?

takane: 面白くなってきたというよりは、最初はまさかこんなにあるとは思っていなかったのです。種類では、あってもせいぜい4〜50枚ではないかと思っていたら、意外に存在しているので、これだけあるのは何か理由があるのではと思い、とりあえず集めてみようと思いました。とにかく手に入るだけ集めてみないと話にならないという気持ち。なんというか、どれだけあるのかがわからないのが、気持ち悪くて(笑)
 本を出す企画に取りかかる前に、誰か同じようなことをやっている人がいるのかと、いろいろ調べてみたのですが全然出てこなかったので、ますますこれは自分でやらないとダメだということが解って、まずは集められるだけのお札を一通り集めてみようと思ったのです。

中野: なるほど。ネットオークションなどで比較的安い紙幣だったからよかったのでしょうが、お高いものではどのくらいですか?

takane: とりあえず額面が4桁のお札しか買っていないので…(笑)。5桁のは後からにしようとは考えました。ただ、値段としては一枚が300円とか、500円といった、割と安いものが多いです。もともとの額面が高かったり、古くなってくると綺麗なものがなくなってくるので、綺麗なものしか扱わないところでは、出品価格が高くなっています。



お札を分類整理する

中野: ダムのお札は、結局どのくらいの枚数あったのですか?

takane: お札はけっきょく全部で57カ国、156種類ありました。

中野: それで国別、発行年、ダム型式とかで、リストを作られて整理されたのですね。


takane: どうやってまとめて行ったらよいのかよくわからないのでまず基本的なことをまとめようかと。ダムの型式については、図柄を見て解ったものもありますし、世界大ダム会議が発行している本やネットで調べて、お札の発行年を合わせて調べていくとある程度ダムが特定できるものもありました。それらをキーにして、カタログに記載されているものをリスト化していきましたが、今もどの国のどういうダムなのかが解らない紙幣も結構ありますので、リスト化作業としては結構宿題が残っているのです。

中野: 冊子「ダム紙幣」には、発行された国・地域が年代別に「DamMaps」のようにマッピングされています。これはtakaneさんならではの見せ方ですね。

takane: 分布を書いてみたら多少は何かヒントがわかるかなと思って描いてみました。ダム建設と紙幣の発行時期も関係あるかなと思ってグラフを書いてみたら、ダム建設数のピークである70年代にダム紙幣発行ピークがきていて面白いと思いました。


コミケに本を出すことが目標だった

中野: ダム紙幣そのものは、とても綺麗なのに、冊子をカラーにしなかったのは、やはり制作費が高価だったからですか。

takane: 原稿を自分で作り、それを印刷してもらい、コミケ(年2回開催される、個人で作成した本などを販売するイベント)で売ることを考えていたので、印刷をカラーにすると費用が高くなってしまいます。
 以前に出した「崩壊地ブック」は、ある程度部数が出ることが解っていたので、カラーにすることができましたが…。カラーにするのは、思い切らないとなかなか出来ないですね(笑)。コミケでは、知らない人がたまたま手にとって、「これ面白いですね」と言ってくれるのが楽しくて作っているので。昨年暮れにあった冬のコミケに出すことを目標に作りましたが、会場での評判も良かったです。


本物のお札は、まじまじ見ると綺麗

中野: 見つけられたなかでお気に入りの「ダム紙幣」はありますか?

takane: チェコスロバキアの10コルナ(1960年)/オラバダムの紙幣ですね。表紙にも使っていますが、放流してなくて静かな感じが好きです。あと、裏面に可愛い女の子が描かれているのも。


チェコスロバキア・10コルナ(1960年)/オラバダム(表面)


同(裏面)

中野: 本を拝見すると、お札のダムの図柄の部分が拡大してあるし、「鉄塔」「放流」などと分類もしてあり、興味深くて解りやすいですね。(笑)

takane: ダム紙幣はWebにも載せたんですが、その時、全体図と拡大した図があると見やすいと思いました。それで本をつくる時もそれを踏襲しました。

中野: これだけ綺麗なお札がいっぱい載っている本が、カラーでないのはもったいないですね。

takane: 本物のお札ってまじまじ見ると綺麗なんですよね。お札って、そう簡単には偽造できないように高度な印刷技術を使っていますし、図柄も、おそらくその国の美術の大家の方が描いてるのでとても綺麗です。


何度も発行されたダム紙幣があった

中野: 「同じダムが描かれているダム紙幣」というのがありますが、これは同じダムの絵が載っていても発行している国が違うのでしょうか?

takane: それはカリバダムで、ジンバブエ共和国の紙幣です。これは最初に集めたもので僕にとって大きなインパクトがあり、集めるきっかけになったものです。

中野: このダムは、何度も図柄になっていて、年代で描かれ方が違っていますね。

takane: そこが凄いのです。カリバダムは、やたらとお札になったダムで、実はザンビアとジンバブエの国境にかかっていて、ザンビアでも1回お札になっています。

中野: 国境のダムなんですね。

takane: このダムを超える時には、パスポートが必要なんです。こちらがザンビアの紙幣です。

中野: なるほどザンビアと書いてありますね。

ジンバブエ・カリバダム


ザンビア・カリバダム

takane: 両方を見比べてみましょう。この魚が飛んでいる絵がジンバブエのカリバダム。それでこちらがザンビアのカリバダム。
 ジンバブエではこのダムで10回お札が刷られていますがそのうち8枚が2006年から09年にかけての4年間で発行されています。なぜかというと、ものすごいハイパーインフレが起きて、貨幣価値がどんどんと変わったためです。1980年代、最初に出たのが約2ドル。その後、95年に100ドル紙幣が発行された後、2000年代に入って2006年から立て続けに発行されて最後は額面で50兆ドルというのが出ました。(笑)


中野: ダムが描かれているのは、裏面が多いですね。

takane: たぶんダムの図柄は大きくて場所をとるからなんでしょう。表面は、だいたい人物の絵が多いみたいです。表は額面の数字や記号など、いろんな要素を入れるからスペースが少ないのかもしれません。

中野: どれもすごくきれいですが、透かしとか特徴的なところはありますか?

takane: 今は印刷技術が発達しているので偽造防止技術もかなり高度ですね。お札の裏表で、模様の位置があっているとか。


デザインされたダムと蛇口

中野: ダムとともに蛇口が描かれているのもありましたね。

takane: マラウイ共和国500クワチャ紙幣ですね。さすがに蛇口を描いたお札はこの一種類でしょうね。比較的に新しいもので、ホログラムがついていたりします。水力発電の象徴として鉄塔が出ているものは多いのですが、水を象徴する水道を描いたものは珍しいです。


マラウイ共和国500クワチャ紙幣

 あと、サウジアラビアのお札は、表がダムで裏側が水路になっています。どこのダムか特定したいのですが、まだわかっていません。砂漠の水路なので、コンクリート製の巨大な雨どいのような水路が描かれてます。このダムで取った水を水路で流すという図柄で、サウジアラビアの国家プロジェクトとして、貴重な水を運ぶということを表現しているのでしょうか。


ダムは国力の証になっている

中野: アフリカとか中南米とか、どちらかというと途上国にダムの図柄があるようですね。

takane: 途上国では、工業系の図柄というのはけっこうありまして、工場とかプラントとか…。例えば、これはベトナムです。こちらは北朝鮮のものになります。

中野: 北朝鮮のダムはかつて日本が統治した時代に建設したダムではないでしょうか?


北朝鮮・水豊(スプン)ダム

takane: あのダムは、国の基礎になっているらしく、紋章に採用されていたりして、けっこう重要なダムということです。昭和の初めの頃に、あれだけの規模のダムというのは他になかったようです。

中野: お札にダムが描かれているというのは、それだけその国で重要だとされているということですね。

takane: 電気をもたらし、国民に近代化をもたらしたということを示しているようです。そういう発想があるのだろうと思います。
 黒部ダムを造ったときに、当時の日本でも、国の中の湧き方というか、期待感に対する国民の熱さというか、そういう盛り上がりがあったのでしょうが、外国だと今そういう暑さがあって、それがそのままお札になっているというような気がします。

中野: 国の政策がわかるところがすごいですね。

takane: さきほどのマラウイ共和国(アフリカ大陸の南東部、旧イギリス領で今も英国連邦の加盟国)の500クワチャ紙幣ですが、このお札のダムは、水道用の貯水池で、もともと水不足だったのが、2000年あたりに、ダムと貯水池を改修して大きくしたらしいのです。そのダムがこの図柄で、それでの水不足が解消されたからという意味らしいです。

中野: ダムが暮らしに役立っているということを示していますね。

takane: 記念切手とかは、図柄としても何でもありというところがありますが、日本のお札ではなかなか、そういうイメージはなくて、伝統的なものが描かれているのが普通ですよね。そこにダムが描かれているというのが僕にとってはすごく新鮮に感じたところです。

中野: どうやってまとめられたかよく解りました。ところで、takaneさんがダムの関連本を出されたのは、このダム紙幣が初めてになりますか?

takane: 僕は、「DamMaps」とかソフト系のことばかりやっていたので、こうして印刷物として本の形式にしたのは、ダム関係の内容としてはこれが初めてです。

中野: このダム紙幣は、ページ数がそれほどないので、今後、追補版というか、そういうのは何かお考えですか?

takane: Webサイトの方には、データの追加をあげていこうかとは思いますが、本となると、ちゃんとダムの作られたその国の背景までまとめたくなってしまって、今回は、とりあえずまとめてみようと思ってこういう形式になりました。


中野: 評判が良いようですので追補版も期待してます。
 本日は楽しいお話をありがとうございました。



(参考) takaneさんプロフィール

2000年 黒部ダムを見たのをきっかけに、ダムめぐりを始める
2001年 サイト「ダム日和」を公開する
2005年「DamMaps」を公開
2009年 エイプリルフールの企画として「どこでもダム」を公開

ダムにちなんだWebシステムの構築やネットの生放送サービスを利用したダムや砂防などに関するネット放送「ダム日和テレビ」を定期的に行っている。
[関連ダム] Kariba
(2014.2.14、中野朱美)
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