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◇ 2. 沖縄のエコダム宣言

 沖縄北部地域は山地を覆うイタジイの森が形成され、ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、オキナワトゲネズミ、ケナガネズミ、イシカワガエル等貴重な動物の宝庫として沖縄特有の生態系の特徴を持っている。また河川をみてみると流域面積は狭く、延長も短く、流量も不安定な小河川が大半を占める。このような河川に、水害や渇水に悩まされる沖縄県では15基程のダムが建設されている。例えば、漢那福地川は延長3.5q、流域面積9km2に過ぎないが、ここに多目的ダム漢那ダムが平成5年に完成した。諸元は、堤高45m、堤頂長186m、堤体積7.2万m3、総貯水容量820万m3、型式重力式コンクリートダムである。漢那ダムによって漢那福地川全延長の約4割(1.7q)が湖底に沈み、生態系に様々な影響を及ぼすことになった。


 沖縄総合事務所編「エコダム宣言−生態系保全時代」(沖縄弘済会・平成9年)によると、ダムは必然的に豊かな生態系を持つ「エコダム」でなければならないと主張し、次のように取り組んだ。

(1)事前に環境アセスメントを行い、ダム建設後の追跡調査を実施する。
(2)関連施設のルートの位置は、生態系に最大限に配慮して選定する。
 @両岸の環境改変を少なくするため貯水池に橋を連続させて通すルートとする。
 Aコンクリート骨材、ロック材などの堤体材料の採取を行い(漢那ダム)、良質な岩が必要なリップラップ材などは購入材の活用を図り(倉敷ダム)、残土は牧草地造成に利用する。(普久川ダム)
(3)動植物の生息環境の改変を最小限にする設計・構造・工法を採用する
 @道路について、尾根部では縦断線形を上げたりトンネル構造を採用し切土面積を小さくする。沢部や湿地では橋梁構造として渓流・湿地環境を保全する。
 A堤体材料採取時及び堤体基礎掘削時の仮置き・埋戻しにより、残土の発生量を抑える。ロックフィル構造ダムではゾーニング設計を採用し、廃棄する岩を減らす。


「エコダム宣言−生態系保全時代」
 B試験湛水中は、流入河川の水位を仮堰と排水ポンプを設けて常時満水位以下に保ち、沢部の樹林を可能な限り保存する。
 C工事用の仮設進入路は、出来る限り少なくし、止むを得ない場合は出来る限り水没予定地内を通す。
(4)一時的に環境を改変する箇所は生態系の早期回復をはかる。
 @道路法面などの裸地は、在来種の苗木植栽播種により、早期緑化を図り、元の植生の回復を促すため、自然の種子が含まれている現地の表土を客土材として使用する。(大保ダム)
 A沢部の工事用仮設進入路はシートを敷いた上に施工し、工事終了後の撤去、並びに渓流環境の復興を図る。(羽地ダム)
 B工事用プラントなどの仮設ヤードは、舗装の撤去、苗木植栽によって森林に戻す。(漢那ダム)
(5)恒久的な改変となる場合は、個々に影響緩和策を採用する。
 @生息・生育の場が失われる動植物については、流域内の同様な環境に移動、移植を行い、固体数の少ない種や移植の難しい種は温室内での増殖や保存を行う。
 例えば、ツルランを工事予定区域内外に移植、マングローブ林の復元、伐採した木などを周囲の森に積み上げ昆虫や小動物の棲み処(シェルター)の設置、コウモリの生息場所の代替として残土処理地に代替洞窟の設置、ノグチゲラの営巣木が失われる場合、周辺の林内に人工営巣木の設置等を行った。
 A生息域の分断による場合、魚道などの設置により緩和等を採用する。そのためにエビ・カニ・ハゼのスロープ(魚道)の設置、ボックスカルバートによる沢の連続性の確保、小動物が横断できる側溝、側溝は小動物が落ちても自力ではい上がれる形状、コウモリ用横断地下道、小動物が迷い込まないように工事現場での仮囲いの設置、在来種生存を脅かす外敵捕獲などを行った。
(6)様々な生物が棲める新たな環境施設を設置する。
 @貯水池の入り江状のところに堰を設け、湿地帯をつくり、トンボや水生生物の棲みつくビオトープを造る。
 A魚道の途中に設けた池、湖面上に水鳥の餌場となる人工浮島、綱場(流木止)の緑化を図る。
 B残土処分跡地の渓流ビオトープ、下流河道のビオトープの設置による生態系の環境を整備する。

 さらに、この書はエコダム対策として、ダムを自然と人との良き出合いの場と位置づけ、自然を身近に体験し学習する資料館、森をめぐるエコツアーの出発、帰還できるベース(基地)の整備を挙げている。そして、それらのダムにおける生態系保全対策の効果をあげるためにノグチゲラの生態実態調査などをはじめ、動植物の調査、研究を進め、学識経験者の助言を受け、情報公開を行うこととしている。



 羽地ダムは、平成16年沖縄県名護市羽地字川北地点に完成した。その諸元は堤高66.5m、堤頂長198m、堤体積105万m3、総貯水容量1 980万m3、型式ロックフィルダムで、洪水調節河川維持用水、灌漑用水、水道用水の供給がなされている。

 ダム事業実施にあたって、羽地大川流域の生物環境の保全を図り、ダム事業と自然環境のよりよい調和をめざし、昭和62年度〜平成5年度に実施した動植物等の分布状況について、沖縄総合事務局北部ダム事務所編・発行「羽地大川生物環境調査データ」(平成7年)がある。

 羽地大川の水源地は名護市中部の名護岳東麓・大股山に発し、名護市羽地付近で羽地内海(東シナ海)に流出する延長5q、流域面積14.9km2の二級河川である。


「羽地大川生物環境調査データ」
 羽地ダム建設予定地点を中心に、陸上植物(マツバラン、ヒメサギゴケなど)、付着藻類(ネンジュモ、カエトフォラなど)、哺乳類(ワタセジネズミ、オキナワコキクガシラコウモリなど)、鳥類(チュウサギ、リュウキュウツミなど)、爬虫類(ミナミヤモリ、クロイワトカゲモドキなど)、両生類(イボイモリ、イシカワガエルなど)、魚類(タイワンキンギョ、アオバラヨシノボリなど)、陸上昆虫類(リュウキュウルリモントンボ、コノハチョウなど)、水生昆虫類(オキナワオナシカワゲラ、カラスヤンマなど)、甲殻類(オキナワヒライソガニ、アラモトサワガニなど)、陸生貝類(クニガミゴマガイ、アフリカマイマイなど)、水生貝類(フネアマガイ、カワニナなど)、動物プランクトン(肉質虫、繊毛虫など)、植物プランクトン(珪藻類、藍藻類など)が調査され、その調査位置が図で示されており、これらの中には貴重な動植物も含まれ、その分布状況がわかる。



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