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11.小仁熊ダム(東条川)の建設

 小仁熊川は、長野県東筑摩郡本城村、坂北村に位置し、その源を大洞山(標高1315.9m)に発し、山間部を北西に流下し、坂北村里中地先で別所川に合流する流路延長 3.9km、流域面積 5.2km2の一級河川である。


『小仁熊ダム工事誌』

 一方、東条川はその源を御鷹山(標高1623m)に発し、北西に流下してJR篠ノ井線と交差したのち、北流し、麻績川に合流する流路延長12.0km、流域面積28.2km2の一級河川である。小仁熊ダムは小仁熊川の長野県東筑摩郡本城村富蔵地先に多目的ダムとして平成16年に完成した。このダムは東条川と小仁熊川の両河川を同時に管理する東条川総合開発事業の一環をなすものである。

 小仁熊ダムの調査から竣工までの全過程を記録した、長野県土木部松本建設事務所、奈良井川改良事務所編・発行『小仁熊ダム工事誌』(平成16年)がある。
 このダムの目的は、

洪水調節として、東条川では、分水堰地点の基本高水流量 185m3/sのうち67m3/sの洪水分水を行い、ダム地点では、計画高水流量 110m3/s(東条川からの導水量67m3/sを含む)のうち 101m3/sの洪水調節を行い、東条川及び小仁熊川沿川地域の水害を防ぐ。
・既得用水の安定化として、東条川及び小仁熊川沿川の本城村田屋地点下流の既得用水の補給と既得取水の安定化を図る。
・水道用水の確保として、本城村(人口約2300人)、坂北村(人口約2300人)に対し、ダム地点において、各々新たに最大 500m3/日の取水を可能とするものである。


 ダムの諸元は、堤高36.5m、堤頂長99m、総貯水容量 193万m3、型式重力式コンクリートダムである。施工者は佐藤工業(株)、株木建設(株)、吉川建設(株)共同企業体。事業費は 215億円を要した。

補償関係は、平成4年2月用地測量、立木調査を開始、平成5年3月用地補償基準確認書の調印式をむかえている。移転家屋2戸、用地取得面積39.9ha、付替道路として、村道西条別所線、富蔵沢線、西条小仁熊線、北原線、観音堂線、山林管理道、七ツ松線の計7線路総延長約5kmが施工され、住民の生活道路となっている。

 このダム施工の特徴について次の3つが挙げられる。

・前述のように、東条川と小仁熊川の両流域を小仁熊ダムによって洪水調節を図っている。このため東条川の横溢流堰により分水、道水路(開水路)、さらに導水路トンネルを新設し、小仁熊川に分流工を設けて疎水している。
・筑北地域は年間降水量1000mm程度の少雨地帯であり、11ケ所の大型砂防ダムは全て水溜りダムとなっている。上記のように分水しているため、揚水ポンプを設置して、この貯留水を不特定用水として還元している。
ダムサイトには、明治末から昭和30年代にかけて石炭が採掘されており、空洞によって一部湛水後の漏水経路となる可能性があることから、斜め坑トンネルを掘削し、コンクリートを充填することによって、カーテングラウトと合わせて止水対策を実施した。

 小仁熊ダム周辺は、JR篠ノ井線、長野自動車道(平成4年全線開通)国道 403号線が錯綜しており、交通が便利な地域である。そのため、本城、坂北両村は、松本市のベットタウンとして、村から住宅分譲の開発を行ったという経過がある。このようにしてみてくると、小仁熊ダムは、東条川、小仁熊川沿岸一帯の洪水を防ぎ、一方水不足に対応した一層重要なダム造りであったといえる。


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