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18.世増ダム(新井田川水系新井田川)の建設

 新井田川は岩手県九戸郡に位置し、その源を多々良山(標高970m)に発し、岩手県北部を北流し、雪谷川を合流しながら青森、岩手の県境に達し、さらに北流を続け、頃巻川、松館川を合わせ、八戸市を貫流して太平洋に注ぐ流路延長141.1km 、流域面積585.4km2の二級河川である。新井田川流域の気象をみてみると、内陸性の気候を示し、降雨量は梅雨期、台風期に多く、特に台風期の豪雨による被害が多く発生している。流域の年平均降水量は1000mm、年平均気温9.8℃である。

 新井田川沿岸の水害記録では、昭和42年9月台風27号により浸水家屋1873戸、浸水農地515ha、被害総額1061百万円、57年5月二ツ玉低気圧により浸水家屋11戸、浸水農地26ha、被害総額3173百万円、平成5年7月台風5号により浸水家屋13戸、浸水農地10ha、被害総額420百万円、11年10月豪雨により流失戸数2戸、被害総額1684百万円など連年にわたって、大きな被害が発生している。

 また、昭和40年、45年、平成6年としばしば水不足に見舞われた。さらに八戸原地域は標高80m〜250mの丘陵地帯であり年間降水量1000mmと極端に少なく、火山灰土壌と季節風(ヤマセ)により、畑作農の安定的発展を阻害していた。

 八戸市では、近年市街地への人口集中、岩手県種市町も生活水準の向上、人口増に対処するために水道用水の確保が望まれていた。

 これらの水問題を解決するために、世増ダム(青葉湖)は、新井田川の青森県三戸郡南郷村大字島守地点に、調査開始以来35年の歳月をかけて、平成16年に完成した。


(撮影:北国のNAGO)

『世増ダム工事誌』
 このダム建設記録として、東北農政局八戸平原開拓建設事業所編・発行『世増ダム工事誌』(平成16年)があり、この書からダムの目的、諸元、特徴を追ってみたい。

 世増ダムの目的は4つ挙げられる。

・ 洪水調節は自然調節方式とし、ダム地点における計画高水流量1230m3/Sのうち、820m3/Sを調節し、410m3/S(最大610m3/S)を放流する。 これに要する容量は2190万m3である。100年に1回発生する洪水を対象としている。

・ 既得用水の補給等流水の正常な機能と維持と増進を図るため、田中地点において1.8m3/Sを確保する。これに要する容量は洪水期90万m3、非洪水期170万m3である。

・ 八戸平原地区の畑地1802haに対し、灌漑期(3月21日〜10月15日)最大1.303m3/S(平均0.824m3/S)、年間総取水量1488万m3を取水し、灌漑用に供給する。これに要する容量は610万m3である。この灌漑用水は、農水省国営八戸平原開拓建設事業等に基づき、頭首工1カ所、揚水機場2カ所、幹線用水路42km、支線用水路53kmを設置して供給する。

・ 八戸圏域(八戸市、三戸町、五戸町、名川町、南部町、階上町、福地村、南郷村、百石町、六戸町、下田町の11市町村)の水道用水として、新たに98695m3/日、岩手県種市町へ水道用水として、新たに4730m3/日の合計103425m3/日(1.197m3/S)を田中地点で取水する。これに要する共同ダム容量は700万m3である。このため、八戸市他8町2村では八戸圏域水道企業団を創設し、ダム事業へ参加した。

 次に、世増ダムの諸元は堤高52m、堤頂長247m、堤体積22万m3、有効貯水容量3310万m3、総貯水容量3650万m3、堆砂容量340万m3、型式重力式コンクリートダムである。

 起業者は農林水産省、施工者は大林組、三井住友建設、鉄建建設共同企業体で、事業費は613.6億円を要した。費用の配分率は治水43.1%、農業用水28.5%、水道用水28.4%となっている。昭和63年9月30日は損失補償基本協定調印式が行われた。主なる補償は、水没面積156ha、移転戸数76戸、島守発電所の廃止補償などであった。

 世増ダムの完成までには紆余曲折の難産だったといえるが、ダムの特徴について次の7点を挙げてみる。

・ 世増ダムは、当初地元からダム建設絶対反対がなされたものであり、さらに青森県と岩手県の県境に位置し、水没も両県に跨がる複雑さもあった。結局地域住民からの理解と協力が得られるまで23年間を要した。

・ 共同事業者が確定するまで多難な道を歩んだ。当初工業用水の参加があったものの、需要が見込まれず、不参加となった経緯もある。

・ 工事は、ダム本体と付替道路は東北農政局が施工し、管理設備等については青森県が施工し、各々施工分担が行われた。

・ ダムの設計施工におる技術課題については、東北農政局管内国営ダム技術検討会等で解決が図られた。

・ 重力式コンクリートダムであって、コンクリートの重さによりダムの安定を保つ構造となっており、施工性、経済性を考慮した拡張レア工法で施工された。

・ ダムの貯水効率(ダムの体積を1とした場合の有効貯水量の割合)は、約150と極めて効率の良いものとなっている。

・ コンクリート自動運搬システム開発と実用化は、軌索式ケーブルクレーンを使用した。ダム用コンクリートの運搬をコンピューター制御により、製造から打設箇所への放出までを完全自動化した3次元ダム用コンクリート自動運搬システムを開発し、実用化した。世界で初めてという。(「日本ダム協会」のホームページ)

 世増ダムの水は関連・共同事業として、新井田川総合開発事業、国営八戸平原土地改良事業、八戸圏域水道事業、岩手県種市町水道事業によって治水、農業用水、水道用水として、新井田川流域の人々に大きな貢献を果たしている。

   ダム造り 喜怒哀楽の 銀世界 (吉永貞志)


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