[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]


9.青蓮寺ダム(青蓮寺川)の建設

 青蓮川は、その源を伊賀、伊勢の国境を占める高見山山系の連峰から発し、北流して名張盆地において左右より宇陀川、比奈知川を分流して名張川となる。

 青蓮寺ダムは、昭和37年8月「淀川水系の水資源開発計画」に基づき、治水と近畿圏の水需要に対処するために、名張川合流点により約2kmの地点、右岸三重県名張市中知山字下ン田、左岸三重県名張市青蓮寺字ガオヤの地点に昭和45年に建設された。水資源開発公団青蓮寺ダム建設所編・発行『青蓮寺ダム工事誌』(昭和45年)によると、青蓮寺ダムは次の5つの目的を持っている。


『青蓮寺ダム工事誌』
・ダム地点における計画高水流量1100m3/sのうち 650m3/sを貯め 450m3/sをダムから放流する。
・名張地区の既成農地( 125ha)の既得用水として、半旬平均で最大1.66m3/s及び木津川沿岸の既成農地(3300ha)の既得用水として、高山ダムから補給する量と合わせて、12m3/sを確保するため、最大 1.3m3/sを補給するとともに、下流の河川環境保全のための流量を確保する。
・阪神地区の水道用水として 2.3m3/s、名張市の水道用水0.19m3/sを供給する。
・名張地区の農業用水として、最大1.86m3/sを供給する。
・三重県企業庁が新設した青蓮寺発電所で、最大出力2000KWの発電を行う。



 ダムの諸元は、堤高82m、堤頂長 275m、総貯水容量2720万m3、有効貯水容量2380万m3、型式アーチ式コンクリートダム。起業者は水資源開発公団(現・水資源機構)、施工者は飛島建設(株)、事業費は73.7億円を要した。なお、補償関係は、用地取得面積 143.5ha、水没家屋33戸となっている。

 昭和39年11月名張市に建設所を開設以来、 1.5ケ年で用地補償についてスピード解決が図られ、その後仮設工事、道路橋梁工事、ダム工事も4ケ年をもって竣工している。

10.比奈知ダム(名張川)の建設

 淀川水系木津川支川名張川は、その源を高見山地に連なる奈良県宇陀郡御杖村地先の三峰山(標高1235m)に発し、同村の東部山間地を北流し、三重県一志郡美杉村の西端を流下し、名張市の東端部に沿って北流し途中で流路を西に向け、名張盆地で青蓮寺川、宇陀川と合流する。さらに流れは山間を曲流しながら流下し、月ケ瀬渓谷を経て高山ダムに至り、大河原地点で木津川本川と合流する。流路延長62.0km、流域面積 615km2の一級河川である。中流部の名張市では年間降水量は約1500mm程度であるが、上流部の菅野では約2100mm程度である。



『比奈知ダム工事誌』

 比奈知ダムは、前述の昭和37年8月「淀川水系の水資源開発計画」に基づき、平成11年三重県名張市上比奈知に建設された。水資源開発公団比奈知ダム建設所編・発行『比奈知ダム工事誌』(平成11年)によると、比奈知ダムは次の4つの目的をもっている。

・ダム地点における計画高水流量1300m3/sのうち1000m3/sをダムに貯め、3000m3/sをダムから放流する。
・名張川の既得用水の補給等、下流河川の環境保全等のための流量を確保する。
・水道用水として、名張市 0.3m3/s、京都府 0.6m3/s、奈良県 0.6m3/sを供給する。
・三重県企業庁が新設した比奈知発電所で最大出力1800KWの発電を行う。
 ダムの諸元は、堤高70.5m、堤頂長 355m、堤体積43万m3、総貯水容量2080万m3、有効貯水容量1840万m3、型式重力式コンクリートダム。起業者は水資源開発公団(現・水資源機構)、施工者は佐藤工業(株)・日本国土開発(株)共同企業体、事業費は 952億円を要した。なお、補償関係は用地取得面積 149ha、移転家屋20戸となっている。

 比奈知ダムのコンクリート打設は、堤内構造物が多く、かつ内部コンクリートの割合が49%程度と比較的少ないため、外部コンクリート、構造物周辺コンクリート、内部コンクリートを同一の締固め方式で行う必要性から、合理化施工である拡張レヤー工法(ELCM)による施工がなされた。

 またダム周辺環境整備については「湖水にふれあうレクリエーション広場」の造成を目標として、自然環境、歴史、文化ポイントとして、下流親水公園、やなひろ文化財公園、長瀬河川親水公園などがつくられた。ダム周辺を歩くと、柔らかい丸みのデザインを重視して築造された比奈知ダムとこれらの公園とが一体化した景観をつくり出している。


[前ページ] [次ページ] [目次に戻る]
[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]