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◇ 4. ダム湖の景観

 具体的なダム湖の景観設計をアドバイスする廣瀬利雄・竹林征三著「ダム・堰と湖水の景観」(山海堂・平成6年)には、多くのダムの事例を引いてダムの景観を論じる。この書では、ダムおよびダム湖は雄大なランドマークであり、また土木文化遺産として、位置づけられることから、地域に与える湖水景観の重要性を指摘し、いくつかのダム景観におけるチェックポイントについて述べている。

 先ず我が国のダム湖と比較して、アメリカにおけるダム湖は天然湖沼に近い景観を呈しており、その理由を次のように挙げている。
@アメリカのダム湖は周辺の地域に人がほとんど住んでおらず大自然の中に位置する。
A我が国のダム湖では、制限水位方式のものが多いが、アメリカのダム湖運用はオールサーチャージ方式がほとんどで水景の環境が保持される。
B我が国のダム湖では、ほとんどが付替道路として湖周道路が造られている。アメリカでは湖へのアプローチは湖周道路でなく、必要な所においてポイントアクセスの形で道路を設置している。ポイントアクセス方式にすることにより、湖周道路には掘削長大道路法面や路側まき出し法面をつくらないので、湖畔景観が天然湖畔と変わらないものとなる。


「ダム・堰と湖水の景観」
Cポイントアクセス方式によることにより、ダム湖の湾や大きな入江等で人間が容易にアプローチできない所を積極的に設置できる。その所を野生生物保護区としている。
D人々が積極的に湖面を利活用し得る場所としてのレクリエーション区域を設定し、反対に人々のアクセスを拒む場所は「野生生物の保護区」として、明確に区切っている。
 このような例として、イリノイ州のカーリル湖を挙げている。カーリル湖はアメリカ工兵隊によって1967年に完成した。堤高20.4m、堤頂2 002m、湖面積23 270ha、総貯水容量8億6 300万m3、型式はアースフィルダムである。

 カーリル湖には「工兵隊管理のレクリエーション地区」、「イリノイ州公園地区」、「野生生物管理地区」が設定され、それぞれ管理されており、その他の湖周りは、公共用地として取得されている。「野生生物管理地区」の中に人間が踏み入ることのできる低い囲い土手がつくられ、洪水のたびごとに氾濫するが、渡り鳥のシーズンには素晴らしい狩猟場を提供してくれるという。

 さて、わが国のダムで湖周道路が造られなかった例として、柏崎市上水道用ダム谷根ダム(昭和48年完成)を挙げているが、このダムの末端に赤岩ダム(平成元年完成)が建設され、その際赤岩ダム工事のために谷根ダムには片側右岸道路が設置された。しかし、赤岩ダムには湖周道路は設置されていない。

 この書ではダム湖水景観の構成要素として「山水画」に描かれるように、「山」、「水」とその山水を際立たせる役目を果たすバックの「空、雲」の3つを挙げ、そしてダム湖水景の設計について次の6つの着眼点が重要だと指摘する。
@遠い山並み
A湖辺の山稜
B湖周の水際線
C広い湖水面
Dスカイラインとしての空と雲
E光線の織りなすシルエット

 さらに、ダム湖の景観として、
@周辺環境に調和した設計であるか
A力学的に合目的的な形状となっているか
B本来の機能が具備されているか
 の3つの基本条件を満たしていることが重要だと論じる。最後にダムの景観設計を行ううえで、シンメトリー(左右対称)であるか、リズム感があるか、調和がとれているか、ダムに安定感があるか等のチェックポイントを述べ、よりよいダムの景観づくりを示唆している。

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