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◇ 9. 萱瀬ダム(郡川)の再開発事業

 萱瀬ダムは郡川の上流、大村市黒木町地先に治水と水道用水の供給のために、昭和37年に完成した。ダムの諸元は堤高51m、堤頂長180m、堤体積8.2万m3、総貯水容量303万m3、型式重力式コンクリートダムで、起業者は長崎県、施工者は熊谷組、事業費は8.35億円であった。


 萱瀬ダムの目的は、ダム地点の計画高水流量315m3/sのうち185m3/sの洪水調節を行うとともに長崎市、大村市に対し日量12,000m3の水道用水を供給するものであった。

 しかしながら、昭和45年8月、昭和51年9月の大村地方を襲った台風による豪雨は計画を超える洪水が発生し、下流において被害を及ぼした。これらの水害に対処するために、抜本的な治水対策が検討された結果、基準地点(荒瀬橋)において基本高水流量が現行625m3/sに対して、835m3/sとなった。このため既設河道の疎通能力の超過分は萱瀬ダムの嵩上げにより、洪水流量の調節を図り、洪水を防御することとなった。

 一方、大村市は長崎空港の開港等交通要衝地であり、また、長崎市は地形的に水源に恵まれないため、激増する水需要に対処するために水源の確保が急がれ、このように治水と利水面から萱瀬ダム嵩上げの再開発事業が平成12年に竣工した。
 萱瀬ダム再開発については長崎県諌早土木事務所編・発行『萱瀬ダム工事誌』(平成13年)がある。
 萱瀬ダムの諸元は堤高65.5m(51m)、堤頂長240m(180m)、堤体積20.6万m3(8.2万m3)、総貯水容量681万m3(303万m3)、有効貯水容量594万m3(263万m3)、型式重力式コンクリートダム、起業者は長崎県、施工者は熊谷組・岡山建設である。事業費は223.36億円で、費用割振は河川51.9%、水道48.1%である。

 この萱瀬ダムの再開発事業によって、@萱瀬ダム地点の計画高水流量510m3/sのうち355m3/sの洪水調節を行い、A郡川沿岸の既得用水の補給、B大村市、長崎市に対し、ダム取水基準点において水道用水として合計0.313m3/sの取水が可能となった。


『萱瀬ダム工事誌』
 堤体工の嵩上げ形成は、既設のダム軸と同軸とし、新堤体は既設堤体下流側に打ち継ぐ方法が採用された。その理由は、@地形・地質―既設ダム軸は尾根の突出部を結ぶ形となっており、付近の地形の中で最適と判断され、基礎地盤は十分な強度を有している。A施工中の貯水池使用−工事中の制限水位の設定により、利水機能は維持できる。また、仮排水路トンネル及びコンジットゲートにより、洪水調節機能を維持できる。B経済性−コンクリート量が少ないとする3点であった。

 また、嵩上げダムの基本三角形については、新中野ダム(北海道)、川上ダム(山口県)で検討された事例と同様に、萱瀬ダムにおいても、嵩上げダムの基礎岩盤応力の算定には「垣谷博士の公式」を採用。また剪断に対する安定は「Hennyの式」による剪断摩擦安全率の検討がなされた。

 このように長崎県においては、各地域でしばしばダムの再開発事業の施工が見られる。これからも益々全国的にダムの再開発事業が重要視されてくるであろう。このことを考えると、ダム竣工時には必ず工事誌は作成しておくべきであり、そしてダム関係資料も整理し、保管しておくことが大切である。




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