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12.保台ダム(待崎川)の建設

 待崎川は、その源を鴨川市北部の山地に発し、上流端は鴨川市小宮・花房地域を流下し、鴨川市横渚で太平洋に流出する。流路延長2.4q、流域面積19.4km2の二級河川である。

 東条地区は千葉県南東部に位置する待崎川下流に展開する水田地帯であり、その用水は待崎川よりの自然取水と溜め池及び40ケ所にわたる地下水に依存しているが、各施設が老朽化し、用水系統も未整備であるため、円滑な水利用ができず慢性的な用水不足をきたし、また一部水源を持たない地区もある。さらに耕地は土地基盤が未整備であり、安定した農業経営の大きな障害となっている。また鴨川市の水道事業は近年生活水準の向上、さらには観光・保養客の増加により水需要も急増し、安定的な水源の確保が最大の課題となっていた。

 この2つの課題を解消するために、保台ダムは待崎川における千葉県鴨川市大字和泉字西保台(右岸)、同字東保台(左岸)地先に平成10年に完成した。

 このダムの建設記録について、タイム技術サービス編「保台ダム工事技術誌(建設編)」(千葉県館山土地改良事務所鴨川支所・平成13年)、同「保台ダム工事技術誌(観測編)」(同)がある。

(撮影:加藤敦)

「保台ダム工事技術誌(建設編)」

「保台ダム工事技術誌(観測編)」
 この書から保台ダムの目的、諸元、特徴を追ってみたい。

 このダム事業は千葉県かんがい排水事業として他の関連事業(東条地区のほ場整備事業251ha)と併せて東条地区の農業基盤整備を図るとともに、鴨川市水道事業の第4次拡張計画により上水道を確保する2つの目的を持つ。

(1)鴨川市東条地域(和泉、広場、東町、西町)の水田、畑、計240haの農地にかんがい用水最大0.460m3/sを確保する。

(2)鴨川市の給水対象人口3万人に対し 、最大16 500m3/日の水道用水のうち、保台ダムから最大5 600m3/日(0.065m3/s)の給水を可能にする。

 ダムの諸元は堤高41m、堤頂長198m、堤体積10.3万m3、総貯水容量274万m3、有効貯水容量254万m3、型式重力式コンクリートダムである。また、導水路として管部(FRPM管 600)延長1 820mとトンネル部(円孤ほろ型R=0.9m)延長891m、計2 711mとなっている。

 起業者は千葉県、施工者は清水建設である。事業費は128.2億円を要し、費用割振は農業用水71%、上水29%となっている。

 保台ダムは、昭和54年に県単で予備調査を開始、57年県営かんがい排水事業「東条地区」事業計画策定した。その後の建設経緯は次の通りである。

昭和59年 6月 第1回保台ダム検討委員会
  60年 4月 全体実施設計承認・着工採択
     6月 保台ダム建設工事(協同事
        業)に関する基本協定書の
        締結
  61年 6月 第2回保台ダム検討委員会
  62年 3月 用地国債による用地取得(
         32.9ha)
  63年 8月 第3回保台ダム検討委員会
     10月 第4回保台ダム検討委員会
平成 2年3月 ダム建設工事の着工
     9月 第1次転流
   3年9月 第5回保台ダム検討委員会
     10月 堤体コンクリート初打設 
   4年5月 ダム定礎式
     9月 第2次転流
   6年3月 堤体コンクリート打設完了
   8年11月 試験湛水開始
   10年10月 ダム完成
     11月 第6回保台ダム検討委員会

 なお、保台ダム検討委員会は、完成まで6回開催されており、この書にはその検討項目及び事業所の処理、それに係る調査、試験等の内容、そして、委員会の検討結果を詳細に記してある。

 次のように検討項目のみ挙げてみる。

  ・基礎掘削
  ・岩盤設計強度
  ・岩石自体の透水係数
  ・被圧地下水のメカニズム
  ・堤体及び基礎のFEM解析
  ・河床部破砕帯の処理
  ・カーテングラウト  ・転流方式
  ・CL級岩盤のセン断強度
  ・堤体基本断面の変更について
  ・左右岸袖部止水処理計画について
  ・観測計器配置計画について
  ・マット工法との比較について
  ・堤体下流部基盤内の引張応力について
  ・基礎岩盤の評価  ・湧水の処理
  ・応力解析結果についての検討
  ・施工管理結果の報告
  ・試験湛水の結果報告
  ・今後の管理方針。

 この他にもダムが完成するまで、事業所内の補償、測量、調査、技術、安全管理等様々な打ち合わせがなされた。ダム造りはこの打ち合わせの積み重ねによってダムがその輪郭を表してくるが、保台ダムは、昭和54年の予備調査開始以来、平成10年の完成まで19年間の歳月を経ている。


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