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(4) 貯水池水質用語集

 ダムは自然河川を横断する河川構造物であるため、必然的に堆砂と水質と環境の問題を生じさせる。この三つの問題はダムにとってはアキレス腱ともいえるであろう。これらの解決策について、ダム担当者の日夜の努力が続いている。

 ダム水源地環境整備センター編「ダム貯水池水質用語集」(信山社・平成18年)では、ダム貯水池の水質現象について、冷水現象濁水長期化現象富栄養化現象、無機物・有機物による汚濁などを捉えている。出版にあたって、ダム水源地整備センター理事長加藤昭は、その水質現象の解明に係わる用語のほかに、水質保全対策の必要性を強調し、それらの用語もまとめたという。
 この用語集は、ダム貯水池の水質について16分野に大別し、分野ごとに用語を分類・整理し解説してある。

 その16分野は環境影響評価・ミチゲーション(ダム事業の環境影響評価の技術的指針など)、ダム設備(放流設備、魚道設備)、貯水池の水理・水質、汚濁負荷(生活排水など)、水質観測(水質自動監視システムなど)、水質汚濁の種類と現象(有機・無機汚濁など)、水質項目(健康項目、生活環境項目など)、底質項目(メタン生成作用など)、生物学的水質(生物学的水質階級など)、生物項目(藻類など)、水質障害(発ガン性物質など)、予測解析手法(有限体積法など)、水質対策(生物学的水質改善法など)、水処理関連(浄水処理、下水処理)、水質基準等および関連法規(水質の基準、水質汚濁防止法など)からなる。


「ダム貯水池水質用語集」
 これらの用語のなかから、水質対策・深層曝気循環システム(hypolimmion aerating and recirculating system)を次のように引用する。

「ダム貯水池の富栄養化対策技術の一つであり、水温成層を破壊することなく深層水のみ曝気・循環させて深層水のDO回復を目的とする方法である。深層水で嫌気化が進行している貯水池では、硫化水素などの還元物質を含む低層水の放流、底泥からの栄養塩の回帰があり、これらの対策として深層曝気循環システムが有効とされている。これらの装置には、さまざまな形式のものがあるが図13.5に『浮上槽型式』と『沈水式』の2例を示す。(図4)
 浮上槽型式は、片方の伸縮筒中で深層水を空気浮上により連行・曝気し、浮上層で余剰空気を排出して他方の伸縮筒で深水層へ戻す。沈水式は深水層に沈めた層の中で取り入れた水を曝気して深水層へ戻す。余剰空気は可撓管により排出する。」


 さらに水質については、河川環境管理財団・ダム水源地環境整備センター編「河川・ダム湖沼用水質測定機器ガイドブック」(技報堂・平成13年)も発行されている。

 水源池環境整備センター編著「ダム貯水池の水環境Q&Aなぜなぜおもしろ読本」(山海堂・平成14年)は、ダム貯水池における湖沼を含めた淡水域の水環境に係わる基本事項をQ&A形式でまとめている。その内容は、水と水環境との関わり、(BODとCODとはなにか、濁度とSSの違い)、貯水池の水の動き(流水ダムととまりダム、水域での流速と生物の関係)、貯水池の水質変化(水質変化はなぜおこる、富栄養化現象の原因)、影響と対象(アオコのこと、水質保全策)等について、その回答を出している。

 例えば、「貯水池内の水はどのように移動しているのか?」の質問に対し、次のように答えている。


「ダム貯水池の水環境Q&Aなぜなぜおもしろ読本」
 「自然界の水域では水塊に外力が加わることにより流動が生じます。その経路は『外力→水中の力の不均衡→流動』、湖沼や貯水池の水(以下『湖水』という。)に作用する外力の要因には風、熱、流入、流出水、重力、気圧などがあります。風の吹送によりエネルギーが水面に伝達され、表面波や表面流が発達して流動が鉛直方向に及んで行きます。熱も水面を通じて日射や放射による熱の授受を経て水温変化が鉛直方向に及び、水温による水塊の密度差が鉛直方向の流動を抑制します。河川水の流入・流出は、運動量そのものの出入りであり、移流など湖水の水平運動に直接影響を及ぼします。出水時に大量の河川水が流入する場合、流動に及ぼす影響は特に大きくなります。また河川水は湖水と異なった水温で流入するので、湖水の密度変化にも影響を与えます。さらに、流出水量がダムや堰などで制御されるときは、その影響を大きく受けることになります。」
 この書は水環境に係わる入門書である。

 同様に、Q&Aの書である土木研究所編著「土木技術相談集 河川・ダム・砂防編」(山海堂・平成16年)では、河川・ダム・砂防に係わる河川環境の保全、健全な水循環、総合的な土砂管理、災害に対する危機管理などをとりあげている。
 例えば、「ダム貯水池における洪水時の排砂」について、堆砂量を低減させる方法として次の3つの方法をあげている。
@貯水位を一時的に低下させ、ダム低位に設けた排砂施設により土砂を排出する方法
A貯水池を迂回するバイパス水路により、貯水池上流端付近から洪水流を迂回させ、貯水池下流に直接放流する方法
B選択取水設備や中・低位の放流設備により、貯水池内に侵入する洪水時の濁流を速やかに放流する方法

 また、流域土砂管理におけるダムの土砂管理技術については、平成10年7月河川審議会総合政策委員会の総合土砂管理小委員会の報告で、次のように取り組みが行われている。


「土木技術相談集 河川・ダム・砂防編」
@掘削・浚渫と下流への置き土
  掘削・浚渫は堆砂対策として多く実施されてきた方法である。土砂供給として掘削土・浚渫土を利用する場合には、これらを下流河道内に仮置きし、その後の出水時にフラッシュさせる方法
A土砂バイパス
  土砂バイパスは貯水池上流から下流河道まで導水する水路によって、土砂流入時に流入水の一部と流入土砂を合わせて分流・バイパスし、下流に土砂を供給するもので、流入土砂を流水と一緒にそのまま通過させるため、下流での濁水や堆積の問題が少ない方法という。しかし、水量の分流比に対して土砂量の分流比を大きく設定した場合には、河道の土砂・流下能力に対し、過大な土砂供給となることが想定され、下流での土砂の堆積が問題となる。
B土砂フラッシング・スルーシング
  土砂フラッシングは、貯水位を一時的に低下させて空虚にし、流水の土砂輸送力によって堆砂をダム下流に放流する。また土砂スルーシングは土砂を貯水池内に溜めることなく通過させるというもので、貯水位をある程度低下させ、出水時に流入する微細粒子をそのまま放流するような操作を実施する。選択取水設備や放流管による洪水時の濁水放流もスルーシングの一つといえる。
 ダム堆砂については、この書では3つの対策をあげているが、それぞれのダム貯水池では具体的な土砂管理計画を検討するためには、貯水池への粒径別流入土砂量の情報や堆砂性状に関する情報が必要となり、このような情報を収集するためにもモニタリングも重要な作業であると指摘する。

(5) 土木用語辞典・河川辞典
 ダム施工について、土木用語辞典編集委員会編「土木用語辞典」(コロナ社・昭和46年)、久保慶三郎編集代表「土木工学事典」(朝倉書店・昭和55年)、土木学会編「土木用語大辞典」(技報堂・平成11年)のなかでもみられる。

 おわりに、ダムとは直接関係ないが、河川の辞典・事典について、さかの重信監修「河川事典 河川総合ハンドブック」(日本河川資料調査会・昭和48年)、日外アソシエーツ編・発行「河川大事典」(平成3年)、同「河川名よみかた辞典」(平成3年)、村石利夫編・著「日本全河川ルーツ大辞典」(竹書房・昭和54年)、鈴木理生編「図説・江戸・東京の川と水辺の事典」(柏書房・平成15年)、森田保編「利根川事典」(新人物往来社・平成6年)、利根川研究会編「利根川荒川事典」(国書刊行会・平成16年)、平塚市博物館編・発行「相模川事典」(平成6年)、とくしま地域政策研究所編「吉野川事典」(農村漁村文化協会・平成11年)、筑後川伝統技術研究会編「筑後川大百科−筑後川伝統技術」(国土交通省筑後川河川事務所・平成15年)が発刊されている。

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