10.二庄内ダム(岩木川水系浅瀬石川支流二庄内川)の建設
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二庄内ダムは農林水産省施行における浅瀬石川水利事業における基幹施設である。この水利事業の対象地域は青森県西部に広がるほぼ中央部に位置し、岩木川、十川、平川に囲まれた地域で農業用水主水源は岩木川水系浅瀬石川、十川であるが、津軽平野の中で最も用水不足が著しい地域である。
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『二庄内ダム−技術誌』 |
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このため、大穴ダム(昭和8年完成)、頭首工等を築造して用水対策を努めてきたが、これら水利施設の老朽化が進み、地域全体としての水利計画を再検討することとなり、二庄内ダムを築造し、頭首工、揚排水機場、基幹用排水路等の新設、改修を実施することとなった。
平成7年二庄内ダムは黒石市大字二庄内字要目地先に完成した。 農業農村整備総合センター編『二庄内ダム−技術誌』(東北農政局浅瀬石川農業水利事業所・平成8年)によると、このダムの諸元は堤高86m、堤頂長430.8m、堤体積344.6万m3、有効貯水容量1500万m3、総貯水容量560万m3、型式は中心遮水ゾーン型ロックフィルダムである。起業者は農林水産省、施工者は間組、佐藤工業、竹中土木共同企業体、事業費は462.2億円を要した。
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二庄内ダムの設計、施工の特徴について、次のことが挙げられている。
・ダム築堤材料は、穴水沢地区原石山1ケ所において遮水性材料、ロックトランシジョン材料を採取する計画としたため、かなり繁雑な施行を余儀なくされたが、適切な材料採取と施工管理を目的としたストックヤードを計画し、これに対応した。
・大規模なロックフィルダムであることから、フィルターゾーンは浸透破壊に対する安全性の確保を重視し、精選された材料による2層構造とした。
・二庄内ダムは2本沢を有し、流域も比較的大きかったこと、また試験湛水直前の閉塞工事に関する合理的な施工を勘案した結果、2条の仮排水トンネルによる転流計画となった。
・洪水吐急流水路区間の基礎掘削段階で、基礎地盤に弱層部が部分的に確認されたため、水路基礎部に基盤コンクリート桁等を施工し、安全性を確保した。 ・基礎処理グラウトの孔配置、圧力等は軟質岩の基礎特性を考慮し、低圧グラウト等施工上柔軟に対応した。
このように二庄内ダムの施工には様々な高度な技術をなされているが、完成までには、物価の高騰、台風、地震など、予期せぬ状況に遭遇した。とくに、試験湛水時平成6年10月4日震度3(北海道東方沖地震M8.1)、12月8日震度4(三陸はるか沖地震M7.5)、7年1月7日震度3(三陸はるか沖地震の余震)の3回も見舞われたが、堤体には異常はなく、7年10月3日試験湛水は無事に終了した。
この『工事誌』のなかで間組の及川善則氏は、ダムの景観について、
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「二庄内ダムは青荷温泉に向かう林道から真正面に見ることができる。八甲田山の山並みを背にダムが周囲の自然に溶け込む景色はまさしく絶景である。あるとき、現場見学にきた女性がそのダムの勇姿を見ながら”このダムは模様が入っていてすてきですね”と言うのである。堤体下流面の仕上げに使用した安山岩のロック材の色が微妙に違い横に線が入っているように見えるのである。私たち関係者の間では技術的な部分も含め種々の見方があったが、”すてきですね”の一言は全ての議論を包み込むような響きがあった。その”模様”を見ると築堤材料採取時のいろいろなことが思い出される。」
と回想している。
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技術者によるダム造りに係わる真摯な対応が、ダムの景観美を創り出したといえるだろう。全ての土木構造物には美が備わっていなければならない。即ち、用強美の土木構造物が要請される時代だ。
山桜 しずかに浸す 貯水かな (田代 信雄)
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