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◇ 10. 三河沢ダム(三河沢川)の完成

 三河沢川は、栃木県塩谷郡栗山村に位置し、その源を枯木山(標高1,755m)に発し、山間部を南流して途中で悪至沢川、熊湯沢などと合流して湯西川へと流れる流域面積16.2km2、流路延長3.55qの河川であるが、たびたび下流の湯西川沿川に水害を起こした。

 この三河沢川に平成16年三河沢ダムが完成した。そのダム完成までのプロセスを記してみる。

 昭和59年地域生活防災ダムとして実施計画調査に着手。
その後、昭和62年地元説明会の開催。平成2年建設工事に着手。平成6年基本設計会議の開催。平成8年用地補償基準の妥結。環境調査の開始。平成9年ダム工事本体発注。平成10年希少鳥類クマタカ営巣地の発見。平成12年希少鳥類の保全に関する協議会の発足。平成13年クマタカの巣立ち確認。平成14年コンクリート打設完了。平成15年試験湛水式。
そして、平成16年三河沢ダム完成。


 三河沢ダムについては、栃木県土木部日光土木事務所編・発行『三河沢ダム工事誌』(平成16年)の書により、その目的、諸元、特徴を追ってみたい。

 三河沢ダムは3つの目的を持っている。

@ 洪水調節
 ダムは大量の水を一度に下流へ流さないように洪水時には、145m3/sのうち85m3/sの洪水調節を行い、ダム地点下流の湯西川沿川の水害の軽減を図る。
A 流水の正常な機能の維持
 流域の既得用水の確保や、生態系(魚類、昆虫類)の棲息環境と河川環境の景観を保全するために、川の流れを維持し、その維持流量は0.116m3/sを確保する。
B 水道用水
 湯西川地域に対し、新たに水道用水1,700m3/日(0.0197m3/s)を上乗せし、3,000m3/日(0.0347m3/s)を供給する。


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『三河沢ダム工事誌』
 ダムの諸元をみてみると、堤高48.5m、堤頂長97.5m、堤体積5.75万m3、総貯水容量89.9万m3、有効貯水容量82.9万m3、型式重力式コンクリートダムである。起業者は栃木県、施工者は鹿島建設・三井住友建設共同企業体で、事業費123億円を要した。費用割振は河川93.7%、水道用水6.3%である。なお、補償関係は家屋移転なし、土地取得面積(林地)16.7ha、公共補償としては林道、橋梁、トンネルの施工であった。


 鬼怒川支川湯西川の最上流に造られた三河沢ダムの特徴について、いくつか挙げてみる。
@ ゲートレスダム
 洪水時に利用する放流設備は、ゲートを設置せず、洪水吐きによる自然越流とし、ダムの管理を効率良くするとともに、人為的ミスを防ぐことを目的としている。
A 貯砂ダムの設置
 ダム貯水池に流れ込む悪至沢川と三河沢川の上流に、1箇所ずつ貯砂ダムを設置し、貯水池に直接土砂が流入することを防いでいる。その諸元は悪至沢貯砂ダムが堤高14.0m、堤頂長59.0m、貯砂量73,200m3、流域面積4.9km2、一方、三河沢貯砂ダムが堤高14.0m、堤頂長52.4m、貯砂量40,000m3、流域面積7.92km2である。

 三河沢ダム流域の地形は、深い谷が刻まれている大起伏山地をなし、流域植生はブナ・チシマザサ群落、ブナ・ミズナラ群落が見られる自然豊かな地域である。周辺にはツキノワグマ、クマタカ、オオタカなどの大型動物、水域にはイワナ、ヤマメなどの渓流性の魚類が生息する。そのために、ダム造りに細心の注意が払われた。とくにクマタカ、オオタカには十分な対応がなされた。

 関口行雄日光土木事務所長は、「工事誌の発刊にあたって」のなかで、次のように述べている。
 『当ダムの特筆すべき事項は、建設地周辺に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく「国内希少野生動植物種」に指定されているクマタカ、オオタカ等が生息していることであります。そのため、平成8年度から環境調査を行い、生態等に詳しい学識経験者や有識者の助言を得ながら、事業と希少鳥類との共生を目的とした17回の打合わせ会、さらに平成12年度から現在まで11回の協議会を行い、保全対策等を講じながら事業を進めてまいりました。その結果、クマタカについては平成10年度、11年度及び13年度には孵化が見られ、13年度には巣立ちにも成功し、保全対策の効果があったと確信しております。』

 このように、自然と人とが共生を図らねばならない。今日、ダム造りには動植物、鳥類などの自然生態系に係わる保全対策が欠かせない時代だ。


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