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9.早瀬野ダム(岩木川水系平川支流虹貝川)の建設

 農林水産省施行平川農業水利事業の地区は、青森県の南西津軽平野のほぼ中央に位置し、弘前市外1市5町1村に跨がる受益地5,700haの地域で、平川沿岸域(上流部)、岩木川中央右岸域(下流部)とに二分されている。上流部は扇状地形を呈し、下流部は岩木川の自然堤防と後背湿地で、傾斜は1/100〜1/1000が大半を占め、標高は最高90m(上流部)最低3m(下流部)の低地である。

 この地域の用水は、岩木川水系の平川、大和沢川、三ツ目内川、びわ田川、浅瀬石川を主水源としているが、いずれも流域が小さいため河川流量の不足から、地下水利用及び排水の堰上げによる反復利用を行っていた。しかし、絶対量の不足から深刻な用水不足を来たし、また、排水を用排兼用による反復かんがいとしているため、水田は常に湿田又は半湿田の状態にあり、排水路は水路断面の狭小不整形から排水能力が不足しているために、しばしば湛水被害を生じた。

 これらの問題を解決すべく、平川農業水利事業は計画されたものである。即ち平川の支流虹貝川の上流に早瀬野ダムを新設して不足水量を確保し、河川利用水の取水施設として、虹貝、三ツ目内、大和沢、びわ田、五所川原の5頭首工を新設又は改造し、幹線用水路50.5km(9系統)幹線排水路6.2km(2系統)をそれぞれ新設又は改修し、揚、排水機場を各1ケ所設置した。平川農業水利事業の基幹施設早瀬野ダムは、南津軽郡大鰐町早瀬野地内に位置し、昭和60年3月に完成した。

 このダム建設記録については、東北建設コンサルタント編『平川事業誌』(農林水産省東北農政局平川農業水利事業所・平成元年)、大成建設株式会社東北支店早瀬野ダム作業所編・発行『早瀬野ダム工事誌』(昭和60年)がある。この『工事誌』によると、ダムの諸元は堤高56m、堤頂長285.88m、堤体積135万m3、有効貯水容量1300万m3、総貯水容量1350万m3、型式は表面遮水を有する中心コアロックフィルダムである。起業者は農水省、施工者は大成建設。事業費は453.3億円、工期昭和43年〜60年を要している。

『平川事業誌』

『早瀬野ダム工事誌』

(撮影:北国のNAGO)
 この早瀬野ダムの工事は、昭和45年7月右岸付替林道工事開始、47年10月仮排水路トンネル工事を開始し、48年7月に竣工、虹貝川の転流を行った。48年8月ダム本体工事に着手し、以来10年有余年の歳月を経て、59年10月ダム完成検査に合格し、仮排水トンネル閉塞工事を行って、60年3月20日早瀬野ダムが完成した。

 ややもすればダム工事においては、技術的に困難な壁にぶつかることがある。早瀬野ダムでは、堤体盛立材料に起因する水質問題が生じた。このため堤体盛立工事は約2年間、中断を余儀なくせざるを得なかった、という。
 この水質問題を『工事誌』から追ってみたい。

『 早瀬野ダムは堤高56m、堤体積135万m3の中心コアー型ロックフィルダムで、昭和50年7月から築堤を進めてきたが、約51万m3盛立後の昭和52年4月の融雪期に、ダム下流左岸側に設けた洪水吐減勢池の貯水が赤色に変色するとともに、ドレーンからの浸透水は強酸性を示した。また、ダム上流の原石山から下流の虹貝川の水質も漸時酸性化が進行し、鉄・マンガンなどの金属の溶解も次第に顕著となってきた。そのため昭和52年9月に早瀬野ダム環境対策検討会を設置し、協議を重ねた。
 その対策として、硫化鉱物の酸化反応を抑制すること、すなわち負荷源となる鉱物と空気・水との接触を極力少なくすることが水質対策の基本条件である。
 このため、第1原石山の被覆、池敷内に散在した残土の整理・被覆、堤体周辺の遮水工などの対策工が遂次実施され、58年度には堤体上下流法面アスファルト被覆工(フェーシング)が完了し、59年度には堤体天端舗装も完了した。ダム上流側では58年度から60年度にかけて、砥沢暗渠改修・河川改修及び原石山整備工事が実施されている。又、60年度には、池敷内にある旧廃坑のうち必要なものの閉塞が行われている。
 なお、堤体浸出水は53年以来、中和プラントで処理されている。』

 これらの対策により、当初は、原石山や残土などから侵出した水は、鉄イオン濃度が高く、直接河川に流入していたため加水分解反応により河床を着色する現象がみられたが、被覆効果により鉄イオンの溶出量が少なくなり、そのため河川中水の鉄イオンの濃度は著しく減少し、河床の赤褐色化は見られなくなり、平常の河川状態に回復。河川中のマンガン、亜鉛濃度も年々減少し、PHは上昇している。下流利水への影響についても水稲生育比較團場試験、下流地区井戸水調査などを実施したが。虹貝川の水質の影響はいずれも認められなかった。

 早瀬野ダムで開発された農業用水最大取水量7.45m3/Sは、虹貝頭首工、第一統合頭首工、幹線用水路などを通じ、受益面積5700haの田畑を潤している。その内訳は、弘前市1396ha、五所川原市1147ha、大鰐町104ha、尾上町171ha、平賀町1291ha、田舎館村74ha、板柳町386ha、鶴田町1131haである。

 このように早瀬野ダムは、今日津軽平野における米やりんごなどの農業生産の発展に大いに寄与している。


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