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12.中筋川ダム(四万十川水系中筋川)の建設

 中筋川は四国の西南部に位置し、一級河川四万十川(渡川)の一次支川で、その源を高知県宿毛市の白皇山(標高 457.8m)に発し、宿毛市を経て四万十市実崎地崎で本川に合流する流域面積 144.5km2、流路延長36.4kmの河川である。中筋川流域は、全体が台風常襲地帯であり、中下流部の河床勾配が緩やかなこともあって、四万十川本川の背水の影響を受けやすく、四国の河川の中でも洪水の発生が顕著な河川となっている。このため、建設省は昭和4年より直轄改修工事に着手し、合流点付替、堤防の新設等の工事を実施して、洪水被害の減少に努めてきた。

 しかし、その後も中筋川流域の洪水被害は後を絶たず、近年をみても、昭和50、54、55、57、平成元年と破堤、堤防越水をくりかえし、家屋、農地、国道等の浸水が発生するなど、沿岸の社会・経済活動に重大な影響をもたらし、中筋川ダム等を始めとする治水計画の早期実現が強く望まれてきた。

 また、中筋川は宿毛・四万十両市のかんがい用水等の水源として、古くから広く利用されてきたが、下流沿川においてしばしば深刻な水不足に見舞われており、その安定供給を図る必要に迫られ、中筋川周辺地域では、高知県西南地域の発展を図るため、高知西南中核工業地等の事業が進められた。これらの新たな水源の確保も必要となった。

 中筋川ダムは、こうした広範な地域の要請を受け、それらの基幹的役割を果たすダムとして、昭和57年度から実施計画調査に入り、翌昭和58年度から建設に着手、昭和61年度補償基準妥結、平成元年からは本体工事が行われ、平成3年度本体コンクリート打設開始、平成5年度には本体コンクリート打設が完了。平成7年11月より試験湛水を開始、平成10年5月に試験湛水を終了し、平成11年4月1日より管理に移行した。平成15年6月中筋川ダム水源地域ビジョンが策定されている。

『中筋川ダム工事誌』

『中筋川ダム写真集』

『中筋川ダム図面集』
 なお、中筋川ダムは宿毛市平田町黒川地先に位置する。この中筋川ダムの記録について、平成11年建設技術研究所大阪支社編『中筋川ダム工事誌』『中筋川ダム写真集』『中筋川ダム図面集』の3冊が建設省中筋川総合開発工事事務所から発行された。また、清水(株)大旺特定建設工事共同企業体編・発行『中筋川ダム工事記録』(平成9年)もある。

 これらの工事誌によると、中筋川ダムは、次のような5つの目的を持った多目的ダムである。

洪水調節
 中筋川ダム地点における計画高水流量 330m3/sのうち 260m3/sをダムに貯留し、下流地域の洪水被害を軽減する。
 平成16年10月20日台風23号による洪水では、中筋川上流域で20日14時までに累加雨量427mmに達した。このとき中筋川の治水基準地点磯ノ川における最高水位は8.54mであったが、中筋川ダムがなかった場合は9.41mと推定され、ダムによって約87cm程水位低下がみられた。


『中筋川ダム工事記録』
・流水の正常な機能の維持
 川の水は、川で暮らす生物にとって欠かせない。中筋川ダムでは、河川の生態保護のため必要な河川の流量を維持すると共に、中筋川流域での既得用水の補給を図る。

・かんがい用水
 高知県西南地域の農業の安定・振興を図るため、2市1町1村(四万十市、土佐清水市、大月町、三原村)の 530haの農地に対し、中筋川ダムから年間最大1900千m3のかんがい用水の補給を行う。

・水道用水
 宿毛市東部地域は、これまで中筋川の伏流水と地下水等を利用した簡易水道により供給されていたが、近年の生活水準の向上や定住人口の増加によって新たな給水が必要となり、このため、中筋川ダムから宿毛市に対し、新たに最大2000m3/日の水道用水を確保・補給する。

・工業用水
 高知県西南地域の中心である四万十市、宿毛市には、西南周辺地域の発展を図るため高知西南中核工業団地・上の土居工業団地の事業があり、このため中筋川ダムから新たに最大8000m3/sの工業用水を確保・供給する。


(撮影:安河内孝)

 一方、中筋川ダムの諸元は、堤高73.1m、堤頂長 217.5m、堤体積27.4万m3、有効貯水容量 700万m3、総貯水容量 730万m3、型式重力式コンクリートダムである。起業者は建設省(国土交通省)、施工者は清水建設、大旺建設共同企業体で、事業費は 500億円を要した。

 なお、主なる補償は、水没移転家屋8戸、用地取得面積84.6ha、少額残存補償19戸、中筋川の自然水泳場の水没による中学校プール建設2ケ所、漁業補償などである。
 この工事誌で、土方 猛所長は、中筋川ダムの工事施工の技術の特徴について次のように挙げている。

『拡張レヤーエ工法による施工の安全性の実証、液体窒素によるサンドプレクール工法は、コンクリート練り上がり温度の目標値をクリヤーする適していることの検延、基礎処理については、左岸砂岩部の透水性の改良が予想以上に困難であったが超微粒子であるSFセメントを使用する事によって改良目標が達成できたこと』

 最近、自然環境に配慮したダム造りが重要視されてきた。中筋川ダムは、「もの静かなダム湖とのめぐりあい」というテーマをもって景観設計、施工された。単調になる堤体下流面をステップ形状のデザインとして、ステップ高75cm、85段に及び、ステップの施工範囲を堤体頂部から越流面全体とし、ステップはダム基本三角形に外付けの形で施工。また、堤体の中央にある2つのオリフィス吐口は、各々高さを違え、違う高さの吐口を外観上下、左右対称に見せている。中央部にある2つのタワーは水位計タワーとエレベータータワーで2つのタワーは同じ高さではない。

 さらにダム天端照明を一般的なポール照明から高欄照明へ変え、生態系への配慮のため照明には低誘虫性蛍光灯を使用している。

 中筋川ダムの湖水誕生によって、水辺の鳥類(カモ類)が生息し、ダム着手前は22科51種からダム完成後は30科75種の増加が見られ、バードウォッチングの場となっている。

 環境や景観に考慮した中筋川ダムは地域の人々の誇りとなるランドマークを形成しており、毎年7月に、蛍湖まつりが開催されいる。このように中筋川ダムはその周辺区域を地域に開放することによってダムの利活用を推進し、地域の活性化を図り、地域に開かれたダムとなっている。


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