15.浅虫ダム(浅虫川水系浅虫川)の建設
|
青森県には、沢山の温泉が人々の観光と癒し場となっている。温湯温泉、落合温泉、板留温泉、大鰐温泉、黄金崎不老ふるさと温泉、大間温泉、恐山温泉、猿倉温泉、蔦温泉、酸ケ湯温泉、浅虫温泉などが人々に心身の安らぎやストレスの解消を与えてくれる。
浅虫温泉は、青森市中心地から国道4号線を上って約30分、JRでは浅虫温泉駅前で陸奥湾に面する。泉質はナトリウム・カルシウム、源泉温度73〜78℃、慢性消化器病によい。古い温泉として全国的に知られ、平安時代の終わりごろ慈覚大師が奥州巡度の折、傷ついた鹿が湯浴みするのをみて発見したという。その名称はかつて住民が温泉で織布の麻を蒸していたため「麻蒸」といわれ、後に火難を恐れて火に縁のある文字、蒸を嫌い「浅虫」になったといわれる。四季を通じ楽しめる。
浅虫温泉街の中心部を浅虫川が流れている。浅虫川は、青森市の北東部に位置し、その源を東津軽郡平内町との境界山稜(標高313m)に発し、西北に流下して浅虫温泉街を貫流し、陸奥湾に注ぐ延長5.0km、流域面積6.3km2の二級河川である。流域の年平均降水量は1500mm、積雪量1.5m前後、年平均気温は9.3℃と、夏期が短く冬期の長い積雪寒冷地帯である。浅虫川の特徴は流量変動が大きいこと、一方蛍谷という地名があるようにホタルやイワナやウグイなどが生息し、自然豊かな地域である。
|
|
|
|
浅虫川の水害は、昭和10年8月22日前線性豪雨、33年9年26日台風22号の接近に伴う豪雨により浅虫地域は大被害を受けた。そのため昭和38年度より計画高水流量30m3/Sの局部改良事業に着手し、治水安全度が図られてきた。しかし、事業中、40年7月豪雨による災害、41年1月の低気圧に伴う豪雨による(浸水家屋330戸)、44年8月の台風9号に伴う豪雨災害(浸水家屋170戸)などに伴って、毎年のように河岸の決壊、氾濫を繰り返してきた。
浅虫地区は、古くから「青森市の奥座敷」と呼ばれる東北有数の温泉地で市街化が著しく、地元住民から抜本的な治水対策が熱望されていた。このような事業の必要性から浅虫ダム(浅虫ほたる湖)は、浅虫川の青森市大字浅虫地内、温泉街の上流約1kmのところに、22年の歳月を経て平成15年に完成した。 このダムの建設記録として、青森県浅虫・駒込ダム建設所編・発行『浅虫ダム工事誌』(平成15年)があり、前述のようにダムは、主に治水を目的として造られた。この書からダムの目的、諸元、特徴などを追ってみたい。
|
|
『浅虫ダム工事誌』 |
|
|
|
その目的は、
・ 浅虫川の計画規模を1/30として、ダム地点の計画高水流量60m3/Sの全量を調節し、浅虫ダム地点下流の水害を防御する。 温泉街のため、河道拡幅による改修が望めない現状では、ダム地点計画高水流量60m3/Sを流下させることは不可能であることから、洪水調節はダム地点における計画高水流量の全量を左岸洪水吐トンネルから自然放流により直接陸奥湾に放流する。
・ ダム地点において、0.039m3/Sの流量を確保し、浅虫川沿川の動植物の保護や流水の清潔の保持を行うなど、流水の正常な機能の維持と増進を図る。
浅虫ダムの諸元は堤高9m、堤頂長215m、堤体積1.047万m3、有効貯水容量17万m3、総貯水容量30万m3、堆砂容量13万m3、型式は重力式コンクリートダムである。一方、洪水吐トンネルの諸元は、全長2050m、勾配1/190、半径3.55m、形状扇平馬蹄形、設計流量85m3/Sとなっている。起業者は青森県、施工者は鹿島建設、日特建設共同企業体、事業費は174億円を要した。なお、主なる補償関係は土地取得面積13.66ha、移転家屋4戸、鉱業権、漁業権であった。
|
|
|
|
(撮影:ふかちゃん) |
|
|
次に、浅虫ダムの経緯とその特徴をみてみる。 昭和47年度から予備調査が始まった。ダムサイトの地質調査が進み、53年にはダム型式を中心にアスファルト型ロックフィルダムに想定。
56年実施計画調査において地質調査が本格的に行われた。59年地下水追跡調査(トレーサー調査)や水質調査の結果、ダムサイト周辺の地下水は下流の浅虫温泉と密接に関連し、温泉水の元となる地下水補給に大きく関与していることが判明。このことから大規模ダムの築造は困難視され、小規模な越流堤と分水トンネル洪水調節とする基本計画を立案し、建設省の了承を受けた。
|
|
|
その後、地下水を遮断しない方式として、基礎岩盤に着岩した柱により支持されたフロ ーティング型式の重力式コンクリートダム、そして、ダム地点の洪水量を全量を陸奥湾へ直接流下させる洪水吐トンネル施工、堆砂容量を確保するために設けられた3つの貯砂ダムなど特徴のあるダム造りとなった。貯砂ダムの型式は重力式コンクリートダム、全堆砂容量は9万m3である。
平成2年に工事用道路の建設が始まり、5年3月JRへの委託区間の工事が着手、9年7月トンネル部全区間が貫通。11年国道4号交差部吐口工事が完成した。
ダム本体8年12月に着手し、9年3月基礎掘削、11年5月ダム定礎式、14年9月、竣工式、15年3月完成した。
三戸繁夫浅虫・駒込ダム建設所長は、『工事誌』のなかで、浅虫ダムの技術的な施工について、次のように語っている。
「ダム建設にあたり、工事中に温泉に影響が出ていないか週2回調査孔の地下水を観測確認し、またダムサイトが民家から100mと近接しているため騒音・振動等への配慮、さらに洪水吐トンネルとJR浅虫トンネルとの交差部はその間隔1.8mと極めて狭いため列車の安全走行を第一に配慮し、施工しました。ダム施工において、ダム工学会、技術賞を受けました。」
さらに、三戸所長は、完成したダムの住民における利活用について、
「浅虫ほたる湖と名付られたダム湖は海から1kmより離れていないため展望台から睦奥湾が望め、小鳥の憩い場となり、また、ダム湖一周道路は約2km程あり、地元住民、温泉客の散策及びジョギングコースと利用され、設置した多自然型魚道へはホタルを呼び戻そうとカワニナを放流、遡上してくる魚類も観賞できるように整備された。」
と、述べている。
浅虫川にはイワナ、ウグイ、ドジョウ、オキタナゴ、ドロメなどが生息しており高水敷の水路式魚道、アイスハーバー型の階段式魚道、ダム下流では木柵魚道が設けられた。
イベントでは、ほたる湖夏まつり、浅虫ダムを楽しむ一日、チャリティウォークなども開催され、市民たちの憩い場となった。
|
|
|
|
[次ページ]
[目次に戻る]
|