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《国東仏教文化を醸し出す〜行入ダム》



 仏の里国東半島のほぼ中央に位置する行入ダムは、田深川水系横手川の東国東郡国東町大字横手地点に平成10年に竣工した。この建設記録として大分県土木建築部編・発行『行入ダム工事誌』(平成10年)が刊行された。

 田深川は急流のためたびたび水害を受けており、昭和23年より田深川災害助成工事、中小河川改修工事の治水事業が行われてきた。しかし、昭和36年10月低気圧により浸水家屋 190戸、浸水農地75ha、被害総額25億円に及んだ。また、最近10年、毎年のように河岸の欠壊、氾濫を繰り返してきた。一方横手川は国東町の農地に水源として利用されているが、昭和42年、44年、50年、53年と夏期においては、しばしば水不足に見舞われた。
 このような災害を減災するため行入ダムは、

@ダム地点の計画高水流量90m3/sのうち70m3/sの洪水調節を行う
Aダム地点下流の横手川の既得用水の補給を行い、流水の正常な機能と増進を図る

という目的で築造された。
 


 
 ダムの諸元は堤高43.5m、堤頂長 180m、堤体積 8.8万m3、総貯水容量 164万m3、重力式コンクリートダムで総事業費 110億円、起業者は大分県、施工者は国土開発(株)、梅林建設(株)である。補償については、用地取得面積は20.7ha、家屋移転6戸となっている。

 行入ダムの特徴は、「シビックデザインダム事業」を取り入れたことである。即ち、ダム全体の構造物の中にデザイン的要素を入れ、ダム本来の持つ機能のほかに景観的要素を加えることによって、構造物の魅力を高め、周辺環境との調和、または地域の観光資源として有効利用が図られてきた。

 国東半島は、奈良時代に生まれた「国東六郷満山文化」として、天台宗の普及と宇佐神宮の絶大な経済力の背景によるめざましい繁栄を遂げ、豪華絢爛な仏教文化が開花した地域である。この文化の大きな特徴の一つは多種多様な石像群を挙げることができ、宝塔の一種である国東塔は 500基を数え、またユ−モラスな表情を持つ仁王像が全国の8割を占めており、寺院や権現社の前には必ずと言っていいほど建立されている。
 このため行入ダムは「仏の里のダムづくり」を基本をテ−マに、ダム本体に石積模様の化粧枠を使用、管理棟に寺院のイメ−ジを採用し、さらにダム天端道路に石張舗装を行い、上流壁高欄レリ−フには木造不動明王座像(行入寺)、木造伝足利尊氏座像(安国寺)、下流バルコニ−壁高欄レリ−フにはガ−タロ伝説、修正鬼会がはめこまれている。
 千の岩、万の岩がそびえ立つ行入ダムの天端に佇むと、国東半島独自の仏教文化、石の文化がデザイン化され、左岸ダム直下には、養老2年開祖の天台宗行入寺があり、上流域の両子寺、富貴寺、文殊院、下流域の泉福寺、安国寺とともに国東文化の中心となる仏の里の文化財と一体となったダム造りとなっていることがよく分かる。このように宗教的文化を醸し出すダムは我が国では珍しい。不思議と余韻が残るダムである。

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