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7.大町ダム(高瀬川)の建設


『大町ダム工事誌』

 大町ダムは、信濃川水系犀川の左支川高瀬川の長野県大町市大字平地点に、建設省(国土交通省)によって造られた。昭和42年度から予備調査、昭和47年度から実施計画調査、昭和49年度から建設事業に着手、幾多の困難を乗り越えて20数年を経て、昭和61年3月に完成した。建設省北陸地方建設局大町ダム工事事務所編・発行『大町ダム工事誌』(昭和61年)、同『大町ダム写真集』(昭和61年)では、このダム事業の必要性について、
【長野県が昭和7年から高瀬川改修事業を実施していたが、昭和9年7月、昭和44年8月野洪水は計画高水流量を上回り、高瀬川の上流部及び流域に甚大な被害を及ぼした。その後水系一貫とした基本高水流量の再検討が上流部基準点立ケ花において計画高水流量を 11500m3/s、計画高水流量を9000m3/sとし、大町ダムを含む上流ダム群で2500m3/sを調節する】

とある。さらに、利水面では水道用水の需要、かんがい用水の確保、電力需要に応えるものである。

 大町ダムの目的は

・ダム地点の計画高水流量1500m3/sのうち1100m3/sの洪水調節を行う。(計画放流量 400m3/s)
・高瀬川沿岸の既得水利の補給と流水の正常な機能を図る。
・水道用水として、高瀬広域水道企業団(大町市、池田町松川村)に最大1万8000m3/日  、長野市に最大10万m3/日を供給する。
・ダム直下に大町発電所を建設し、最大出力1万3000KW、大町ダム貯水池を逆調池として中の沢発電所を新設し最大出力4万2000KWの発電を行う。

 つづいて、大町ダムの諸元は、堤高 107m、堤頂長 338m、総貯水容量3390万m3、型式重力式コンクリートダムである。起業者は建設省(国土交通省)、施工者は(株)間組、前田建設工業(株)共同企業体で、事業費は 481億円を要した。

 なお、主なる補償問題は、水没家屋はなく、取得面積 141.8ha、発電所廃止補償、魚業補償、国有林地有償所管換となっている。一方、大町ダム建設周辺は中部山岳国立公園特別地域で、環境に十分配慮され自然公園法、森林法、砂防法などに基づく行政面の協議、関係手続きを行った。
 昭和49年の事業着手から昭和61年の完成まで11年の歳月が流れた。この間、技術的には本体コンクリート打設ジブクレーン工法、遮水工に地下連続壁工法及び二重管式グラウト工法を採用し、利水放流設備の選択取水、騒音対策等の工夫、研究がされた。一方周辺整備には、大町市と整合した都市緑地公園計画を策定し、環境整備が完成した。

 ここで、ダム施工に関わるエピソードをひとつ挙げてみたい。
 坂西徳太郎氏は前掲書『大町ダム工事誌』のなかで述べている。


大町ダム
【このダムは、ジブクレーン構造でやった非常に大きなダムとしては日本では珍しいのです。やっぱりここのダムではケーブルクレーンでは無理だというので、ジブクレーン施工法で決まった。そのときちょうど水資源公団は、ジブクレーンというのは下久保ダムが終わって草木ダムで活躍していた。】

 もう一つの思い出として、締切りについて語っている。

【これは上流締切りは砂利層が非常に深いので、これを一体どうするかということです。かなり大きい花崗岩の玉が入っていた。普通のものではどうにもならぬぞということで、結局イコスで下部をやって、上の方はロックフィルと同じようにしてやる。ただこれをロックフィルといったって、コアーネンドなんか入れるようなことでは仕事は間にあわぬぞ、冬になるのだから。というのでビニールの3ミリのシートを張って、それを遮水膜にして上の方は積み上げようということになったのです。これも非常にうまくいっていい先例をつくったことになりました。】

 そして、

【歴代の所長さんが偉いのは無論でしょうが、所員の方がそういった努力をしてくださったということに感謝したいと思っています。】

と結んでいる。
 大町ダム完成時、所員たちは夜空の満天の星を仰ぎながら美酒を酌み交わした。その美酒に酔った所はダム天端であったという。ここにダム造りの大いなるロマンを感じる。

 以上、梓川の奈川渡ダム、水殿ダム、稲核ダム、さらに高瀬川の高瀬ダム、七倉ダム、大町ダム及び各発電所について概観してきた。これらの6つのダムは、わが国の高度成長を背景とした昭和44年〜61年にかけて竣工した。ダム平均堤高は 120mを擁するハイダムを誇る。型式コンクリートダム3基、ロックフィルダム2基、重力式コンクリートダム1基であり、前述のように数々の学会賞に輝いた、全ての技術力を結集したダム建設であった。

 また、大町ダムは治水を含む多目的ダムであるが、6つのダムの目的はすべて水力発電用であり、併せて最大出力 230万4900KWを有し、揚水発電所をもって水の有効利用を行っている。電気の流れは、水力、火力、原子力の組み合わせによって効率的な運用がされ、主に関東方面に電力の安定供給を図っている。

 このようにみてくると、長野県中信地方における梓川、高瀬川の急峻な河川を最大限に活用した水力発電用のダム造りであった、といえる。

   ダム底の 村偲べとや 亀の鳴く
                 (山内山彦)



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