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9.片倉ダム(小櫃川水系笹川)の建設

 小櫃川の左支川笹川は清澄山系にその源を発し、渓谷を流下、君津市大字笹地先で昭和56年に完成した亀山ダム(有効貯水容量1 335万m3)に流入する流路延長22.6qの二級河川である。

 小櫃川、笹川流域は内陸性の気候で多雨地帯であって、年平均降雨量2 100o前後、中流域では1 900o程である。昭和45年6月30日〜7月2日にかけての関東地方南部の大雨では流域内最高426oを記録し、平成元年7月31日、8年9月22日も豪雨により被害を受けた。旱魃による被害も昭和42年、56年、60年、平成2年、6年、8年に起こっている。

 小櫃川下流域では、東京湾横断道路整備、上総新開発研究都市開発によって、沿川にも住宅が密集し都市化が進み、さらに、東京湾臨海部の工業地帯の形成、東京への通勤圏の拡大による人口増となり、水需要が益々増大した。

 このような背景のもとに、片倉ダムは小櫃川の上流、君津市大字笹字川向(右岸)、同市大字笹字片倉(左岸)の小櫃川左支川笹川に平成12年に完成した。

 この建設記録について、千葉県編・発行「片倉ダム工事誌」(平成14年)がある。この書によりダムの建設経過、目的、諸元、特徴を追ってみたい。


「片倉ダム工事誌」

(撮影:安部塁)
 ダムの建設経過は次のとおりである。

 昭和36年度〜48年度まで千葉県単独費で地形測量、地質調査を行う。49年度から国庫補助の河川総合開発事業として採択され、実施計画調査。平成2年度に建設事業として採択された。片倉ダム建設対策委員会が発足する。測量等現地立入を対策委員会が了承する。5年度事業用地の補償基準妥結。6年度本体工事着手。7年度堤外仮排水路への転流完了し、ダム本体コンクリート打設開始。9年度ダム本体打設完了。12年度貯水池工事完了し、試験湛水。14年度君津広域水道企業団が最大157 849m3/日の取水開始。ダム完成まで建設事業の採択から紆余曲折のすえ12年の歳月を経た。

 片倉ダムは3つの目的を持っている。

(1)洪水調節は、年間を通じて標高125.60mから標高119.80mの間の容量323万m3を利用して、ダムサイトにおける計画高水流量670m3/sのうち280m3/sを調節する。

(2)下流既得用水の補給等流水の正常な機能の維持をはかるため、標高119.80mから標高111.50mのうち35万m3を利用して補給する。

(3)千葉県営水道の一部並びに木更津市、君津市、富津市、袖ケ浦市に対して水道用水として、標高119.80mから標高111.50mのうち296万m3を利用して最大48 300m3/日(0.56m3/s)の取水を可能ならしめる。

 有効貯水量は654万m3として、これに流域の状況等を考慮して、比堆砂量は1 000m3/km2/年として、堆砂容量187万m3を確保して、総貯水容量は841万m3となっている。

 次にダムの諸元は堤高42.7m、堤頂長154m、堤体積7.4万m3、総貯水容量841万m3、有効貯水容量654万m3、型式重力式コンクリートダムである。起業者は千葉県、施工者は熊谷組、東急建設、東亜建設工業共同企業体で事業費は、196億円を要した。費用割振は河川51.6%、水道48.4%となっている。

 主なる補償は土地取得面積71.48ha、水没家屋1戸、公共補償として林野庁所管国有保安林、建設省所管国有保安林、特殊補償として、小櫃川漁業組合に対し、漁業補償を行った。補償工事は、付替道路施工延長8 476m、付替橋梁橋長339mを行い、また農業用水路として、ヅウタ用水、笹用水、片倉用水、利根・大中用水、清水用水の補償がなされた。

 片倉ダムの施工の特徴については、建設工期の短縮と経済性を追求したレヤー工法が採用された。即ちレヤー工法(継ぎ目を設けない打設)で、75 800m3のうち61 300m3を打設、残りの14 500m3を拡張レヤー工法(2−3ブロックを同時に打設)でおこなった。

 ダム周辺環境整備事業は、ダム記念館をはじめ、ヅウタ親水公園、宮ノ下ピクニック園地、ボート乗り場、笹・衛士広場、片倉せせらぎ広場、展望台などが設置された。その管理は、地元自治会等で運営されている。

 なお、この工事誌には、付録として建設に係わるあらゆる協定書、補償協定書、特記仕様書等も掲載されており、ダム建設のプロセスについて一目瞭然として理解できる。


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