[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]


17.月山ダム(赤川水系梵字川)の建設

 梵字川は、朝日山系の北寒江山(標高1695m)に源を発し、月山(標高1980m)から流れる田麦川と合流したあと、朝日村落合で赤川と合流する流路延長38km、流域面積290km2の河川である。

 赤川には、昭和31年荒沢ダムが建設され、洪水対策が進められてきたが、昭和44年8月、46年7月、56年6月の集中豪雨で川内川等が氾濫し、被害が生じた。さらに昭和62年8月には横山観測所では最高水位7.75mに達し、三川町等に被害を及ぼした。平成に入ってからも警戒水位を越えた洪水が20回を数えている。

 この洪水対策を大幅に強化しようと計画されたのが赤川の最上支流梵字川の月山ダムの建設であった。一方、庄内南部地域鶴岡市、立川町、余目町、藤島町、羽黒町、櫛引町、三川町、朝日村に水需要が増え続け、月山ダムはこの庄内広域水道用水供給事業の水源としても機能することとなった。

 月山ダムは、梵字川の山形県東田川郡朝日村上名川、大綱地点に平成13年10月に完成した。

 このダム建設を記録した東北建設協会編『月山ダム工事誌』(月山ダム工事事務所・平成14年)、同『月山ダム写真集』(平成14年)により、経過、目的、諸元、特徴を見てみたい。

『月山ダム工事誌』

『月山ダム写真集』

(撮影:灰エース)
昭和48年 4月 予備調査開始
  56年 4月 赤川ダム工事事務所開設
  57年 4月 月山ダム工事事務所と改称
  58年 1月 一般補償協定調印
  63年 6月 猿子渡橋竣工
      8月 仮排水路トンネル貫通
     10月 月山ダム本体着工
平成 元年12月 付替国道112号朝日第1トンネル完成
   2年 8月 付替国道112号朝日第2トンネル完成
   4年 9月 堤体基礎掘削完了
   5年10月 堤体コンクリート打設
   6年10月 月山ダム定礎式
  11年 9月 堤体コンクリート打設完了
  12年10月 試験湛水開始
  13年10月 月山ダム竣工式

 ダム完成まで28年の歳月が流れた。

 月山ダムは4つの目的をもった多目的ダムである。

◇月山ダム地点の計画高水流量2900m3/Sのうち1900m3/Sを貯留し、1000m3/Sを放流することによって赤川沿川の洪水を減災する。

◇ダムの貯留水でもって下流の梵字川や赤川の流れを回復し、河川環境を守り庄内南部地域の穀倉地帯に対し、灌漑用水を補給する。

◇山形県は、庄内南部地域1市6町1村(鶴岡市、余目町。三川町、立川町、藤島町、羽黒町、櫛引町、朝日村)に広域水道事業を設立し、月山ダムから最大118000m3/日の水道用水を確保、取水を可能とする。

◇発電は、東北電力がダム直下に月山発電所を新設し、最大出力8800kw(年間発生発電量36000MWH)の発電を行う。

 ダムの諸元は、堤高123m、堤頂長393m、堤体積116万m3、総貯水容量6500万m3、有効貯水容量5800万m3、型式重力式コンクリートダムである。起業者は国土交通省、施工者は西松建設・大林組・鉄建共同企業体、事業費は1780億円を要した。建設費負担率は河川90.9%、水道7.4%、発電1.7%となっている。

 主なる補償関係は、水没4戸(非住家)、土地取得面積191.92ha、赤川漁業協同組合に対する漁業補償であった。

 昭和58年11月「月山ダム建設事業に伴う一般補償に関する協定」が調印されているが、斎藤三郎月山ダム対策同盟会会長と村井宏一東北地方建設局長の力強い握手は、信頼の絆に結ばれた美しい光景である。

 月山ダムの特徴について、『月山ダム写真集』のなかで次のように記されている。

「月山ダムは、冬期の約4カ月間はコンクリート打設ができないため、迅速で安全な施工ができるRCD工法と、ベルトコンベアによるコンクリート運搬システムを組み合わせて、工期短縮を図った。RCD工法やベルトコンベアシステムは他のダム工事でも採用されているが超硬練りのRCD用コンクリートを月山方式のベルトコンベアで運ぶには日射や外気温による品質への悪影響という心配があったが、試験施工を何度も繰り返してこれらの課題を克服し、全国的に注目される施工法となった。」

 月山ダム貯水池周辺は、上流部が磐梯朝日国立公園の特別地域に指定されていることから、のり面の緑化に在来種の植栽を行い、貯水池の水位変動域には水に強い柳を、また原石山緑地にはブナの苗木が植えられた。さらに、貯水池周辺には1000本を越える大山桜も植樹され、自然環境との調和が図られている。

 ダム建設には5つの立場にたたされる。

◇ダムを造られる側 即ち水没地権者・関係者
◇ダムを造る側 即ち起業者・施工者
◇ダムを造られる地域の人 即ち市町村の行政、諸団体の関係者
◇それ以外の人たち
◇そして、ダム建設で影響をうける動植物・魚族

に、分けられる。

 この月山ダム建設のプロセスにおいて、これら5つの立場について、16年間にわたって取材した、水戸部浩子著『月山ダム物語(上)』(みちのく書房・平成12年)、同『月山ダム物語(下)』(みちのく書房・平成13年)の書には敬服せざるを得ない。巨大な無機物であるダム造りのプロセスには、人間の生きざまを描き出す。優秀な技術を持ったダム男が、働き通しで、家にはなかなか帰れない。その間、奥さんが愛人の子を孕んでしまう。男は「それはダムの子だ、ダムが授けたおれの子だ」と。そして男の子が生まれ、2年後男はガンで倒れた。「ダムの子を大事に育ててくれ、願わくはおれの骨をどうかダム底へ沈めてくれ」、上司はコンクリートにこっそり骨を塗り込み、男の願望を叶えてやったという。この書はこのようなダムの男の話から始まる。

『月山ダム物語(上)』

『月山ダム物語(下)』

『すごいね、月山ダム』
 さらに、ダム工事事務所長はほとんど40代であろう。単身赴任が多い。単身赴任の心境が次のように描かれている。

「彼はお客や友人と外で食事する以外は決して外食はしない。何か一人で食べている図って哀れっぽいでしょ。レストランとかお店って家族連れが多いですね。何か見られているようで」
「ワイシャツのアイロンかけまで我が手でやってのけるタイプから、2年間の単身赴任中に一度も寝床をあげなかった昆虫派までいる」

 また、ダム建設に係わる、屋台「どんぐり」の石田ユキさん、ダム事業推進の鶴岡市長白井重麿さんと朝日村村長上野源治さん、庄内弁で話すやさしい寮母さん、工事課長八巻基次さん、用地補償の調整役朝日村建設課長安達重芳さん、西松・大林・鉄建共同企業体所長井畑敏昭さん、鹿島・不動建設宿舎食堂の竹田ツタノさんと清野敏さん、彫刻家加藤豊さん、土木技術者の心を用強美プラス和と説く東北地方建設局長青山俊樹さん、女性オペレター、メモリーストーンの朝日小学校斎藤浩平君のことなど様々な人間を模様を敬意をもって捉えている。

 著者の水戸部浩子さんは、ダム建設に関わる人と物と心が織りなすところに物語が必ず成立する、それを描きたかったという。それは16年間の取材によって見事に結実した記録文学だ。

 おわりに、月山ダムと朝日村編集委員会編『すごいね、月山ダム』(月山ダム工事事務所・平成3年)の児童書を掲げる。


[前ページ] [次ページ] [目次に戻る]
[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]