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9.蔵王ダム(最上川水系馬見ケ崎川)の建設

 山形市内を歩くと、芋煮を食べさせてくれるお店が多い。里芋を主とし、野菜、魚、肉を加え、味噌で味付けした鍋料理の一種である。芋煮のルーツは、紅花交易による最上川舟運が盛んなとき、船頭さんたちが、荷を運ぶ間に川原でこの芋煮を食したという。その発祥地がどうも最上川水系馬見ケ崎川の河川敷であったともいわれる。今では、直径6mの大鍋で煮る「日本一の芋煮会フェスティバル」は、山形県の秋の風物詩となっている。

 馬見ケ崎川は、蔵王山系熊野岳(標高1841m)に源を発し、上流端は山形市上宝沢の葉の木沢であって、葉の木沢川、滑川、内山川、村山高瀬川、横前川を併合し山形市を貫流して須川に合流する流路延長22km、流域面積173km2の河川である。


(撮影:ふかちゃん)
 馬見ケ崎流域は急峻で、平時は比較的表流水が少ないが一旦、豪雨(豪雪)となると、洪水が起こりやすく、過去幾度も山形市に被害を及ぼしてきた。その事は流出土砂で堆積した急勾配の扇状地の上にあり、市内の至る所に旧河道の流跡が見られることでも理解できる。

 また、山形市周辺の田畑は西部を流れる須川が鉱毒のため使用出来ないので、馬見ケ崎川より直接あるいは間接に取水しており、用水不足を来してきた。

 同様に馬見ケ崎水系を水源とする上水道も人口の増加と使用量の増加に伴って年々断水の回数が増え、断水地域も広がっていた。

 このような状況から蔵王ダムの建設は地元民の受益が極めて大きく、早期に着工が期待されていた。昭和45年蔵王ダムは最上川水系馬見ケ崎川の山形市大字上宝沢葉の木地点に完成した。その建設経過を追ってみたい。

昭和33年    山形市単独予備調査を開始
  34年    山形市水資源委員会は多目的ダム建設の(案)
         を提出
  37年    山形県による合同調査
  40年    実施計画調査
  41年 4月 山形県蔵王ダム事務所発足 事業着手
      5月 市道宝沢線拡幅道路用地、地権者と妥結
      9月 山形県知事と秋田営林局長との間で蔵王ダム
         建設に伴う補償等に関する基本協定書締結
     10月 河床部の砂防ダム撤去
  42年 8月 コンクリート打設開始
      9月 定礎式
     10月 工事用原石運搬道路完成
  43年11月 林道付替道路完成
  44年11月 湛水式 ダム仮排水路ゲート閉鎖
     12月 国有林管理用歩道完成
  45年 3月 蔵王ダム完成

 このダム事業を記録した山形県蔵王ダム建設事務所編・発行『蔵王ダム工事誌』(昭和45年)によりダムの目的、諸元、特徴を追ってみたい。
 ダムは4つの目的を持っている。


『蔵王ダム工事誌』

洪水期間は6月23日より10月31日までとし、計画高水流量385m3/Sを100m3/Sに調節して放流。一定量放流の洪水調節方式である。

◇灌漑期間は5月16日より9月1日までとし、利水容量520万m3を上水道供給と併せて利用する。

◇上水道は年間を通じて3万m3給水することとし、利水容量520万m3を灌漑用水補給と併せて利用する。なお、昭和45年4月蔵王ダムの完成によって松原浄水場、東沢浄水場に通水開始。

◇ダム完成後の昭和59年3月に管理用発電が行われるようになった。管理用発電は最大使用水量0.9m3/Sにより最大出力480kwを発電可能とする。発電した電力は蔵王ダム管理所及び山形県庁で利用したほか、深夜等の余った電力は東北電力株式会社に売電されている。このように水の有効利用を行いながら、発生した電力を管理用として利用することは、管理費の軽減を図っている。
 次に、ダムの諸元は堤高66m、堤頂長273.8m、体積27.6万m3、総貯水容量730万m3、有効貯水容量520万m3、型式は中空重力コンクリートダムである。起業者は山形県、施工者は株式会社熊谷組、事業費は27.2億円を要した。ダムサイト及び水源地はすべて国有林地で昭和41年9月山形県知事と秋田営林局長との間で「蔵王ダム建設に伴う補償等に関する基本協定書」が締結された。

 蔵王ダムの特徴は、昭和35年完成の木地山ダムと同様、型式は中空重力式コンクリートダムである。

 コンクリート打設の苦難については、前掲書『蔵王ダム工事誌』に次のようにみられる。

「打設時の温度規制として、暑中においてはコンクリート打込み温度が25℃以上になる場合、即ち実績では7月中旬から8月下旬の期間の10時から16時までの間は打設を中止し、専ら夜間に打設した。寒中においては午前中に打設を始める場合は外気で1℃以上、午後に始める場合は3℃以上でなければ打設を許可しなかった。」

 また、

「打設中に気温が下がって−2.5℃にまでなったことが2回あったが、混合水に温水(40℃)を使用して、コンクリート打込み温度は3℃以上に保つことが出来た。」
「外気が約5℃以下になる時期(4月、11月、12月)に打設した箇所はヒーターマットで表面を覆い、保温養生に努めた。1日のうちで外気温度の差のはげしい4月、5月及び、11月、12月に打設したダイヤモンドヘッドにはクラック発生の防止用として鉄筋を埋設した」

とある。

 このようにコンクリート打設は温度との闘いであったという。

 なお、平成2年3月馬見ケ崎川に1年間の堆砂に相当する44000m3を貯砂容量確保できる高さ12m、長さ57mの貯砂ダムが完成し、貯水池堆砂量の進捗を防いでいる。


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