[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]


14. 余地ダム(余地川)の建設

 余地川は、その源を群馬県との県境である余地峠付近(標高1269m)に発し、山間部を西流し、佐久町川久保地先(標高 756m)にて、千曲川の支川である抜井川に合流する流路延長 8.6km、流域面積11.8km2の一級河川である。
 余地川は余地地区を縦断している県道下仁田佐久線と並行して流下し、河床勾配は1/25〜1/50の急流河川である。


 余地ダムは、この余地川の長野県南佐久郡佐久町大字余地地先に多目的ダムとして平成16年に完成した。
 ダムの目的は

・ダム地点の計画高水流量20m3/sのうち、10m3/sの洪水調節を行う
・河川維持流量の確保、既得取水の安定化として、必要な流量0.07m3/sを流す。
・佐久町(人口約8800人)に対し、ダム地点において新たに 330m3/日の水道水源を確保するものである。


『余地ダム工事誌』

 余地ダムの諸元は、堤高42m、堤頂長 147m、総貯水容量52.3万m3、型式重力式コンクリートダムである。施工者は、鹿島建設(株)、(株)大本組、(株)守谷商会共同企業体、事業費は91億円を要した。なお、補償関係は、移転家屋はなく、用地取得面積は 7.4haとなっている。

 長野県土木部臼田建設事務所編・発行『余地ダム工事誌』(平成17年)に、余地ダムの技術的特色について、山越忠義臼田建設事務所長は次の点を挙げている。

【 1点目は、設計構造面の中でダムと一緒に、地中連続壁基礎工と箱型地中連続壁基礎工を施工しております。余地ダム右岸部には、古い余地川の河床谷を埋めて堆積した、高い透水性を持つ古期礫岩層があるため、確実な止水を図るために地中にコンクリートの壁を構築(地中連続壁)した止水構造物です。また、この古期礫岩層はコンクリートダムの安定に必要な強度が期待できないため、地中連続壁を用いて箱型の連続した人工基礎を堅岩部に着岩させ、その上にダムを乗せています。(図参照)
 2点目は環境面ですが、貯水池に群生していたカタクリやヤマブキ草を地元関係者の皆さんの協力を得て移植を行い、また周辺の環境整備については、貯水池内から発生した伐採木をチップ化し、舗装・マルチング等に再利用を行った点です。】


 このように、地質が古期礫層のあるため、止水構造物に苦労を重ね、なお、河川環境を考慮し、コストの縮減がみられた。
 余地ダムは、地元住民から抜本的な治水対策と新たな水源の確保に対応したダム造りで、地域の憩いの場、学習の場に親しまれている。


15. 金原ダム(金原川)の建設

 金原川は、その源を烏帽子岳(標高2065.6m)に発し、山間部を南西方向に流れ千曲川に分流する流路延長 5.6km、流域面積8.25km2の一級河川である。

 金原ダムは、この金原川の長野県小県郡東部町和地先に多目的ダムとして平成11年に完成した。
 ダムの目的は、

・ダム地点の計画高水流量15m3/sのうち、12.5m3/sの洪水調節を行う。
・ダム地点下流の金原川沿川の既得用水の補給を行う。
・東部町(人口約2万6000人)に対し、ダム地点において水道用水として新たに1000m3/日(0.0116m3/s)の取水を可能ならしめるものである。

 金原ダムの諸元は、堤高36.5m、堤頂長 224m、総貯水容量38.8万m3。型式は傾斜コアロックフィルダムである。施工者は(株)大林組、東急建設(株)、東信土建(株)、事業費 130億円を要した。

 このダム建設に伴う12年の歳月とデーターを収集し、調査から完成まで記録した、長野県上田市建設事務所編『金原ダム工事誌』(長野県・平成13年)の書がある。この書のなかで、荻原敬三上田建設事務所長は、金原ダムの技術上の特色について、


『金原ダム工事誌』
【 一つは、金原川は急流であるため地形上の制約から、所定の貯水容量を確保するため貯水池を掘削しています。二つは、本体掘削、貯水池掘削等で発生した土石をふるい分けし、堤体盛立材料に利用し、コスト縮減を図っています。
 三つ目は、基盤岩の安山岩溶岩及び安山自破砕溶岩の透水性の改良を通常のグラウチングで行うことが難しいため、貯水池の全面土質によるブランケットを行い止水しています。このためダム本体のコアゾーンはブランケットに接続しやすいように、貯水池側へ傾斜させた傾斜コア型ロックフィルダムとなっています。】

 と、述べている。
 ダム造りの苦労は、ダムサイトの地形、地質に大きな影響を受けることがわかる。



 金原ダムは、建設省がすすめる昭和63年度の新事業となった小規模生活ダムにおける第一期全国9ダムの一つとして、12年の歳月をかけて竣工した。東部町では、上水道水源の約8割を地下水に依存しているが、地下水の汚染等による一部水源の廃止や人口の増加、下水道の供用開始による上水道使用量の増加に対応するためのダムでもあった。このように金原ダムは治水、利水の問題の解決を図るとともに、東部町の日常生活と密接につながったダム造りとなった。

[前ページ] [次ページ] [目次に戻る]
[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]